第15話 後輩・橋田麗子の友人 坂下亜紀の場合
「あ~、何かムカつくっ!」
昼休みになった途端、前の席に座る麗子が振り向きざま言い放った。
いきなりの行動ではあるけど、彼女が何にムカついているのか、それははっきりしている。
「何なの、あの女!? いきなり高森のところにやってきたかと思ったら楽しそうに、手まで握って……」
彼女の視線の先には、今朝の美少女と
高森を睨み付けながら、怒り冷めやらぬ様子に、私ははあーっとため息をつく。
多分、麗子は自分の気持ちに気付いていないんだろう……いや、気付いているにしても結局、同じことを言うだろうけど。
「ちょっと……ほんのちょっとだけ私より可愛いだけじゃない。なのに
今の麗子を見ていれば、人間は素直が一番だということがよく分かる。
分かっていないのは本人だけ。私のほかにいつも一緒にいる友人たちは彼女の態度に苦笑いを浮かべている。
「まあ気にしない方がいいんじゃない? いくら美人でも相手は元男だよ」
「そうそう。気にするだけ損でしょ」
一応気を遣った会話を繰り広げる友人たちであるが、その表情には面倒くさいという文字が見え隠れしている。かくいう私も同じなんだけどね。
「そ、そうだよね? 気にしなくていいよね?」
「うんうん。ウチのクラスに麗子以上に可愛い子なんていないわよ」
友人たちの言葉に少しは気持ちが晴れたのか、普段の笑顔を取り戻しつつある。
なので、友人たちが麗子に機嫌を直してもらおうと次々とフォローする中、
「
私はつい、そんなことを言ってしまった。
「……心配? 心配って何のことよ」
一瞬にして不機嫌な表情になり、私に訝しげな視線を向ける麗子。その周りで、あーやっちゃったーという目で私を見る友人たち。
失敗を取り返すべく、私は慌てて言い訳を始める。
「ほ、ほら、あの子言ってたじゃん。『私の男の子の友達って高森くんぐらいしかいないから』って。だから、つまり……」
あれ? 地雷踏んだ?
言い訳するつもりが、問題の核心を突いてしまった気がする。
私が何か言う度に麗子の全身から黒くて冷たいオーラが吹き出てるんですけど。
「つ、つまりさ、二人とも相手は男なんだって確認したわけじゃん。だから高森があの女もどきと付き合うなんて……」
「ふーん……つまり亜紀はさ、私が高森をあの女に取られるんじゃないかという心配をしていると思っている訳ね」
はい、そのとおりです。
はあ、面倒くさい……何でこんなときだけ察しがいいんだろうか。
だってさ、やたら気位の高い麗子があの高森にそこまで
何がきっかけでそんな気持ちになったのは分からないけど、あの女が現れてからの態度はどう見ても嫉妬でしょ。
でもこの話を
「そ、そんなことないよ。大体、高森のヤツは何だかんだいっても麗子のこと気にしてるだろうし」
それは本当のことだと思う。
まあ、気にしてるといっても、『いつ
「べ、別に高森が私のこと気にしてても関係ないけどね!」
まあ高森がそう思ってるなら仕方ないかー、などと小さく呟きながら、うふふと
……出たよ、ツンデレが。
普段のツンだけじゃなくて、今みたいにデレたところを高森に見せてあげれば、うまくいくかもしれないのに。
小学生じゃないんだから、好きな子はつい
◇
はあ。
それにしても、さっきの子……相葉、薫と言ったっけ?
噂には聞いてたけど、めっちゃ可愛かったな。
もしあの子が本気で高森と付き合うことになったら、麗子なんて勝てっこないよ。
遠目で見ていた私ですら、思い出しただけでドキドキするし、最初に声を掛けられたマキなんて未だに顔を赤くしているもんね。
あの子と同じクラスにいる部活の先輩から聞いた話だと、嘘か本当か、入れ替わり後の姿はその人の性格とかが反映されるらしい。
ということは、あの見た目から考えると男だったときから性格がすごくいいってことになる。
『アイツはもともとぼっちだったし、俺はあまり話したことないから分からんけどな』と先輩は言ってたけど、そのときの表情はちょっと照れていたようにも見えた。
今までは麗子たちとそれなりに楽しくやってたけど、そろそろ私も独り立ちした方がいいのかも。
このまま残念な麗子を相手にしているのも疲れるしね。
そうだ。高森をダシにしてあの子……相葉さんだっけ? と仲良くなってみようかな。
これまでとは違った世界が見えるような気がするし、本当に性格のいい子なら、このまま女の子でも男の子に戻っても付き合えそうだし。
そう考えると何か楽しくなってくる。
こんなにワクワクするのは久しぶりだ。
さて、と。これから作戦を練らないと。
待っててね相葉ちゃん。
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