概要
戦乱の世が訪れるたび、必ず争いの的となる。
こたび、ここで語るのも、襄陽を巡る宋国と金国の戦の記録である。
主人公の名は、趙萬年《ちょう・ばんねん》という。
身が軽く騎射を得意とする、18歳の宋の武人だ。
趙萬年は、敬愛する義兄・趙淳《ちょう・じゅん》の率いる武装集団「趙家軍」の一員として襄陽に赴くが、圧倒的な大兵力を擁する敵軍の前に、籠城を余儀なくされる。
襄陽には兵力が足りない、食糧が足りない、矢も砲弾も足りない。
けれども、人々の知略と胆力があり、堅固な城壁と守り為す大河があり、地の利と人の和がある。
「オレたちは負けねェ! 死に物狂いでこの城を守れッ!」
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関連:
【漢文超訳】襄陽守城録―最前線に着任した
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- ★★★ Excellent!!!北方謙三先生に勝るとも劣らない攻城戦記。面白いです。
レビューとしては、登場人物の一人々々が、生まれの出自なり、郷土への愛着であり、親族への想いなり、作品中の行動の裏付けを持っている点を最もアピールすべきなんだろう、と思うわけです。
年甲斐も無く白状しますと、私はアニメファンでして、最初に熱狂したのは「宇宙戦艦ヤマト」でした。正確には、デスラー総統の呟きを聞ける映画版「愛の戦士たち」からです。
次に熱狂したのは「機動戦士ガンダム」。同世代の方には「あ、はんっ」と納得頂けると思いますが、勧善懲悪物には距離を置く人間です。視点を置く陣営は異なれど、敵方が100%悪人だと設定されると、嫌悪感を抱く人間です。
そんな読者からすると、本作品は非常に面白…続きを読む - ★★★ Excellent!!!敵は五十万!
本作は、歴史的事実をもとにしたエンターテインメント小説である。もとになったのは、『襄陽守城錄』という中国の古文書らしい。これは襄陽に攻めてきた敵軍五十万を相手に、守兵わずか一万で戦いを挑んだ守備軍の話であり、主人公の趙萬年は、『襄陽守城錄』の筆者であるらしい。
史実をもとにしていることもあるのだが、作者が中国の歴史に詳しく、描かれる舞台や情景にリアリティーがあり、読んでいるとまるで当時の中国にタイムスリップしたかのような錯覚を起こす。
また、古文書の記録には描かれていない、登場人物たちの生き生きとした動きや表情を、作者が創作してくれるため、挿入されるエピソードと、それにつれて紡ぎ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!十三世紀、漢江のほとりの町
中国の町を守る城壁は、とても分厚い。
中で人が住めるほどのサイズだ。
壁は、戦の歴史の証人だ。
この史実ベースの物語で、敵は分厚い城壁をあの手この手で突破しようと試みる。
町を守る兵たちは、天の時と地の利、人の和を集結させてこれを防ぐ。
救援のない、三ヶ月に及ぶ籠城戦。
周囲の城市が次々と陥落するなか、彼らは諦めない。
敵も味方も、カリスマリーダーのもと魅力的なキャラクターたちが奮戦する。
決して「正義」を語らず、己の信念で道を進む。
……彼らの拠り所であった城壁は、現在残っていない。
明代に作られた物が、川のそばに残っている。
三国志で有名な町なだけあって、観光地になっている。
近くを訪…続きを読む - ★★★ Excellent!!!これぞ、歴史を題材とした小説の面白さの神髄!
中国史マニアが高い確率で所有している書籍がある。
新紀元社『武器と防具 中国編』という書籍である。タイトルから分かる通り、中国の武器と防具を解説した書籍で、発行から30年近く経つがいまだにその価値は完全には色あせない。
この書籍の5章が『城』であり、攻城兵器と守城兵器を解説しており、銃火器以前の工作的なテクニカルな技術の集大成である城を舞台にした兵器のイラストと解説が、心を楽しませてくれる。
近年、同じ新紀元社『図解古代兵器』において、いくつかの城にまつわる兵器も追加で紹介され、これまた興味深い内容である。
しかし、それを題材として小説でこれほど面白く読む機会が来るとは思わなかった。
…続きを読む - ★★★ Excellent!!!時は南宋開禧二年──公称五十万の金軍を迎え撃つ孤城はどう戦うのか?
襲いかかる金軍は五十万と号する大軍、迎え撃つ襄陽@漢江河畔を守る軍勢はわずか一万、撤退やむなし超劣勢、守将・趙淳と愉快な面子は金軍の猛攻をどう凌ぐ?!
