第8話 お姉ちゃん、殲滅戦をサービスする

 ゴーランダーとい筋肉バカを屠りさった。

 残るはサソリンダとカゲールの二人。


 レッドの方はピンク、つまり妹が張り付いている。

 こっちは、間もなく片が付くようだ。もちろん妹にダメージは無い。


 もし妹に毛ほどもダメージが通っているような事があれば、レッドとこの世界もろとも吹き飛ばした上、光の園を道連れに自爆してやる所存である!


 新たに得られた能力の8割を裂いて妹のモニタリングに費やしているから、その点、見間違いは無い。


「サタノダーク様にっ! 栄光あれー!」


 ドオォオーン!


 ほら、片付いた。


 攻撃に特化したレッドと、防御に特化したピンクの組み合わせは相性がいい。

 もっとも、一番相性がいいのは、姉であるあたしね。

 まるで貝合わせのようにねっ! オーホッホッホッ!


 レッドに肩を貸して、こっちへ歩いてくる妹の姿が見える。

 妹は優しい。そこに痺れる!


 あ、あたしもダメージ食らったふりをすれば……。


「さすがブラック。ゴーランダーも変身したんやろ? やのにノーダメージって、凄いね」

「いやちょっと、こう見えてボディー攻撃によるダメージの蓄積が……」

「凄いねお姉ちゃん! ノーダメージなんだね。すごいなー!」

「ふふふふ、たいしたこたーないわよ! もっと褒めて!」


 雑魚相手に苦戦なんかするはず無いでしょう? ましてやダメージを負う? なんてこと有るわけないじゃん!


 さて、残りはカゲールとブルー。


 ブルーが潰れれば、UMAも潰れる。あたしも困る事は全くない。毛ほども無い。

 むしろ戦いで弱ったカゲールの隙を突いてサクッと――。

 となれば、


「あっちはUMAも付いてる事だし、ここらで抹茶ミルクでも飲みながら――」

「ブルーとニュウちゃんを助けてあげて、お姉ちゃん!」

「待ってろブルー! 今ブラックが助けに行くわ!」


 ドン!

 1フレーム相当の動きだけで、ブルーの元へ跳躍。0フレームでも簡単なのだが、それをすると妹の目にあたしの勇姿が映らない。


 そしてブルーは!

 ボロボロじゃないか?


 カゲールは尻尾の長い鳥になって空を飛んでいる。

 上からの攻撃にやられ放題。


「いかん、対空防御!」


 ズタボロになって転がっているUMAを拾って投擲!

「マッハコーン! 役立たずブレットーっ!」


 鳥の胸筋に直撃! 翼を動かす筋肉が大ダメージを受けた!

「しまったっ!」


「キューティー・マジカルー・マリンシャワー!」


 あたしの身を投げた献身の攻撃により生まれた隙を逃すようなブルーでは無い。


「卑怯な! くっ!」

 錐もみ墜落。絶対に立ててはいけない音を立てて、地面に激突した。


「やったわ! はぁはぁはぁ! くっ!」

 片膝をついて荒い息をしていたブルーだが、残った力を集めて走る。

 あたしも走る。墜落事故現場に。


「サタノダークはどこ?」

 ブルーの第一声がそれだった。


 この戦いにサタノダークは出ていない。 

 しかしもう遅い!(確信犯)


「お、遅かったな。い、今頃、サノダーク様は、脱出……終わってる」


 致命傷を受け、身体が黒い粒子かが始まっているにも関わらず、目に力が残っている。

 むしろ、視線で射殺すかのよう。


「ゲスダム、が、ついている……逃げる事にかけて……マーゾック一、だ」

 ゲスダム? 知らない幹部か?


 三幹部による全力出撃。それは、ショタ……サタノダークが安全な場所へ逃げるまでの時間稼ぎ。

 魔獣ネクライマーと合体するという捨て身の技を使ってまでして、サタノダークを逃がすか。


「忠誠心にも程があるわね。反吐が出そう」

「ふっ、な、何を言うか。あ、あの方が生きてさえいれ・ば、わ、我等の代わりは、い、いくらでも、生み出せ・る」


 即答だった。あと、美形は必ず「ふっ」て笑う。

 ここで聞き流すあたしでは無い。徹底的にいたぶってあげるのがお姉ちゃん品質。


「違うわ。助かった命は、あなた達の犠牲の上で成り立ってるってことよ。それを何とも思わない子なのかしら? 苛(さいな)む子なのかしら?」



 口が回るカゲールにしては、ずいぶんと間が開いた。


「な、何とも思わ・ぬさ。私たち……お、思われる、よ、ようなお方に仕えた覚えはない!」


 最後のところだけはっきりと聞き取れた。

 カゲールの目から光が無くなる。身体が一気に黒い粒子となって消えていった。

 ゴーランダーと同じく風に乗って飛んでいく。


 この風はどこからどこへ吹いていくのだろう?


