第5話
いつもより早く寝たせいか、翌朝は目覚ましが鳴る前に起きてしまった。
一瞬、二度寝しようと思ったが、飛び起きてすぐに1階に降りて洗面所で鏡を覗く。
そこには、艶やかな銀髪はそのままで、目の下に薄くクマができてしまっている可憐な美少女の姿が見えた。
「はあ……」
次の日には戻っているんじゃないかという淡い期待があったのだが、それも霧散してしまった。
ただ、今日は幸いにも土曜日なので学校は休み。
この二日間をゆっくりのんびりと過ごして昨日の疲れを取っておこう、と部屋に戻る。
「お姉ちゃん?」
「は?」
部屋にはいつの間にか妹の遥がいた。
しかも両手を腰にあてて仁王立ちしてオレを睨みつけている。
というか、いつの間にか『お姉ちゃん』が定着している件……。
「オレはお姉ちゃんじゃない。それより何かあったのか?」
遥がオレの部屋に来るなんてしばらくなかったので驚いたが、まあ、兄妹とはいえ、年頃の男女がお互いの部屋を頻繁に行き来するのは何となく気恥ずかしいものがあるからな。
「お姉ちゃん、昨日お風呂入らなかったでしょ!」
「へっ!?」
「せっかく綺麗になったのに、ちゃんとお風呂に入らないとダメじゃない!」
「えーと……」
どうやら昨日、母さんと遥で盛り上がっているときにそーっといなくなったことが気に入らなかったらしい。
でも、昨日の時点でいざ風呂に入れと言われたら多分困っただろうな。
「というわけで、これからあたしと一緒にお風呂に入るよ!」
「ええっ!?」
何を言い出すんだこの子は?
「ちょっと待て。お前、自分の言っていることの意味分かってる?」
「分かってるわよ!」
「つまり、オレの前で裸になるということだぞ?」
「はっ!?」
はっ、じゃねーよ。
そんなことも気付かなかったのかよ……さすが母さんの遺伝子を引き継いでいるだけはある。
「だから、オレ一人で入るから。それでいいだろ?」
「ダメ!」
「はあ? 何でだよ」
「だって、女の子の身体ってデリケートなんだよ? 男の子のつもりで洗ったら肌が傷つくでしょ!」
「うっ……」
そうか、それはマズい。この姿がいつまで続くかは分からないから、きちんとした洗い方をマスターする必要がある。しかし、それには遥に教えてもらうか、母さんに手ほどきを受けるか、しかないのだが。
うーん、どうしたらいいんだろう。
「……分かったわよ。あたしが水着なら問題ないでしょ」
「そうか、その手があったか」
それなら問題なさそうだ。オレも精神的に楽だし。
「りょーかい。じゃあお願いするよ」
「任せなさい!」
頼もしくも胸をどんと叩く妹。けど、赤く染まった顔とギラギラした目に危機感を覚えるオレであった。
$ $ $
とりあえずオレが先に入ってから遥を呼ぶことにして洗面所に入る。
遥が言うとおり、身体は清潔にしなければならないということは理屈では分かるが、何ぶん女の子としての知識も経験も少ないので、自分の身体すら直視できないでいる。
つまり、服を脱ぐことを躊躇ってしまい、さっきから下着姿のままなのだ。
いかん、このままでは風邪をひいてしまう。それに遅れたら遥に盛大に怒られそうだ。
意を決してぱんつに手を掛けるものの、なかなか踏ん切りがつかない。
そうだ、目を瞑ろう。勝手知ったる我が家の風呂だし、見えなくても入ることが出来るはずだ。少し気が楽になったので、一気に下着を脱ぐ。
よし、今だ!
中に入ってお風呂用の椅子に座った途端、遥の声が聞こえた。
「ねえ、まだあ?」
「おう、いいぞ」
オレが返事すると、『お邪魔しまーす』と能天気な声とともに遥が入って……。
「おいっ!? 水着付けるんじゃなかったのかよ!?」
そう。遥のヤツは水着を付けないまま、つまり全裸だった。
「何言ってるの? お風呂で水着付けるわけないじゃん」
くっ、騙された……。
しかし、だからと言って今さらここから出るわけにもいかないし。
焦るオレをしり目に、遥は背後から暢気にオレの髪に触れている。
「わあ、すごく綺麗な髪……羨ましいわ」
「あのなあ、オレに裸見られても平気なのか?」
遥は今のオレほどでもないが、十分に発育している。
いくら妹とはいえ、オレの理性が……って、あれ?……
「どうしたの、お姉ちゃん?」
不思議そうにオレを覗き込む遥。ポヨンと背中に妹の胸が当たっているのが分かるのだが。
「……何も感じない」
さっきまで自分の身体すらも直視できなかったのに、今は遥の身体を見ても興奮しなくなっていた。
恐る恐る自分の胸を見おろす。
そこには男のときにも中々お目にかかれないほど立派な胸が存在しているのだが、全然いやらしく感じなかった。
ははは……もしかしてオレは気持ちまで女になってしまった……のか?
それは予想外だったけど、妹の裸に興奮して嫌われるという心配がなくなったことで安心した。そうなると、ゆっくりと風呂に集中できる。
「じゃあ、最初に背中を流すね」
「ああ、頼むよ」
背後でボディシャンプーを付けたスポンジをゴシゴシさせているらしい遥がオレの背中を擦り始めた。
「お姉ちゃん、すっごい肌が綺麗……」
「そ、そうか? でもオレはお姉ちゃんじゃない」
一応訂正するが、この姿じゃ誰も分かってくれないよな。
ゆっくりと背中を行き来していた遥の腕がやがて前の方へ移動してきた。
えっ? と思っていると、むぎゅっと胸を掴まれた。
「ちょ、ちょっと遥さん!?」
「うわあ、大きい……それに……はあはあ……」
背後にいるため、直接見ることはできないが、荒い息がオレの首筋に吹きかかってくる。
「お、お前何してんだ!?」
「何って、スキンシップよスキンシップ。どこでもやってることだよ」
「嘘つけ!」
女の子の裸には興奮しなくなったとはいえ、直接的な刺激は別のようで、これまで経験したことのない感覚が湧き出てくる。
「あれー、お姉ちゃんもしかして……感じてる?」
気配でニヤリと悪い笑みを浮かべているのが分かる。
コイツ、もしかして百合系なのか?
身体がじんじんと熱くなって気が遠くなってしまいそうになるが、何とか持ち直して。
「ていっ!」
「痛いっ!?」
涙目になりながらも遥の頭にチョップを見舞った。
オレが本気で怒っているのを理解した遥は、ごめんなさいと謝ってきた。
「もうそんな悪ふざけはするなよ」
「……はあい」
良かった……今回は何とか理性を保ったけど、この身体は何というか敏感すぎるということに気付かされたのだった。
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