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以上、アオリでした。
さて、本作は楽しい超訳と中二な原文訓読(訓読文ってなぜか中二風になるのです)で人気の下記作品と密接に関わります。
『【漢文超訳】襄陽守城録―最前線に着任したら敵軍にガチ包囲されたんだが―』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884171637
こちらの超訳はラノベ風に読みやすいけど原文に忠実、つまり小説的な仕掛けは施されていません。搾りたて生(粗濾し)と申し上げてよろ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!この戦は大河の一滴――されど、血より濃い一滴!!
史実の籠城戦を元にした異世界ファンタジー? というか中華ファンタジー!!
物語は宋の時代。襄陽軍と金軍の戦い。キャッチコピーにある通り「籠城軍わずか一万、敵が号するは五十万!」という絶望的な戦いである。しかし、劣勢を強いられる襄陽軍はあの手この手で金軍を追い払い、必死の抵抗を続ける。
二つの視点から描かれ、その中で生まれる人間ドラマが本作の見どころなのだが、この物語で僕が一番注目したのは各軍の女性たちのドラマだ。
襄陽軍には大柄で男勝りな、旅翠。
金軍には許嫁の隣に立つお嬢様、多保真。
二人の女性が戦に関わり、男たちと関わりながら、戦の悲惨や厳しさを描いている。そして、三人目の女性の…続きを読む - ★★★ Excellent!!!男も女もカッコいい、その生き様に酔いしれる
わずか1万の兵が立てこもる城塞都市を50万の軍勢が取り囲む……
スケールは大きいながらも、限定された舞台設定。
その中に現れる様々な人物のひとりひとりに、雄大な歴史の流れに連なる太いバックボーンがあり、それが現れては過ぎる。その流れに身を委ねるかのような感覚を覚える作品です。
一見とっつきにくく難しそうに見えて、読み始めると止まらない魅力。一言一句に歴史の重みと情報量が込められているかのような分厚さが、出来のいい音楽のように何層ものアンサンブルもなって奏でられる、まさに叙事詩。
その上、作者さんのキャラクターに対する愛情が迸るかのように、とにかく人物がかっこいいのです。
彼らが立ち回り…続きを読む - ★★★ Excellent!!!戦って守れ。戦った、そのあとは。
南宋の城市・襄陽に、金国の大軍が押し寄せてきた。
趙萬年(阿萬)の属する趙家軍は、地元の兵力とともに籠城して戦う。
漢文超訳も読んでいたので、
西暦で言えば、1206年末から1207年にかけて、
三ヶ月間の戦闘だということは、読者の私は知っています。
しかし、この小説での趙家軍は、勿論そのことを知らない。
籠城がいつまで続くのか。自分たちは本当に勝てるのか。
考えてしまったら押し潰されそうな恐怖でしょう。
一方、攻める金軍も、敵地での戦がいつまで続くかわからない。
超訳は襄陽側の記録なので、襄陽が勝てば単純に喜べましたが。
暴力で支配する父に圧迫される道僧。
美しく苛烈な婚約者、多保真…続きを読む - ★★★ Excellent!!!心にふっくらしたなにごとかを残す、そういうことが大切。
いきなり最新更新に追いついてしまった。
一晩で50センチも積もっていく長岡の雪と格闘しながら、その合間合間に襄陽軍と金軍のそれぞれの土木工事の様子を読んで苦笑した。必死の攻防戦の中に笑いがあり、悲しみがあり、信頼と充実感がある。
私は厚いとばりのように降りしきる雪の中で、孤独な汗をかきながら雪の壁を崩し、黙々と水路へと運びつづけた。
春には解けて跡形もなくなる雪のために、一年のうちほとんど使ったことのない力を虚しく浪費する。しかし、それも人の生きざまのうちだと、なんだか心を軽くしてくれるものがこの物語にはあった。
でも、私のようなひねくれ者を素直にそんな気持ちにさせる読み物って、そ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!難しい漢字ばかり。だがッ!
「たぶん昔の中国のお話だろう。宋って書いてあるし」
そのくらいの知識で読み始める。
難しい漢字ばかりだ。
襄陽。ふりがながあるので読める。
趙萬年。ふりがながあるので読める。
趙淳。ふりがなが(略
宋を「たぶん昔の中国の国名」くらいの認識でいる私には地名も人名も、ふりがながなければ読めない。
難しい漢字ばかりだ。
だがッ!
難攻不落の城を攻める五十万の大軍ッ!
対する兵士はわずか一万ッ!
『死に物狂いでこの城を守れッ!』
なんて分かりやすく、なんて心惹かれる言葉で、しかも中身はなんて面白いッ!
登場するのは敵も味方も一筋縄ではいかない人物ばかり。
対立の構図は善と悪ではなく人と人。…続きを読む