これぞ、歴史を題材とした小説の面白さの神髄!

中国史マニアが高い確率で所有している書籍がある。
新紀元社『武器と防具 中国編』という書籍である。タイトルから分かる通り、中国の武器と防具を解説した書籍で、発行から30年近く経つがいまだにその価値は完全には色あせない。

この書籍の5章が『城』であり、攻城兵器と守城兵器を解説しており、銃火器以前の工作的なテクニカルな技術の集大成である城を舞台にした兵器のイラストと解説が、心を楽しませてくれる。

近年、同じ新紀元社『図解古代兵器』において、いくつかの城にまつわる兵器も追加で紹介され、これまた興味深い内容である。

しかし、それを題材として小説でこれほど面白く読む機会が来るとは思わなかった。

固有名詞やその時代の文化がよく知られた『三国志』ならともかく、それ以降、唐代や宋代を舞台にして、あの難解な中国史の記事をかみ砕き、それを中国史に親しみが薄い読者にまで面白く感じるように描くことの困難さは想像を絶するほどだからだ。

可能性があるとすれば、北方謙三氏の『水滸伝』シリーズのようにかなり創作が入った作品にするぐらいしかないのではと考えていた。

だが、氷月さんは、その困難を軽々と越えてきた。小説に対して野暮な史実からのツッコミを入れたがる歴史マニアの誰よりも、原文をよく読み、大事にし、時には忠実、時には踏まえた上で飛び越えてくる。

キャラクターも緩急をいれたストーリー作りも、読者への配慮も、激しい戦闘も、複雑な様々な兵器の解説も、時代の説明も、申し分ない高いレベルで実現している。

これを、あえて小説化して、兵器を題材にした歴史サイトの記事にしない氷月さんは、本当に小説を書くのが好きなのだと感じる。歴史解説記事の方が、手間がはるかに少なくて、閲覧数をそれ以上に得ることができることがあるからだ。

だが、歴史解説は知的好奇心は満たしても、時を忘れるほどに人の心を躍らせることも、忘れられないほど愛されることもない。

この作品を小説として、興奮できる面白さで、お書きになり、出会わせてくれた氷月さんに感謝を捧げたい。





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