第17話 ロクリアちゃんのアイディア
ロクリアちゃんがいろいろ考えている。ふと、口を開いた。
「ねえ、はかせ、今関数の合成に使った「◦」って記号あるでしょ。これってかけ算みたいって言ってたよね」
「うん、そうだね」
「それで、指数みたいに使えた・・・ってことはさ、もしかして、テトレーションもできないのかな?」
私はゾクッとした。これだ。この感覚だ。この感覚を共有できる人は真に私たちの世界・・・巨大数の世界にふさわしい。ロクリアちゃんは、その自らの感性で、巨大数への扉を開いたのだ。思えば、こんなことは大して役に立つことではない。私の部屋にあるほとんどのオブジェが役に立たないのと同じだ。しかし、なんだかおもしろそうだから魅せられる。それで十分だ。この世に生を受けた理由ですら、それで十分だ。
私はリディアさんに目を向ける。静かに微笑んでいる。
「ロクリアちゃん、どう思う?どういう式が関数のテトレーションにふさわしいと思う?」
「たぶん、
f^f^f^f(x)
みたいな式・・・だよね」
「ロクリアちゃんの言いたいことはすごくよくわかるよ。でも、この式だけではまだ定義が不十分だ」
「ていぎ?」
「式をどうやって計算するか、世界のだれがやってもただ一通りじゃないと困るよね。でも、この式だとふつうに考えたらうまくいかないんだ。たとえば、f(x)が仮に5という値だとしよう。
f^f^f^f(x)
にf(x)=5を代入すると、
f^f^f^5
という謎の式になってしまう。だから、実際には、
f^f^f^f(x)(x)(x)(x)
と書かなきゃいけないよ」
「なんだか変なの!面倒だし、省略してもいいんじゃない?」
「うん。そこで、世界中のだれが見ても、こう計算できる!ってわかることが必要だ。もちろん、
f^f^f^f(x)をf^f^f^f(x)(x)(x)(x)と定義してもいいんだけど、例えばテトレーション記号「^^」を使えないかな?」
「あ!思いついた!
f^^4(x)
っていうのはどう?」
「うん、お見事!これは完璧だよ。僕がまとめるね。
f^^n(x)を次のように定義する
f^f^...(fの数がn個)^f(x)(x)...(xの数がn個)...(x)
多少煩雑になっちゃったけど、でもこれでわかりやすいと思う」
「何か計算してみたい!」
「じゃあ、何か簡単な関数でやってみようか。たとえば、
f(x)=x+2で、
f^^4(3)を計算してみようか。お楽しみタイムだよ」
さて、各々が計算をする。リディアさんも、またメモ帳に何か書いている。不思議な人だな。さて、私も計算だ。
f^^4(3)
=f^f^f^f(3)(3)(3)(3)
=f^f^f^5(3)(3)(3)
=f^f^13(3)(3)
=f^29(3)
=61
ふう、なんとか普通の値に収まった。リディアさんを見上げると・・・とっくにメモ帳はしまって部屋を眺めている・・・問題を出したら5秒もかからず全て解いてしまうのか?
「みんな、結果はでた?」
「うん!61になったよ!」
「(3+1)2^4-3=61ですね」
不思議な声が部屋を包む。またリディアさんだ。
「f^^n(m)=(m+1)2^n-mですよね。とっても面白いと思います」
「あ、はい。そうですね・・・」
「でも、この発想が面白いのは、たぶん、f(x)がハイパー2演算、ハイパー3演算、ハイパーn演算と強くなっていったとき、この関数テトレーションの強さがハイパーn+2演算に相当する強さになることだと思います。これは、関数の合成が積→冪乗→テトレーションのように2階層増やしたことに相当していますね」
私はなぜか釈然としない感じを受けていた。リディアさんは、確かにすごい計算能力の持ち主だ。巨大数に関する直感も抜群だ。しかし冷静すぎて、巨大数の重要な要素の一つである「あまりにも大きすぎてビックリする。それを楽しむ」という感性が抜け落ちている。いや、むしろ、このレベルの大きさにはもうそんな感じを受けないレベルまで行っているのだろうか?私はいつかリディアさんすら驚愕する素晴らしいアイディアで、リディアさんの想像の範疇を超える巨大数を見せてあげたい、と思う。そう、私のとっておきのアイディア・・・関数同調グッドスタイン数列で。
定理11.
f^^n(m)を上記のように定義したとする。
f(x)=x+2としたとき、
f^^n(m)=(m+1)2^n-m
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