第14話 クラスメイト・八代健二の親友 桐島浩介の場合
「おはよう。健二」
「ああ、浩介か……おはよう」
いつものように通学路に面したコンビニで健二と合流する。
そして、これまたいつものように担任の悪口やらクラスの女子のことなんかを面白おかしく語り合っているのだが、今日は健二の様子が何となくおかしい。
俺の話に相槌を打つものの、やたらと周囲をキョロキョロ見回したかと思うと、はあっとため息をつく……そんな行動を繰り返しているのだ。
「どうした? さっきから周りを気にしてるみたいだけど」
「おっ、そ、そうか?」
「ああ。誰かを探しているのか?」
「うぇっ!?」
何の気なしに尋ねただけなのだが、健二の反応は尋常ではなかった。
あっという間に顔が赤く染まったかと思うと、目が世界的スイマー並に激しく泳いでいた。
「そ、そそそんなことはな、ないぞ!」
「いや噛みすぎだろ……」
長年の付き合いではあるが、こんな状態の健二を見るのは初めてだ。
気にはなるが、『深いことは訊いてくれるな』オーラを全身から放出しているのでとりあえずスルーすることにして。
「そういえば、お前、昨日アイツに何て言ったんだ?」
そう―――昨日の帰り道に偶然見かけた
あのときの健二の剣幕では相当キツイことを言ったに違いない、と思ったのだが。
健二はビクッと身体をこわばらせながら苦笑いを浮かべていた。
「えっ? あ、ああまあ、一応な……」
「何だよ、一応って……」
もしかして、相葉をギャン泣きさせてしまうくらいキツく言い過ぎてしまい、気まずく思っているのかもしれない。
思い起こせば、相葉がまだ男だった頃の健二は、何かと言うと相葉のことを毛嫌いしていた。
『毎日、誰とも話しないなんて何考えてるんだ?』
『何が楽しくて学校に来てるんだろうな?』
『おい、浩介もそう思うだろ?』
……と考えていると。
「お、おはよう。八代くん」
背後から女子の声が聞こえて、振り返るとそこにいたのは話題の人物である相葉だった。
照れたように頬を赤く染めて窺うように上目遣いである。
……あれ? 何で相葉があいさつしてくるんだ?
昨日、健二からガッツリ言われたなら、あいさつなんかしないで俺たちを避けると思うけど。
健二に目を向けると、健二の顔が上気しているような?
「お、おう……おはよう」
状況がイマイチ
「……昨日はどうもありがとう」
「いや……大したことじゃないから気にすんなよ」
「うん」
何だろう、妙にほんわかした雰囲気になっている。
……一体これは何なんだ?
◇
それじゃあね、と言葉を残して相葉は俺たちから離れていく。
健二はその後ろ姿をボーッと眺めていたが、横から見つめる俺の視線を感じたのか、俺たちも急ごうぜ、と慌てたように早足で歩き出した。
俺は逃がすか、とその後を追いかけて問いただす。
「お前、俺に何か隠してないか?」
「な、なんだよ」
「昨日、相葉と何かあったんだろ?」
「……別に何にもねえよ」
どうやら俺の予想は正しかったらしい。コイツは図星を突かれると急に不機嫌になるからな。
問いただそうかと思いつつ、俺たちはしばらくの間、お互いに黙ったまま学校へ向かった。
教室に入ると、相葉はいつもの親衛隊とか自称するメンバーに囲まれていた。
「薫さん、今日もめちゃくちゃ可愛いですね」
「そ、そんなことないよ」
「またまた~、今朝だってC組の男子に告白されてたでしょ?」
「うぇっ!? ど、どうして知ってるの?」
「ふっふーん。私の目は誤魔化せませんよ!」
相変わらずキャイキャイと賑やかなことだ。それにしても……相葉のヤツ、今日も朝イチで告白されたのか。
相手は相葉を元男と知らないのか、それとも知っていても気にしないヤツなのか……変な趣味のヤツもいるんだな。
それより、相葉のヤツは落ち込んだ様子が見えないし、昨日と全然変わってねーじゃん。
「おい、健二。お前、相葉にビシッと言って……」
普段と変わらない相葉の態度に業を煮やした俺が健二に文句を言おうとしたのだが。
「……っ!」
健二のヤツは険しい表情で相葉の方を睨んでいた。その目には憎悪というか怒りみたいなものを感じた。
「健二? おい、聞こえてるか?」
「あ? ああ、聞こえてるよ……」
今の相葉に向けた苦々しい表情を見れば、やはり昨日、きっちりと相葉に文句を言ったのだろう。
肝心の相葉から、今朝あいさつされたことに若干の違和感を覚えるが、まあこれからは健二のヤツが折に触れて
ただ、このときの俺はまだ健二がどういう気持ちで相葉を睨んでいたのかを知るよしもなかった。
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