 闇の古里へ、闇の風が運んでくれるのだろうか?

 



「サタノダークに逃げられてしまったとすれば、あの城を調べるほかないわね」

 というブルー主張に、我等マジカルキューティは、ひねくれてねじ曲がった古木の体をした城とやらへ向かう事にした。


 マジカルキューティ達は、常時バリアーを展開している。そこでかなりのダメージを遮断できる。そのバリアーを超える攻撃を受けた際、活動エネルギーを消費する事で、肉体的な損傷を防ぐシステムになっている。


 残念ながらエネルギーには限りがある。最終的に残量がゼロになれば、変身が解け、無防備な身体をさらす事になる。

 見方を変えれば、変身が解けなければ、怪我は無い。

 疲れは生まれるがね。


 これが妹をストーキング……もとい、陰から見守っていて気づいたマジカルキューティの防御システムだ!


「みんな大丈夫?」

 後ろから付かず離れずの距離を保ちつつ、脱落者が出ないか注意する。


 皆の動きが止まり、視線があたしに集中する。

「な、なによ?」


「いや、想定外の言葉が聞こえたんでね」

 レッドが、ひらがなの「な」みたいな顔をしていた。


「訳の分からん……」

「まあまあ、広いお城の捜索なんだから、効率的に行きましょう!」

 ブルーがわざとらしく話の方向を変えた。これも意味が分からない。


「そうだニュ。とくにCDとかUSBだとか、小物にも目を配るニュ」

 このUMA、時々精霊らしからぬパワーワードを口から出すのな。


「お姉ちゃんはそういう人なのよ。だから――あ!」

 揺れた。


「みんな! 気をつけるニュ!」


 黒い大地にヒビが生まれ、城に向かって走る。

 直撃!

 城は3つに分かれて崩れ落ちる。


 その間にも地震が止まらない。

 いや、これは!


「地震じゃないニュ! 時空震だニュ!」

「この空間が潰れようとしているわ! 速く脱出を!」


 青いバトンを覗き込むブルー。なんらかのアナライザーが付いている事は知っていたが、ここまで便利な物とは想像つかなかったな。


「穴まで走るぞ!」

 レッドがブルーの腰を小脇に抱えて走り出した。

 当然、その先を走るあたしは、ドサマギで妹をお姫様抱っこしている。


「穴まで間に合わないニュ!」

 穴に間に合わなければ間に合わせるまで!


「穴よ、こっちに来い!」

 丸かった穴が縦に裂け、地割れのようにこちらへ近づいてくる。


「穴よ! お姉ちゃん穴が来た!」

「穴穴言うな! はしたない!」




 結果から言うと、全員無事だった。

 最後の走り込みで全エネルギーを使い込んだのか、気が抜けたのか――


 通常空間へ戻って程なく、妹たちの変身が解けた。

 空き地でだらしなく座り込んでいる。


 もっとも、妹のお姉さん座りは可愛くて見ている者を和ます効果が有るのだが。 


「ああ、結局マーゾックの手がかりがなにもつかめなかったニュ!」

「サタノダークも逃がしてもうたし」

「わたしがもう少し周囲の情報を探れていたら」

「わたしも。お姉ちゃんみたく、もっと強かったら……」


 マーゾン空間の毒気に当てられたのか、落ち込んでるのな。

 負のオーラが溢れている。

 特に妹の落ち込みが、見ていて切なくなる。


 ……こう、胃の裏がキュン! と酢橘果汁で締め付けられるような。

 どこまでも世話の焼ける妹である。(レッドとブルーは眼中に無い)


「おやおや、我々マジカルキューティの大いなる勝利をそんな目で見る事しか出来ないの?」

「ニュ?」

 UMA、お前じゃねぇ! 対象は妹だ!


「三幹部を始末し、マーゾン空間の一つを潰した。大いなる前進じゃない!」

 そういやそうだね。そんな目になっていく妹と他人の二人。


 よしよし、いい子だ。


「それに、先輩、イエローの敵を討てた。存念を晴らす事も出来た。これは偉大な先達への大いなる手向けよ」


 立ち上がるまではいかなくとも、背筋が伸びた。

 そうそう。

 弱いなりに、あたしが大いに手を貸した成りに、自信を持てばいい。


「もっと胸を張りなさい!」


 妹が胸を張った。

 その張り方がとても可愛い。肩幅狭い!






 今夜はこれで逝けそうな気がするー。


 

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