魔法少女のお姉ちゃんは変質者-とりあえず殺しておくか。

もこ田もこ助

第一章

第1話 マジカルキューティ♪ 華麗に登場!

 あたしは、今まで妹の戦いを影で見ているだけだった。

 こんなシーンになるまでは。


「お姉ちゃんが時間を稼ぐ! 早く変身を!」

「お姉ちゃん! わたし達の秘密を!?」

「わたしはお前のお姉ちゃんだよ! 何でもお見通しよ!」




 訳わからんでしょーから現状を説明しましょう!


 妹はこの春から、魔法少女マジカルキュー《ルビを入力…》ティとなった。

 3人グループの一人、キューティピンクに変身する。

 もといして……


 いわゆる正義とやらの名の元、シナモ的ぬいぐるみ風UMAに騙された犠牲者だ。

 姉として、UMAに、魂的な何かを搾取される運命だけは阻止しようと心に決めた。



 そんな事より――

 3人とも可愛いが、中でも妹はずば抜けて可愛い!


 バージェス動物群の中から頭一つ分飛び抜けてるアノマロカリス? みたいな?

 あたしの愛フォン5内画像ファイルは妹でいっぱいだ!

 みなさん仲が良いんで、お姉ちゃんは嫉妬でとりあえず殺しそうだよー♪


 もといして、――何度もの戦いの末迎えたクライマックス。

 いよいよ敵・マーゾックの幹部3人組が、協力体勢で攻めてきた。

 可憐で優しくて可愛い妹、……と、まあまあ可愛い方の仲間達による度重なる妨害に対し、業を煮やしたのだろう。


 魔法少女の変身前を狙う作戦だ。

 敵ながら見事な戦法と唸ざるをえない。むしろ、紳士的だった今までが不思議だった。


 3幹部を目の前にし、腹の底から声を発する!


「さあ来なさい! マーゾックども!」


「ふふふふ! ただの人間が、妾達3人を相手にすると?」

 こいつはサソリンダ。

 赤毛で片方機械眼帯の高ビー女。卑怯な手を使わせたらピカ一だ。


「美しき者に狼藉は働きたくないのですが……」

 こいつはカゲール。青いロングの美形。タキシード着用。入り組んだ作戦を得意とする。


「その意気や見事なり!」

 こいつはゴーランダー。赤い剛毛をチョンマゲ風に天辺で束ねたゴリマッチョ。力押しに特化した単純戦闘力は、残り2人の追従を許さない。


 詳細な分析と対策は済んでいる。

 電柱に隠れながら、ストーカー、もとい……。今までの戦い全てをこの目で見てきたからな!


「褒美にブチのめしてやるっ!」

 ゴーランダーが瞬発力を生かして飛び込んできた。


 腰の入った必殺の正拳付き! ゴウと唸りを上げて巨大な拳が顔面に迫る。

 わたしは慌てず騒がずバク転回避しつつ、ゴーランダーの顎を下から蹴り上げる。これ、腹筋すごく使うんだよね。


「ぶふっ!」

 吹き飛ぶゴーランダーの体。残り2人の方めがけて!


「きゃー!」

「邪魔だ!」

 3幹部が一塊になった。


 この攻撃は予期していた。

 バク転からの着地と同時に突っ込んでいく。

 集団戦は角から削れ!

 文字通り飛び出してるサソリンダの顎をサッカーボールキックで蹴飛ばす。


 一人抜け出したカゲール。羽手裏剣を構える

「お姉さん、容赦ありませんね?」

 何とでも言え!


 投擲された羽手裏剣。顔面に迫る!

 こいつの技も攻略済み。片手を突き出し、指の間で挟み込みストップ!

 手首のスナップを効かせて、元来た軌道を正確にトレースバック。カウンターだ。


「ぐぅ!」

 カゲールの肩に羽手裏剣が突き刺さった。よし、カゲールを抜いた。 

 息を吹き返し始めたゴーランダーの喉に膝を落とすダウン攻撃!


「お前、ほんとに人間か?」

 カゲールが訳の解らないことを叫ぶ!

 頭混乱しているのだな!


 よし、隙が出来た!

「今だ――」

「いまだニュ! 変身だニュ!」

 白いUMAに先を越された! 今それ言おうとしたのに!


