第5話 お姉ちゃん、秘密の空間を探す

 アブソリュート・ゼロ・マイナス。


 それは、文字からも分かるように、絶対零度系列の破……もとい、魔法の一つ。


 そんな破壊兵……もとい、魔法がどうのような仕組みで発動するかは置いといて。

 絶対零度の状態に到達した物質がどうなるかは、有名なところ。


 そこを一歩進めて、絶対零度を下回る温度を作り出したのがお味噌。


 この状況に置かれた物質は、通常と違った物理法則に支配される。

 たとえば――、通常、物質は重力に従って落下する。ところが、絶対零度以下(アブソリュート・ゼロ・マイナス)の温度に到達した物質は、重力に逆らって上昇する。


 それを踏まえて!


 無限に広がる大宇宙にて――、

 先の理屈により、絶対温度マイナスの物質は、星間物質の重力に逆らって拡散してく。

 すなわち宇宙が膨張する、その理屈である。


 プラスの絶対温度の物質ばかりで構成された宇宙なら、重力に引かれ内側、あるいは一転に集中し、やがて宇宙は内側に崩壊してしまう。


 それを止めているのが絶対零度マイナスの物質。

 それがダークマターの正体である。いわゆる暗黒エネルギー。ただし、宇宙に生きる我ら幼い人類にとって、絶対に必要な存在!


 もといして、この性質を破壊兵器……もとい、魔法? の一つとして組み立てた? のが、「アブソリュート・ゼロ・マイナス」なのだ。


 以上、解説終わり!




 口を丸くしてる皆さん(UMAとブルー)と、眠たそうにしてる皆さん(レッドと妹)、ご静聴有り難う御座いました。


 こういったあたしの献身により、われらマジカルキューティ'Sは、かろうじてマーゾックを撃退し、こうしてレッドのお部屋に生きて集まれたのであった。


 ……レッドって、女の子らしくないのに、かわいい系のぬいぐるみが趣味なんだ……。


「なに’Sなんか付けてるニュ? 危うく世界が一つ無くなるところだったニュ!」

「加えて、変身前ですからね。変身したパワーでアブソリュート・ゼロ・マイナスを撃てば、地球が地殻崩壊してしまいますよ!」


 UMAと涙目のブルーから厳しい突っ込みが入った。

 ブルーって真面目だな。


 しかし、彼女らの指摘には間違いもある。あたしは新型盗聴器とか、もとい……。一般情報収集のため、科学雑誌の一つや二つは購読している。まるきりの素人じゃ無い。ここは訂正して、しっかりと釘を刺しておかなければならない。


「ベストコンでションで撃っても地球サイズの惑星は吹き飛ばせないよ。……お月様程度なら吹き飛ばせる自信はあるけど」

「それ駄目じゃん! 駄目な最終兵器じゃんニュ! 使用の際は十分な注意を求めるニュ! むしろ許可制にするニュ! あの騒ぎを無かったことにするのに、どれだけ苦労したか解ってるニュ!」

「んだとコラ? やんのかコラ?」


「まぁまぁ皆さん、落ち着きましょう!」

 妹の仲裁が入った。命拾いしたなUMAッ!


「お姉ちゃんの必殺技は許可制で決まりね!」

 妹が言うなら仕方ないなー。


「そんなことより、マーゾックの本拠地を探す手立てを考えよや!」

 レッドがまともなこと言っている! こいつ、脳にシナプスを持ってたのか!

 お姉ちゃんは見直しましたぞ!


