第25話 謎の爆発にて候
「一発ぶちかましたろか?」
レッドがバトンを握りしめる。
この子の案に乗ってみようか?
アブソリュート・ゼロ・マイナスと、ハートフル・セラピー・レインボー・エクスプロージョンと同時撃ち……。
時間的に間に合わないだろうな。
ならばここは一つ!
覚悟を決めて――――あれ?
「なんだ?」
「なに?」
声を出したのはナグールとあたしだけ。
ナグールは、あたし達マジカルキューティに背を向けた。
あたしも、そんな事にかまってられなかった。
「その」場所から、発せられる、――なんだ? この気配は?
「そこ」で、空間が歪んでいる。
球体がレンズの役割を果たし、背景が歪んで見えている。
オオォヲヲオォォ……
誰かの声か? いや、獣のうなり声か?
背中を汗が流れた。
額に手をやるとびっしょり濡れていた。
なんだ? あたしをここまで緊張させる「存在」とは、なんだ?
これがナグールの必殺技か? 新しいネクライマーか?
球体から棒状のゆがみが伸びた。
続いてもう一本。
先端が五本に分かれた。
手? 腕なのか?
オゥオ……オォオオーン……
ズドンと肺に響く音が同心円状に広がった。
マジカルキューティと12体の鎧ネクライマーが尻餅をつく。
耐えられたのは、あたしとナグールだけ。ナグールも表情に余裕がない。これはナグールの仕込みじゃないのか?
あ、レンズ状の球体にヒビが入った。
直線で走るはずの光が、曲線で走る!
ムォン!
世界がシェイクされる!
爆発した! 爆発と言っていいのか?
「キューティ・マジカル・ブラックウォール!」
「キューティ・マジカル・ウォール!」
レッドとブルーを真ん中に、身を寄せ合ってバリヤーを張る。
光と重力の暴発。
妹もバリヤーを張ったか。
さすが姉妹。二人のコンビネーションは抜群だ! もはや一心同体と言って良いのでなかろうか?
「まだ、バリヤーを解除していけない!」
一旦去った爆風が戻ってきた。二度目の衝撃。
これにも耐えた。
静寂はすぐにやってきた。
妹は固く目をつぶってバリヤーを張り続けている。
レッドもブルーは、……物言わず伏せている。生きてるみたいだ。
変身は解けていないけど、気を失っている。
……仕方ない事だ。二人とも、普通の女の子だからね。
何だったんだ? いまのは?
バリヤーは解除しておこう。
「ピンク! もういいよ!」
「ヒョー」
妹は、変な声で溜息をついてバリヤーを解除した。目がバッテンになっている。
可愛い! 可愛いよ妹!
おっと!
ナグールはどこに居る!
「え?」
周囲は更地になっていた。あれだけの爆発だ。瓦礫は全部吹き飛んでいて当たり前。
瓦礫が残っていたら……、
残っていたよ!
瓦礫というか、焦げた鎧ネクライマーがスクラムを組んでいた。たぶん、12体全部だ。
「ぬおー!」
スクラムをかき分け、中からナグールが出てきた。
何カ所かお焦げになっている。
狼男も生きていた。全身血だらけで息も荒いが。
12支鎧ネクライマーも活動を再開する。
だが、動きがぎこちない。
鳥なんか、片方の羽根がもげている。
相当なダメージが通っているようだな。
別の見方をすると、これほどの攻撃を食らっても、死には至らないという事か。
もう少し穿った見方をすると、今なら楽に12支を始末する事が出来るって事だ。
ナグールを守る為、自動的に突っかかって来るはず。
よーし、虐殺ターイム! ウリィー!
「貴様らぁー!」
目の上を切ったナグールが吠えている。
「撤退よ!」
いつの間に?
初顔の女が余計な命令を出した。色気過剰アラサー女。無傷なところを見ると、いまこの場所に現れたのだろう。
アラサー女の命令で、鎧ネクライマーがナグールを囲む。
正確には6体がナグールを囲み、残り6体が殿として2重の陣を敷く。
各ブロックごとに瞬間移動。どこへともなく消えていった。
「みんな大丈夫?」
妹がクズ共、もとい……レッドとブルーを介抱していた。
優しいな。全世界の人間共は妹を見習うと良い。きっと平和な世界が訪れるから。
先にブルーが意識を取り戻した。
「ブラック、あれ、何だったの?」
「新しい司令官でしょうね」
「そっちじゃなくて!」
「なんで、あいつら帰っていったんやろ? チャンスやったのに」
レッドも意識を取り戻したか。
「後を考えたのでしょうね」
解説はブルーの十八番だ。
「あそこまで強いネクライマーは、一朝一夕に作れるものじゃないわ。わたしの想像だけど、かなりの時間をかけて育成したのでしょう。ここで手駒を全て失うと、後々行動が縛られる。それを嫌がったんじゃないかしらね」
あれだけ強いのを持ってたら、内側に向け、権力抗争だとか、外側に向け、戦略だとか選べる選択肢は広い。
「大変な事になったニュ」
今回ばかりは、脳天気なUMAも、危機に気づいたようだ。
「これだけの被害、なかった事にするには徹夜ですまないニュ」
何とかできるんかい! てか、そっちかい!
「なあ、人が来る前にここから逃げようや」
「そうね、ややこしい事になる前に、姿を消しましょう」
これって、正義の味方の台詞じゃないよね?
――そして――、
邪魔をした、あの存在。
爆発の瞬間感じた、あの気配。
闇のマーゾックじゃない。光の精霊でもない。
邪と聖、相反する二つの力を感じた。
何者なんだ?
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