 妹とその他2名は集まって、色付きの水晶球を取り出した。妹のはピンク、他の2人は赤色と青色。これが彼女らの変身アイテムなのだ。


「いくぞニュ!」

 いきり立つ白いUMAの頭を鷲掴む。

「おまえ、こっちな!」


「痛いニュ! 目に指が入ってるニュ!」

「だまりなさい! 妹を危険な世界へ引き込んだ者に痛がる資格はないわ!」


 指に力を入れた。ズブズブと食い込んでいく。こいつの頭、柔らかいのな(笑。


「指が脳に食い込むニュ! 変な幻覚が見えるニュ……ぅぅぅぅ」

 わたしの説得が利いたのだろう。UMAは静かになった。ビクッ、ビクッと四肢を痙攣させてはいるが。


 頭からダラダラと血を流しながら、サソリンダが上半身を起こす。しぶといやつめ!


「何度も聞くけど、あんた本当に人間か?」


 残り2人もヨロヨロと立ち上がってきた。

「人間の戦闘力じゃないぞ」


 ちっ! 無駄に頑丈なゴミ共め!


 妹たちの変身は? 

 まだ光の中でクルクル回ってる。

 ええい! 無駄な動きの多い!


「もうすこし付き合ってもらおうか!」 

 わたしは体を捻っていた。どこぞのピッチャーが得意とするトルネード投法に似た構え。


 一気に捻りを開放しつつ、気合いを入れるために技名を叫ぶ!

「マッハ・コーン!」


 投球に似た体の動き。ボールの代わりに放り投げるのは白いUMA。

「ニューっ!」


 肉体とUMAがぶつかる!

 腹に響く大きな音が発生!

 この音は、聞いたことがある。アメリカ空軍の飛行機がすげー速さで飛んでいったときの音だ。


 おおう! 3幹部共がボーリングのピンのように吹き飛んでいる(笑。


「このお姉ちゃんの笑顔が怖いニュ! マーゾックより怖いニュ!」

 ちっ! あわよくばと思ってたんだが、UMAの野郎、まだ生きてやがったか!


「レッドキューティ! 過激に登場!」

「ブルーキューティ! 華麗に登場!」

「ピンクキューティ! 可愛く登場!」


「「「マジカルキューティ! 変身完了! 悪い子は、お尻ペンペンよ!」」」

 シュタっと足音を揃え、マジカルキューティそろい踏み。


 やっと変身が終わったか!

 振り返ると、そこには白とパステルピンクを基調にしたフリルを多用した太股も眩しいミニのドレスを纏った可愛い妹の姿が!

 おおををを! いつ見ても可愛いお洋服ですこと! よく似合う! いいよ! すごくいいよハァハァハァ!


 ……あと、青いのとか赤いのとか、似合わねーの着てる田舎娘が邪魔だな。

 レッド、てめぇ! 妹のピンクと色の方向が被ってんだよ!

 ブルー、よくも妹をスカウトしてくれたな! 


「お姉ちゃん、ここは私に任せて、早く安全なところへ!」

 ああっ! 妹は優し子に育った! お姉ちゃんは嬉しいよ。


 ゴーランダーが歯を食いしばって立ち上がる。

「くっ! 貴様ら……うぐぐ」


 いつも余裕ぶっこいてるカゲールの息が荒い。肩が激しく上下している。

「ダ、ダメージは回復した。ネクライマーを召還するぞ!」

 体力はまだのようだな。


 協力という言葉から一番遠い存在のサソリンダが、彼女らしからぬ弱音を吐いた。

「こ、ここは3人で力を合わせようぞ」


 レッドが小声で話しかけてきた。

「なぁ、あいつら戦う前からダメージ負っとらんか? 痛て! 精霊の加護を受けてんのに痛い!」

 失礼な言い分に対する抗議のローキックをお見舞いしてから、お言葉に甘えて、後方へ避難した。


「みんな! 油断するなニュ!」

 いつも通りUMAの掛け声で戦闘フォーメーションを組む。こいつ、見かけによらずタフなのな!


 ここからはいつものパターン。ネクライマーという怪獣を生み出してマジカルキューティにぶつけてくる。

 ネクライマーというのは付喪神みたいなもの。

 今回は、WR250に黒い何かがとりついて生まれたバイク型ネクライマー。こいつぁ敵に回すと強そうな化け物だ。

 いつもと違う点は? と言われれば、仲の悪い3人が力を出し合ってネクライマーを生産したことかな? あと、UMAがヨロヨロしてるって事かな?


 あ、ネクライマーがひっくり返った。


「プリンセス・デビュー・パーティよ!」

 戦闘リーダー格のレッドが叫ぶ。


「みんな待つニュ! あのネクライマーは幹部3人のパワーが込められている、いわばネオ・ネクライマーだニュ。今こそマジカルキューティー達の最強技解禁だニュ! その名もハイパー・プリンセス・デビュー・パーティだニュ!」


 安直な新必殺技だな。いや! 安直でも妹が使えばキラキラ度も3倍だ!

