第22話 牛と馬と羊とお姉ちゃんと
光の園で、緊急会議が開かれる事となった。
お題は「新しい敵の出現」について。
新しい敵が現れたのに、いつまで経っても話し合いの席がもたれないので、業を煮やしたブルーが強制的に開いたのだ。
開始早々、時節の挨拶を飛ばして本題に入った。
ブルーはせっかちさん、と。
「新しい敵が現れたました。考えて戦いタイプです。これは強力な敵となるでしょう」
「マジカルキューティもパワーアップしたのじゃ。恐れる事は無いのじゃ!」
「なぜ、恐れる事は無いと言えるのかしら?」
おやおや、ブルーの眼鏡が半透明になったぞ。これは、ブルーがイライラした時に起こる現象だ。
「なぜなら、我等が正義だからじゃ! 精霊神アルフィス様の加護を信じて突き進むのみ!」
長老は極右勢力さん、と。
「光が闇に負けるわけがないコロ!」
目力の強そうな光の精霊がテーブルの上に飛び上がった。ご丁寧に鉢巻きまで巻いている。
こいつは、長老の親衛隊長を自負している初出の精霊だ。
「疑ったら負けるコロ! 信じれば必ず勝利できるコロ!」
会議室に詰めた無象の精霊達が、そうだそうだと怪気炎を上げる。
ブルーの眼鏡は、完全に光を透過しなくなった。
仲間割れはいけないな。ここは一つ、あたしが丸く収めて見せよう。
「まあ待ちなさい」
あたしはすっと前に出た。
「勝利(ウイニング)之(ザ)虹(レインボウ)ゥ!」
「げふぅ!」
伝説のアッパーカットが、鉢巻き2頭身の顎を捕らえた。
無防備な姿勢で天井まで飛び、頂点の無重力を体感してから、自由落下体勢にはいる。
ずしゃぁぁ!
受け身を取らずに激突。
それきり動かなくなった。何やら、体液らしき物が広がっていく。
この惨劇を前にしても、悲鳴を上げる精霊は一人も居なかった。
さすが光の精霊ども。
「ふふふ……、こヤツを倒したからといい気になるな」
長老が片目だけを光らせつつ笑ている。そのスキル、本気で欲しい。
「ふふふ、こヤツは光の精霊の中でも、最強の男。どうしよう?」
「どうしよう」
「どうしよう」
同じ台詞がざわざわと広がっていく。一様に体をプルプル震わせている。
この場は平和裏に納めて見せたが、しこりは消えないのか。
レッドは苦笑いを浮かべながら、肩をすくめていた。
ブルーは……、
「あまり思い詰めない方が良いよ」
妹からナイスなフォローが出てきた。
この一言でブルーは破顔一笑。綺麗にしこりを――
「こんな連中の為に、貴重な10代を消費するなんて、ご免被りたいわ!」
おいおい、妹が優しく声を掛けてきたのですよ。そこは全てを許すところでしょう?
ここは姉として、光の戦士マジカルキューティのメンバーとして一言、言わねばならぬ。
「まったくもう! チームワークしか取り柄の無い――」
「チームワークが売りのマジカルキューティやのに、そんなんやったらあかんがな!」
おう! レッドさん、いまあたしが良い事言ってたのに! 横入りですか?
キッと音が立つような鋭い目でレッドを睨むブルー。
「マジカルキューティ3人のチームワークは崩れてないわ」
「あはは、間違ってるよ、4人だよ」
ブルーって時々数字を間違えるよね? 面白いよね?
「……4人ね。はいはい!」
えーと、なに? この疎外感?
いまいち腑に落ちないところがあるけど、まあいっか。あたしもブルー説得に回ろう。
「学園生活というのなら、今まさに我等4人が集いしこの時この旬かを宝石のような煌びやかな刻と感じませんか?」
しんと静まりかえった。
ブルーが顔を覗き込んでいる。
「風邪でも引いた?」
「なんで?」
「いえ、熱でも有るのかと」
ちょっと意味が分かりません。
「てかさ、あたしら仲間じゃん! 冷たい事言わないでよねぇ!」
肩に回した腕を面倒くさそうに外すブルー。腕を組んでそっぽを向いた。
「仕方ありませんね。見た目だけでも仲直りしましょう。お姉ちゃんとは生涯にわたって付き合っていく方が、何かと有利ですからね」
「ツンデレ?」
ブルーは激怒した。
「ニュッ!? マーゾックの気配を感じるニュ!」
斜め上の空を見上げるUMA。そっちに地上界があるのか?
「こ、これは、強い闇の力じゃ!」
「ブルーが言ってた通りでしょ?」
「これほどまで強い気は初めてじゃ。すまぬブルー。ワシらが甘かったのじゃ。許してくれ。これこの通り」
長老が頭を下げた。精霊達もしおらしく頭を下げる。親衛隊長は担架で運ばれたまま生死は不明だった。
現実を見てこそ、現実を知る。
「さあ、ブルー、あたしの胸ぐらを掴んでる手を離しなさい」
「ふん!」
ブルーがようやく手を離してくれた。すぐキレるんだから。
ツンデレですもんね。仕方ないよね。
「マジカルキューティ! 出動やで!」
レッドが先頭切って走り出した。
「なんちゅー事を!」
町は炎に包まれていた。
はたして、この町は、光の精霊のインチキ魔法でリカバリーできるのだろうか?
過去の経験により学習した我等マジカルキューティは、変身済みの状態で現場に駆けつけた。
最大の弱点は、これで回避できた。
「投げられる事も無いニュ」
それは戦闘の行方次第だ。
暴れているネクライマーはどこだ?
「あそこよ!」
真っ先に見つけたのは妹だった。
馬を模した鎧、というか、長い首の上に馬の顔を模した兜が乗っかっている。
人型をした馬、人馬? と言った方がピンと来るフォルムだった。
先っぽが三つに分かれた槍を振り回していて見るからに危ない。
鎧の色は赤紫。
背中に羽を生やしているが、長い獲物に三次元機動は要注意だ。
「あっちにもやで!」
レッドが差す方向。
羊の女ネクライマー。あの時のピンクのネクライマー。
日本刀っぽいのを下段に構えている。
馬と羊か。モチーフの共通点は、草食動物か?
「あの後ろにも」
ブルーも見つけた。
牛の角を生やした十字槍使い。女性らしいフォルムだ。
こちらの色はダークネービー。色分けしてるのね、こいつら。
間合いの広い槍使いが2体。接近戦用が1体。
えーと、馬と羊と牛か。……まだ出てきそうだな。3つってこと無いよね?
草食動物シリーズか、星座的な鎧とか?
「はっはー! マジカルキューティちゃん達、やっとお出ましかい?」
瓦礫の上で大声を上げているのは?
マーゾック特有の黒い戦闘服にハーフマント。ゴーランダー並の体格。
ただし、首から上が青い狼。
「俺の名はゲンバック=ヅツーキ様だ! マーゾック第2王子にして第4世界派遣軍司令ナグール=クライマー将軍配下、一の子分さあね!」
腕を組んで、あたし達を見下ろしている。
その傲慢な態度、すぐに後悔させてやろう。
「やっちまいな」
爪を生やした指をヒョイと動かす。それだけの合図で、3体の鎧ネクライマーが向かってきた。
3人のマジカルキューティ達に接触。振りかざされた武器は、バトンで受け止めている。
馬はレッドと。
牛はブルーと。
そして羊はピンクである妹。
「いや、ちょっとまて!」
羊の外見から想像も付かない剛剣が、妹の頭上に振り下ろされたのだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます