第11話 湯煙温泉騒動記-2
十数分であろうか?
余震に控えていたが、結局地震は1回だけだった。
かなりでかいのが1回だけ。
座敷童っぽい外見のナニカの窮状を裏付けるように、でかいのが1発。
1発だったのが逆に不安を駆り立てる。旅館の人たちの動きが止まったまま。何人かが、窓から外の揺れる電線を見ていた。
「これは、まさか火山性地震?」
さっそくブルーが溜め込んだ知識を披露しだした。
「なんで分かるの?」
妹は座敷童をしっかりと抱いている。うん、守ってやったんだね! 偉いぞ!
……怖がったら妹とスキンシップできる?
「……お姉ちゃんも不安で心細くて――」
「余震がなく、本震だけが発生。典型的な火山性地震ね!」
妹に抱きしめてもらおうとしてワザと怯えたフりのお姉ちゃんは無視かよ!
「何だあれは!」
外を見ていた客が大声を張り上げる。おなじく外を見ていた客の間に、ざわめきが走る。
「魔獣ネクライマー……」
旅館からは見下ろす位置にある。一段下の大通りに、ネクライマーが一頭。
直立したサイにモグラの腕。素体はユンボか油圧ショベルだろう。
それが窓越しにこっちを見ている。
妙に現実離れした風景だった。
「あきらかにわたし達を誘ってるやん!」
「いつも通り、人の目は僕が何とかするニュ。マジカルキューティ! 出動だニュ!」
それがスタートの合図。三人が飛び出した
妹の背中だけを守る為、あたしも飛び出そうとして――。
「なに?」
スカートの端を引っ張られていた。ちょっと、パンツが見えるでしょ!
つぶらな瞳があたしを見ている。
小さな口が開いた。
「妾は模糊根山の神……」
……地球由来の神、または八百万の精霊といったところか。
「二つの異界の神。どちらも滅してはいけない。どちらも生かしてはいけない」
ここで言う異世界の神とは、何を指す?
「頼むぞ、同胞よ」
同胞と言われてもナー。
幼女、いや模糊根山の神は、スカートを握っていた手を離した。
非常に迷惑を被った気がして果てしなく荷が重いが、いまは妹の安全確保が大事だ。頭を切り換えて、外へ飛び出した。
「でけぇな!」
三階建ての家ほどの高さ。外輪山の外側を背景にしたビジュアルは、もう怪獣だな。
やられる度に変形して強くなるタイプじゃないよね?
で、妹たちは……。
光の中でくるくる回ってるよ!
すでにネクライマーは攻撃のモーションに入っていた!
ピンチじゃん!
だからあれほど変身のタイミングには気をつけろと!
ドリルキックを封じたダルシムと思えと!
「変身可愛く登場キーック!」
変身と同時に跳び蹴りを繰り出す。
カウンタ気味に入った蹴りは、ネクライマーを転がした。
「ん?」
気配に気づいて、外輪山の側部分に顔を向け、目を凝らす。
遙か遠方。山に入ってすぐの所。
ショタか。
戦う気概は失ってなかったようだね。
「おっと!」
また地面が揺れた。小さいが揺れている時間が長い。
「レッドキューティ! 過激に登場!」
「ブルーキューティ! 華麗に登場!」
「ピンクキューティ! 可愛く登場!」
「「「マジカルキューティ! 変身完了! 悪い子は、お尻ペンペンよ!」」」
やっと変身完了か!
「こっちだこっち!」
巨大ネクライマーを押さえつけ、腹をボコっている。ちょうど抵抗と目の光りが無くなったところだ。
「とりあえずこいつ殺せ!」
「お姉ちゃんは風情が無いニュ!」
風情で戦えないだろうが!
「まあええから! チャンスに代わりあらへんから!」
レッドは現実主義者、と。
「現実を重視しましょう。ハイパー・プリンセス・デビュー・パーティよ!」
何かカチンと来るな。ブルーの言葉は。
「はい!」
妹は元気が良い! そして何より可愛いのが良い!
「「「ハイパー・プリンセス・デビュー・パーティ」」」
16色中8色使用。FM-16β並の光の洪水だ!
三人がバトンを振り下ろすと、目もくらむ鮮やかな光が螺旋を描きながら直進! ネクライマーの赤く腫れ上がった腹部に命中!
「ゲドロギャギャラァー!」
ネクライマーが浄化されていく。
「この時を待っていた」
その間にサタノダークが迫る。
マジカルキューティ、変身中に次ぐ第二の弱点。それは大技を打つ前と最中の大きな隙だ。
「偶然だな。あたしもだ」
繰り出された拳を左腕で受ける。
わずかに身体を反らして攻撃を斜め横へ流す。サタノダークの顔面にカウンターで拳を入れる。
それは読まれていたようだ。手応えが足りない。浮身の様な術でいなされたか。
直感を信じて足払いを出したら、これが上手くヒット。だが軽い。
サタノダークは縦に回転してこれをかわした。
こちらも蹴りを繰り出した勢いそのまま、もう片方の足を振った。
タイミングを外す事を優先し、バランスを崩したサタノダーク。頭から落下するも、片手倒立で受け身の代わりとする。
こっちが体勢を立て直し、攻撃に転じようとしたが、すでに距離を取られていた。
「なかなかやるじゃないですか、ブラックさん」
「殺気が感じられない攻撃だから、簡単にいなせる」
「殺気を出さないのはお互い様でしょう?」
サタノダークがヒョイと肩をすぼめた。
それきり、お互いの顔を見合わせたまま動かない。
「僕は、ブラックが欲しかった。僕の物にしたかった」
いきなり告白ですか!
悪の幹部らしい告白だけど、精神方面で危ない台詞だ。
「僕に従わせ、僕の側にずっと置いておきたかった。この気持ち、人間には分からないだろうなあ」
サタノダークは、あたしの目から視線を外さない。長い睫が小刻みに揺れている。
この気持ちだって?
人類にとって、そんなに難しい感情じゃ無いだろう?
それを単語で表せないと?
どうも理解できない。マーゾックといえど――
――あ、ああ! 理解した。
分からない気持ちを抱いているのは、サタノダークだったんだ!
「その感情を愛というのよ」
「愛!?」
驚いたのか、目を見開いたまま動きを止めた。呼吸も止まったかのようだ。
「まあその、愛されるって事は……アレだ……」
初告白? コクられた?
いやー、お姉ちゃん参ったな!
参ったついでに、シメておこうか。
「サタノダークは、あたしを幸せにした」
「僕が……、人を?」
これが闇の住人の光墜ちである!
「隙有りィィー!」
あたしは、膝蹴りを鳩尾にぶち込んだ。
「げふーっ!」
サタノダークは身も蓋もなく飛んでいった。
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