「キューティ・バトン!」

 三者三様のバトンをどこからともなく取り出した。

 レッドのは……太くて艶々している。アバズレめ!

 ブルーのは、繊細だな。耐久性に難有りといったところか?

 麗しきピンクこと妹のは、ハートの飾りがくるくる回るタイプ。群を抜いて可愛い。ピンク色だし!


 あ、3幹部がしゃしゃり出てきた。いつもの展開に、自信を取り戻したのだろう。

 ……負けてるけどね。


「大技には隙が生じる」

「その隙を突けば、どうなるでしょうね?」

「我らの事を忘れては困るわね」

「あたしの事も忘れられては困りまするな!」


 隠れていた所から、姿を見せる。UMAを捕まえて投擲のポーズをとる。


「いかん! マッハコーンが来るぞ!」


 うろたえる3幹部。

 ゴミ共の動きがぎこちないものになった。

 よしよし、陽動は効いている。


「ハイパー・プリンセス・デビュー・パーティ!」


 複雑なシークエンスを完了した妹たちは、バトンを突き出す。不自然なまでにキラキラした必殺技がネオネクライマーにヒットする!


『ギョェエエェー!』


 およそ、魔法少女物に相応しくない性犯罪者的な悲鳴を上げて、ネオネクライマーは光の粒子に変化した。

 よし、決まった!


「ふふふふ、機は熟したようだな」

 初めて聞く声。新たなキャラクター登場か?


「ああん! サタノダーク様っ!」

 サソリンダが黄色い声を上げる。


 いつの間にか、金髪碧眼の美少年が、三幹部の前に立っていた。

 サソリンダってショタコンなのな……。


 はっ!


 いかん! ショタと言えば、妹の性癖も!

 これは……闇に葬らねばならぬ者が一人増えてしまったか?


「お、おまえはマーゾックの第3王子ニュ!」

 珍しくUMAがうろたえている。


 第3王子って……えらい中途半端なのな。


「光系の精霊か? これはこれは、ご機嫌麗しゅう」

 サタノダークとか、大層な名がついたション弁臭いショタが、貴族的な礼をとる。それかっこいいと思ってるの?


 ショタは、手に乗せた真っ黒なトゲトゲの多面体をこれ見よがしに掲げて見せた。

「これが、マーゾックの秘宝、『闇の光』だ」


「なにぃーっニュ! 伝説の『闇の光』は存在したのかニュ!」

 ニュニュとうるせえぞ、UMA! 解説有り難うよ、UMA!


 闇の秘宝とやらが、すっと流れて、ネオクライマーの発する光の中に突っ込んでいった。 


「ダーク・クリスタリゼーション! 自然の闇よ! 世界の闇の力よ! 集まるがよい!」


 四方八方から、黒いような紫のような、いかがわしい何かが漂ってきた。

 ネオクライマーだった者の残滓と混じる。


 おや?

 黒い粒子が拡散したと思ったら、反転し、中心部へ集まってくる。


 溢れる黒色の奔流により、中心がぶれ、ランダムに位置を変える。ある時は3幹部の前に。次の瞬間は妹たちの前に。力が凝縮される苦しさに暴れているのか?


 なんかやばい気配がするが、あれだけランダムに動かれたら打ち落としにくいな。


「ふっ! 引っかかったね、マジカルキューティのお姉さん!」

 サタノダークが子供のくせに大人っぽく笑う。目をつぶって。だから、それ格好いいと思ってんの?


 凝縮された光は暴れ回りながらも輝きを停止させた。逆に光を吸い込み始めたのだ。

 そしてついに、一欠片の黒い水晶体となった。


「これが僕の求めていた至高の力・黒水晶ダーククリスタル! 悪の凝縮体、純然たる悪、全ての闇の源! 黒水晶を手にした者が、絶対無敵の悪を行使できるのだぁー!」


 ショタが、両手を天に掲げカッコつけている。だから、それ格好いいと思ってるの?


「いけないニュ! あれに取り憑かれた者は、マジカルキューティであろうと、神であろうと、悪サイドに落ちてしまうニュ! ハイパー・プリンセス・デビュー・パーティでも倒せない怪物になるニュ!」


 ふーん、それは大変だな。


「闇の勢力の元、全世界は我等が支配する! 生けとし生ける者よ! 我等闇の一族に心を捧げよ! 貴様らに永遠の停滞を与えよう!」

 武力による人間社会の支配。それも超保守的!


