一度で何度も楽しめる歴史小説が有する真の深遠さを味わえる作品!

歴史をテーマとした小説・漫画・ゲーム・映像作品を興じる時に、終わった時や巻数や放送の切れ目で新たに発行されるまでの期間にできる楽しみがある。

それは、ウェブで検索したり、歴史にかかる書籍を購入して、元ネタの事件や事績、人物について調べることだ。時にはそれで、先の展開や張り巡らせた伏線に気付くこともある。だが、それで興を減じることは少ない。そこまでに行く過程についてアレコレ予想したり、作者の技巧にうなったりできるからだ。

話しの展開による事情や作者の好悪による、人物や勢力への露骨な依怙贔屓や低評価に気付き、その歴史観や人物観を評価することも楽しみという人もいるだろう。

歴史を題材にした作品は、完全に読者の予想を裏切る展開となることが難しい代わりに、多重構造として何度も楽しめるという面白さがある。

色々なご意見があると思うが、よほど中国史や漢文に詳しい方以外は、私としては、同作者の「襄陽守城錄」を元ネタとした小説「守城のタクティクス」
(https://kakuyomu.jp/works/1177354054884546369)を先に読み終わってこちらを読むことをお薦めする。

その後は、気になる注釈だけを読みつつ、こちらの「超訳」をお読みいただければと思う。

こうして読めば、
①中国歴史小説(中華ハイ・ファンタジー小説?)として、いきいきとしたキャラクターが活躍する「守城のタクティクス」を楽しみ、
② その合間に注釈や当時の歴史について大まかに検索して背景を楽しみ、
③ 「襄陽守城錄」の超訳でその元ネタを知り、内容と「守城のタクティクス」の脚色をを楽しみ、(特に『天使』の扱いが秀逸!)
④ さらに注釈を読み返して、背景を楽しむ。
⑤ その注釈を元に調べて内容を楽しむ。

これだけではない。元から、歴史や漢文に詳しい人やこれで強い興味を持てた人にはまだ、続きの楽しみがある。
⑥ こちらの「原文」の訓読と注釈を読み、訓読の解釈をしながら、超訳のさらに元ネタを楽しむ。
⑦ 訓読と原文を見比べ、漢文としての訓読のパズルのような面白さを感じ取る。

という楽しみができる。

しかも、⑦までたどりつける方なら、ネットで検索した中国の史書を原文で読むことがかなり容易になっていることに気付くはずである。

これほど、多重構造で楽しめるようになっている作品は、私は他に知らない。現代では市販ではあまり提供されず、ネットでも三国志以外はあまり見かけることはない、中国史ものの小説が好きな人に読んでもらいたいおすすめの一作である。

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