第23話 動物さんと踊るお姉ちゃん


「真剣白刃取りの極意!」


 せ、成功。危なかった!


 レッドとブルーは出来る子なので、そっちを見なくても良かろう!

 脳天唐竹割に繰り出した羊の一撃を 真剣白刃取りで受け止めているので、よそ見している暇が無い。


「ピンク! ここはお姉ちゃんに任せて、レッドとブルーの援護を!」

「はい! お姉ちゃんも気をつけて!」


 元気に飛び出していくピンク。

 武闘派のレッドとブルーが攻撃に専念し、ピンクの防御力で敵の攻撃を防ぐ。

 これがマジカルキューティの必勝パターンだ。


 ただし! サタノダークを相手にしていた時はである。


 あいつ、一回の戦闘で一匹しか魔獣ネクライマーを出さなかったからね。一匹を三人がかりで(途中から四人がかりで)戦闘(フルボツコ)すれば良かった。


 それが崩れたのは、マーゾン空間で、今は亡き三馬鹿幹部を相手取った戦いからだ。


 妹は一人。カバーできるのも一人。余った者は苦戦を強いられた。

 今回はそれの再現。


 勝手の違う新型のネクライマー相手だから、より具合が悪い。

 ここはあたしがさっさとピンクの羊さんを片付けて――、


「ヒャーッハー! 俺もいるんだぜぇ! ブラックさんよぉ!」


 狼男が飛びかかってきた。

 手で挟んだ羊の刀を狼が落下する予定軌道へ、ちょいと動かしてやる。


「あ、こら!」

 狼は、器用にも空中で回転し、軌道をずらした。


 あたしは、刀をずらした勢いを利用して、羊の首に向け蹴りを放つ。

 体ごと捻られてかわされたが、それでいい。距離を取りたかったからそれでいい。

 いつまでも両手を塞いでいるわけにはいかないからね。


 距離を取りつつ、バトンを取り出した。

 カゲール渾身の遺作。ピンクの柄の先っぽに黄色いお星様が付いてるファンシーな一品。


「ふふふ、とうとうこれを使う時が来たか。この時を楽しみに……いや、何でもない」


 ピンクのバトンを振り回す。妹とお揃いの色なんですよ、これ!


『使い方は、自分で探せ』

 それがカゲールの遺言だった。


 自分で探すともさ!


 バトンを八相に構え、ダーククリスタル、もとい。……光のパワーを注ぐ。

 ボゥっと柄に燐光が灯り、先端のお星様がまぶしく光る。 


 一方方向へ光が集まる。

 いよいよバトンの進化が発揮されますよー!


 光が形を成し、質量が生まれる。

 バトンが戦闘用に変形する!


 形作られたや光が、扇形に固体化し、刃物と化し……、

 刃物? 扇形の刃物?


 こ、これは、……斧と呼ばないか? 


 刃の部分がピンク?

 え? ピンクの斧?


「うわっ! ウワワワワーン!」


 ピンクの羊と真正面から打ち合う。

 打ち合って打ち合って、さらに打ち合うッ!


「おのれ、カゲール!」

 斧と刀、どっちの強度が上か試してやる!


「なんだこいつ、戦闘力があがったぞ!」

 狼男が愉快な仕草で飛び退いた。


 悪鬼羅刹と化したブラックキューティの前に立っていられる者などおらぬわ!

 斧の間合いは狭い。ピンクの羊は、長剣の間合いへと距離を取った。

 甘いわ!


「マッハコーン・アックス!」


 近距離で音速の斧が飛ぶ。

 さすが新型。刀で斧を受け止めて――刀が折れた。


 羊は刀に頓着しなかった。刀を捨てて、あたしの右へと回り込む。

 狼が、あたしの左へ回り込んだのを見てからの反応だ。


 やるな!


 しかしこちらは、攻撃の型を取り終えている。左右の手をクロスして。

 羊と狼が攻撃に転じるタイミングを先読みし、両手を広げた。


「マッハ・ブレード!」


 ギシン!


 羊の前面装甲に3本の縦筋が入る。2本、かわされた。

 狼は、そこに居ない。しゃがんで斬檄をやり過ごした。なんという運動神経!


「マッハ・インパクト!」

「ギャワン!」


 足が狼の胴に命中。

 もとより、音速回し蹴りとのコンビネーションだったんだよ!


「やるな!」

 狼が立ち上がった。


 手応えが軽かった。何らかの「技」でダメージを軽減したか。

 狼に向かって飛び出す、と見せかけてピンクの羊さんへ体当たり。


 クルクルクル。  

 目の前で回転しているのは、ピンクの斧。


 呼んでないのに帰ってきた。自動的に掴んでしまっている。恐るべき、魔法使い少女のバトン!


 斧じゃなくてバトン! 


「会心ッのッ一撃ッ!」

 狼の頭蓋骨めがけ、振り下ろす!


 羊さんが飛び込んできた! 胸部装甲にピンクの斧が食い込む。

 胸部装甲が分厚い。イラッと来たので、さらに斧を押し込んでやった。


 ドッタンガッシャンとバウンドする羊さん。こうなってしまったら、これまでの戦闘力は望めないだろう。

 

「捕まえた」

 狼の顔が笑っていた。


 斧を持つ手を掴まれていたのだ。


「プリンセス・デビュー・お一人様パーティ!」

 一定の範囲で地面が爆発。羊と狼が仲良く吹き飛んだ!


「ワギャン!」

 音波で敵を倒す怪獣か、お前は!


 右腕を押さえながら立ち上がる狼。怪我したのか?

 ピンクの羊さんも、下半身がよろついている。


 ……このくらいの攻撃ならダメージが通るのか。


「なんて出鱈目なマジカルキューティだ!」


 おお、あたしを見てマジカルキューティだと認識するとは! 


「そういう狼もひとかどの戦士と見た!」


 引きつった笑いを見せる狼。口の端だけを吊り上げる悪党笑いで返してやった。


「引くぞビー!」

 狼とピンクの羊さんは、綺麗に引いていった。


「呆気無さ過ぎる」

 思うところは色々あるけど、妹たちが心配だ。


 ザコ相手に時間をかけてしまった。妹と別れて30秒ほど経ったかな?

 妹たちは?


「キューティー・マジカル・レッドソウル!」

「キューティ・マジカル・マリンシャワー!」

 これはレッドとブルーの個人技!


 戦場と目星を付けた方角から、パステルカラーの爆発光が起こった。

 新型相手に、押し負けてないようだ。


 爆発があった地点へと飛ぶ。

 どーれ! お姉ちゃんが加勢してやろう!


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