「さあ、僕の元へ、黒水晶よ! 合体だ!」

 手招きするショタ。


 あのさ、手招きするのはいいんだけどさ……。


「僕の適合率は95%。三幹部でも45%。教えてあげるよ。黒水晶は、より適合率の高い者と惹かれ合うのさ」


 惹かれ合うのも良いんだけどさ……。 


 黒水晶って、わたしの目の前に浮かんでいるのよね。

 なんか、こう、こっちを見ているような、懐いているような……。


 ひょいと手を伸ばす。


「あ、こら! 一般人がそれに手を出してはいけない!」

「え?」

 理由を聞く前に、黒水晶が、わたしの胸に飛び込み、体の中へ沈み込んだ。


「馬鹿かお前! 今の話聞いてたろ!?」


 ドクン! 

 心臓由来でない鼓動。

 それは一瞬。


 何かがわたしの中で……。あ、愉快だ。なんか愉快になってきた。

 心が軽い。体も軽い。


 何でも出来る気がしてきた。今なら真理夫流ラーメンのチョモランマラードマシマシでも完食できそうだ!


 おやおや? 黒い霧のような粒子が体を覆いだしてきたぞ! あっはっはっ!


「え? 黒水晶を受け入れた? お姉さんの適合率は僕の95%を超えるというのか!」

「お姉ちゃんが適合者だったかニュ? なぜか驚きがないニュ」


 間抜け顔のショタとUMAがなんか喋ってるけど、そんな小さいことはどうでも良い。


「お姉ちゃん!」

 妹が顔色を変えて絶叫した。


 心配してくれているのかい?

 大丈夫だよ。お姉ちゃんは至って平静だ。いつもどおりのお姉ちゃんだぞ。



 ただ、ゴミ共より高位な存在となっただけだ。フフフ。



 ショタがゆっくり歩いて近づいてくる。


「これはおもしろくなってきた。キューティピンクの姉が悪堕ちか。お姉さん! 喜びに打ち震える事を許可する! お前は完全な自由者となった。その暗黒パワーを使えば、何でもできるよ!」


 なんでも?


「日本有線大賞をこの手にすることも!」

「それは歌唱力によるね」

「じゃ、有線話題賞」

「それくらいなら……じゃなくて、お姉さんは、反社会的な行動を思いつけないの?」


「ならば、明芯党の党首に国会でブーメランを投げさせるとか?」

「フフフ、可能だよ。できればスケールはそのままに与党を主人公に据えてくれれば嬉しいんだけどね?」


「今国会で、現総理大臣に自白剤を打ち込めるとか?」

「その辺で手を打つか……。そのとうり! 今のお姉さんなら簡単だよ! 傲慢、強欲、高慢、嫉妬、憤怒! 悪は良いよ! 誰もお姉さんに命令しない。法律や常識、歴史や宗教なんかに縛られないい。タブーを踏みにじろうよ! お姉さんは無敵だ! 誰も、どんな存在もお姉さんの邪魔はできないさ!」


 何でも自由自在? 何でも出来る気がしてきた。


「お姉ちゃん! しっかりして! 悪に負けないで!」

 妹が叫んでいる。悪に負けるなと。


 ……悪って何だ? 黒水晶を手にすることが悪なのか?


 いじめが普通に存在する学校が正義か? 自分の権力を固めることしか頭にない政治家が正義か? 売らんがために客を騙すのが正義なのか?


 違うな。

 

 今の世の中が矛盾している。

 不平等な世界。格差社会。富の集中。


 そんな人々の生活を守るため? 矛盾した社会を守ることが正義なのか?

 攻めるにしろ守るにしろ、正しいことはただ一つ!


「したくないことはしなくて良いんだ。やりたいことだけやれば良いんだ。さあ、お前の望みをかなえろ!」 


 それは――。うふふふ。

 自然と笑い声が出てきた。


「お姉ちゃんの笑みが怖いニュ」

 UMAを蹴り飛ばす。


「あたしの望み――それは――」

 髪が逆立ち、スカートの端が風に舞う!


「妹を守ることよーっ!」


 あたしを中心に、黒の衝撃波が同心円状に広がる!