「空間が歪んだ場所。暗黒物質が漏れているところ」

 ブルーが見分け方を列挙するも、一時停止した。これ以上、何か見分けるポイントがないかと考えているのだろう。


「理由もないのに不思議と動物が寄りつかない場所ニュ。あとは、10人が10人とも背筋に冷たい物が走る場所とかだニュ」

 動物の感性からの検知か。動物(精)霊ならではの感覚だな。


「でもね、この町は広いわ。たった4人でどうやって探すの?」


 ブルーは後ろ向きの発言が目立つ子だ。なまじっか賢いので、先が読めてしまうのだろう。

 ただし、自分の殻から抜け出ていない。判断材料が少ないことに気づけないのだ。


「それも……そうやね」

 元気が取り柄のレッドも意気消沈。


「地図を区分けして一マスずつ塗りつぶして……」

 妹もウンウン唸ってる。良いアイデアをひねり出そうと一生懸命努力しているんだね。良い子だ。その努力がいつか自分の力になるのだよ。


 よし、ここは一つ、お姉ちゃんが大人の女の実力を見せてあげよう。


「お姉ちゃんに一つ考えがある」

「どんな?」

 妹よ。キョトンとしたその顔、可愛いぞ。


「内緒だ」

「たぶん裏技だからみんなは正攻法で調べるニュ。痛い痛いニュ! 頭頂骨の接合部を開いてはいけないニュ!」



「みんなはみんなで頑張って探して欲しい。それじゃ、後で!」

 止められる前に部屋を飛び出した。


 最初は、我らが学舎へと向かって急ぐ。



 10分後には、旧校舎裏。飼育クラブなんていう薄暗いクラブハウスの裏手に立っていた。


「でよう、ナンコウのやつらまえばぜんぶおられてやんの! ヒャッヒュッュヒョッ!」

「トイレのタンクにコナをガムテでとめてたのみつかってやんの。たいがくだけですむってゆるくね? ヒャッヒュッュヒョッ!」


 そこには、やんちゃなファッションのやんちゃな男女が、だらしない姿勢で馬鹿話に花を咲かせていた。

 こいつらは、この学校の痴的支配者共だ。


「居た居た。お前ら、テンプレだな。ゴキブリか?」

 ズザッと靴底でコンクリを擦る音をさせて、全員があたしを睨みつける。


「なんだ、姉さんじゃないっすか、脅かさないでくださいよ!」

 ちなみに、とっくに全員締め終わっている。


「ちょいとこの間の借りを返して欲しいんだけどね。幾つかあるうちの、機動隊がらみのアレ」

 全員が青い顔をして直立不動となった。

 よしよし!





「昔はゲーセンなんだけど……ああ、居た居た!」

 探していたのはヤンキー。こいつらは、ここら辺の小さいヤンキー共を束ねる連中。まだ絶滅してないその生命力に驚きだ。


「ああ、あ、姉さんじゃないっすか! どどど、どうしてここが?」

「君たちさー、ほら、米軍がらみのアレ」

「なんでもご指示ください!」

 踵を鳴らして立ち上がり、右手の指をピンと伸ばして従順の姿勢を表した。





 次は族だ。

 こいつら機動力だけは良い物件なんだ。


「こないだの交通事故の件、示談してきてやったよ。ほら、右翼の宣伝カーに突っ込んでマイク握ってたオッサン入院させたあの一件」

「何でも申し付けてください」





 合計すると200人弱の動員数か。

 急いだから、こんなもんでしょう。


 おっと、そろそろ中間報告の時間だ。待ち合わせ場所へ急ごう。




 すでに三人は集まっていた。


「どない? 見つかった?」

 荒い息のレッド。脳筋のレッドの事だ。体力に任せて走り回ってたのだろう。


「その調子だと、そっちもまだみたいね」

 肩をすくめてみせると、三人はそろってため息をついた。


 と、その時。

 背もたれの付いた400のバイクが、爆音を奏でながら突っ込んできた。


「姉さん! それっぽいの見つけましたぜ! あ、可愛い子ゲヒャン!」

 とりあえず、妹に色目を使ってきたのでバイクごと蹴り倒しておく。


 バイクはアスファルトとの摩擦で火花を散らしながら、ホームセンターの集荷場に突っ込んでいった。


「大惨事だニュ」

「打ち所が悪かっただけよ」

 頭から血をダラダラ流している男を締め上げる。 


「さ、三丁目の、風呂屋と三味線屋の間の路地を入って突き当たりの板塀を乗り越えた先の空き地……」

 そこまで聞き出せば、もうこの男に用はない。


「気をつけて……ずっと前に、あそこの路地へ入っていって、帰ってこなかったJTが……」

「もう喋ってはいけない。おとなしくしてろ」

 首筋に手刀を軽く当て、安らかに眠らせてから、通行人の邪魔にならないよう、不法投棄された自転車群の向こう側へ、フレームの曲がったバイクと共に押し込んでおく。


「よし! 急ぐぞ!」

「応急手当だけはしておくニュ。お姉ちゃんと付き合ってると、この程度、たいした事に思えなくなってくるから不思議だニュ」

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