第6話 関数

 今日もロクリアちゃんが元気いっぱい・・・飛び込んでこなかった。

「はかせー・・・こんにちは・・・」

 声に元気がない。ちょっと泣きそうにもなっている。

「どうしたの?」

「なんでもないの」

 私はこういうときどうすればよいかわからなくて戸惑ってしまう。手持無沙汰で、傍にある地球儀をクルクル回転させる。

「何かあったなら言ってごらん」

「・・・ねえ、なんでみんなあんなに理解力があるんだろう?」

「なんのこと?」

「関数ってあるじゃん」

「うん」

「あれ、意味わからないよね?」

「うん」

「なのに、関数の問題、みんなどんどん解いていくんだよ」

「うん」

「わたしは関数ってなんなのか全然わからなくて、何もできなかった」

「うん」

「関数って結局式なの?グラフなの?ただの計算なの?方程式とどう違うの?っていうかそもそも式なの?数学なの?人生なの?こんなにわからないのに、なんでみんな分かったような顔して問題解いて満点取ってるの?こんな意味不明なものが理解できないってだけでなんで怒られなきゃいけないの?」

 まくしたてるように、でも声は高くならずしゃべりつづけるロクリアちゃん。

「関数について、教えてほしい?」

「もうイヤ!関数って響きだけでイヤ!なんか透明感だして金属的な響きしてかっこいいだろみたいな雰囲気だして、その割に意味わかんない!もう知りたくもない!!」

 こうなってしまってはもうどうしようもない。

「ねえ、ロクリアちゃん、ちょっとクイズしてみようか」

「なに?」

「あるお賽銭箱があって、50円入れると、次の日御利益があって、100円拾えます。100円入れると、次の日ご利益があって、200円拾えます」

「チョー便利じゃん」

「200円入れると、次の日いくら拾えると思いますか?」

「400円でしょ?」

「うん」

「簡単すぎ」

「ここの神様はちょっと単純だからね。じゃあこんなお賽銭箱はどう?

 このお賽銭箱は、50円入れると、次の日は御利益で25円拾えます。100円入れると100円拾えます。200円入れると400円も拾えました。ついでに1000円入れたら、なんと10000円も拾えます!」

「チョー便利じゃん」

「500円入れたら次の日いくら拾えると思いますか?」

「え、50円のとき半分になって、100円のとき変わらない、200円入れると倍拾えるってことだよね。あ、わかった、入れた金額の金額パーセント拾えるんだ。

 ってことは、500円の500%で2500円だね」

「うん」

「ちょっと難しい」

「そうだね」

「こんな計算高い神様いないよ」

「じゃあ、こういうお賽銭箱はどう?

 このお賽銭箱は、5円入れると29円、8円入れると491円、12円入れると5円、26円入れると13円、38円入れると29円、51円入れると1円、60円入れても何も起きませんが、75円入れると250円拾えます」

「難しすぎ」

「12円入れるといくら拾えるでしょう」

「わかるわけないじゃん」

「5円でしたー」

「えーーーなんで?」

「問題文読み返してみて」

「あのねーーー。。。」

「この神様はどう?」

「むちゃくちゃすぎ。なんか気分で天気とか決めてそう」

「そうだよね。でも、逆にいえば、一人目の神様は、二倍のお金返してくれるから、機械みたいかも」

「たしかに。神様だって生き物なんだから、ちょっと意味不明のほうがいいかもね?」

 ロクリアちゃんもすこし元気がでてきたようだ。

「ねえ、ところでロクリアちゃん、「はこだて」って漢字で書ける?」

「えー、ほこたて?それ「むじゅん」って読むんだよー」

「ちがうよ、土地の「はこだて」だって」

「わかってるわかってる、知識のロクリア舐めるなよ!」

 館函

「ロクリアちゃん・・・それ逆・・・」

「あれそうだっけ?」

 函館

「なんかおかしい気がするう」

「いや、これであってるよ。函って漢字、なんか箱に入ってるっぽいじゃん」

「たしかに?」

「「函」って漢字、「はこ」って読むんだよね」

「へええ」

「じゃあ、これはなんて読むでしょう」

 青函

「せいかん」

「せいかい」

「「せいかん」だよー!「せいかい」じゃないよー!辞書で調べてあげようか!?」

正解せいかいだよ!合ってるってことだよ!」

「あー、いま慌ててそう言ったでしょー」

「いやいやいやいやいや・・・ロクリアちゃんちょっと無理が・・・」

「揚げ足取るのはやめますねーー」

 嫌味っぽく言うロクリアちゃん。元気が出てきたようだ。

「ねえ、ロクリアちゃん。さっきのお賽銭箱さ、一つめのは、2倍、って名前がついててもよさそうじゃない?」

「すげー現金なお賽銭箱!」

「じゃあ、ご利益=2×寄付金っていうのは?」

「なんかすげー罰当たりなような。。。数で人の気持ちを決めちゃいけないよーー」

「この箱固有のさ、ある数が入ってきたら、ある数を出す、っていうのが、はこの数なんだよね」

「はこの数?」

「ねえ、ロクリアちゃん。次の文字、読んでみて」

 函数

「はこかず・・・?」

「音読みだと?」

「かん・・・すう・・・」

「うん、こういうのが関数」

「??」

「箱があってね、それぞれ固有の神様がいて、いくらくれたらいくら返してあげようかなーって決めてるんだけど、その決め事のことを関数っていうんだよね」

「じゃあ、y=x^2っていうのは?」

「x円お賽銭として寄付したら、y円の御利益があるって考えたときに、御利益y円=x^2円ってことかな、このたとえだと」

「でもさー、三人目の神様、てんでばらばらな御利益返してたよね。それでも関数なの?」

「うん。箱のなかに入れた数によって、出てくる数が常に一定だったらそれは関数だよ。でも一部の神様はすごくきっちりしてて、というかいちいち対応を作るのが面倒だから、

 x円いれてくれたらx^2円のお返しをしよう

 ってもとから決めちゃってるわけ。そうすると、毎回考えなくても、ちょっと計算すると御利益決められるから便利だよね」

「じゃあ、とんでもないルール決める神様とかいるかも!

 25円くれたときだけ1兆円くれまーす!みたいな」

「うん、もちろんそういう神様がいてもいいよ。でもさ、やっぱり多い金額寄付してくれれば多い御利益返したいでしょ?」

「まーそーか」

「そういう関数を考えよう。つまり、xが大きければ大きいほどyが大きい関数だよ」

「だいたいそうじゃないの?」

「いやいや、そんなことはないよ。こうなってる関数はごく一部だ。だけど、今はこういう関数を考えよう。こういう関数を単調増加関数という」

「たんちょうぞうか」

「うん」

「今日はこれ以上触れないけど・・・頭の片隅にいれといてね」

「はーい」

「それじゃ、また明日」

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