「やっぱりお姉ちゃんはすごいよ!」

 妹いつ見ても癒やされる。――動じない所とか。


「おまっ! おまえ! よく考えて発言しろよ!」

 ショタが顔を真っ赤にして叫んでいた。


「よく考えたわ! だって、妹に何かがあったら……」

「死んでしまうと?」


「妹の使用済みパンティのウン筋付いた所をペロペロする事ができない。マラソン大開後の汗が染みついたソックスをクンカクンカする事も、もうできなくなる。2度と!」

 あたしの纏わり付いていた闇が、激しく渦を巻きだした。

 指向性に優れた発音法だったので、マジカルキューティには聞こえない。


「あたい、こんなのと同じ闇サイドなんて嫌だ!」

 やれやれ、サソリンダは後ろ向きな発言が目立つ子だ。


「そんなつまらない世界に用はないわ――変身」

 厳かに宣言する。


 霧のような闇が、腕を覆い、足を覆い、体を覆ってコスチュームと化す。

 ブラックのゴシックロリータ。デザインはピンクの白黒反転。


 そして叫ぶ!


「ブラック・キューティ。可愛く登場!」


 よし! これで妹たちの仲間ね!


「お姉ちゃんはマジカルキューティじゃないブニュッ!」

 心を忘れたUMAを踏みつぶし、ピンクキューティの登場ポーズを左右逆でそらんじる。こっそりと練習していた甲斐があった。


「どこをどうしたらそうなるんだぁ!」

「お姉ちゃんはあたい達マーゾックと同類だし!」

「むしろ私たちより純然たる悪でしょう?」


 三悪人が、世迷い言をほざいている。間違ってるのは、こいつらなんだが!


「食らえ! 正義の力! ハイパー・プリンセス・デビュー・お一人様パーティ!」

「え? 正義なのニュ?」


 えーと、えーと――足を踏ん張り、腰を落とし、手のひらを、こう、クイッっと返して三幹部の足下を至極簡潔に爆砕。

 紅蓮の炎と土砂が柱となって吹き上がる。


「全然キラキラしてねぇしー!」

 遠いお空へ吹き飛んでいく三幹部。ぽかんとした顔で見送るショタ。


 さてさて、残るはショタ一人。


 拳を小指側から握りしめ――。

「キューティ・悪鬼羅刹拳!」

「マジカルキューティは角張った四字熟語を使わねぇしニュ!」


「うぐぅ!」

 空気が揺らぐ。ショタのみぞおちを中心として。

 肉弾攻撃が来ると思わなかった?


 吹き飛ぶショタ。背中からビルの壁に激突。破片が飛び散った。


「ま、マーゾックの部隊指揮官を……な、なめてもらっては困る」

 よろよろと立ち上がてくるショタ。さすがだな。三幹部を従えるだけのことはある。


「次はこっちの番だね。いでよ! 我が配下! 三魔獣が一、天空のジーズ!」

「アンギャース!」


 何か現れたが、光の戦士マジカルキューティとなったあたしに、負けはない!

 気を高め、全身をキラキラで覆う。


「キューティー! クリスタルー――」

「お姉ちゃん、キラキラしたのも使えるのニュ。見直したニュ!」


 ワーゲンが縦2台並んだ大きさの、パステルピンク色の筒を形成する。相手が相手だ、対抗手段も大がかりとなる。


「――GAU-8・アベンジャー!」

「見直したボクが悪かったニュ!」


 VUOooooooo!

 毎分3,900発の劣化魔法ウラン弾が、ジーズを2.5秒でボロ雑巾に変えてしまった。




 さて、残ったのはショタだけとなったが、――この流れで行くと、リョナのタグを付ける事となってしまう。妹の手前、健全な教育の手前、それはまずい。


 どうしよう?

 こうしよう! 


「なあ坊や、こんな所でお姉さん達と遊んでいて良いの?」

「な、何だ、と?」

 なんだろうね? ショタが頬をピンクに染めて、あたしから視線をそらす。


「地球上に、地上の楽園と呼ばれる国がある……」

「むぅ?」


 幸せだとかイケイケ系の物事を破壊するのが闇の組織マーゾック。この手に乗ってこないわけがない。


「……衣食住の心配がない。労働者の天国にして、リベラル派(日本語で、方向の左の意味。英語は別の意味がある*要出典)の理想郷」

「それこそマーゾックの敵! どこにある国だい!?」


 ガッツリいただきました。


「きさまには38度線の北、などと口が裂けても言うことない!」

「ふっ! 僕の頭脳をなめないでよね。それだけ聞き出せば、探し出すのは簡単だ!」

「くっ! しまった!」

「ふふふ、悔しがってももう遅い! 己の口の軽さを呪ってるが良いさ! また会おう!」


 激しいエフェクトをぶちまけながらショタは姿を消した。

 ふぅ、これで少しばかり時間が稼げる。……2、3日だろうけど。



 

 マーゾックは、再び平和な日本を襲うだろう。

 でも安心してほしい。

 その日が来るまで、あたし達マジカルキューティ4人は、パワーアップしていることでしょう!


「何勝手なことを言って――ブキュル!」


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