第2話 一歩進めてみる

「ねえ、はかせ、先生はいろんな進法のことをn進法って呼んでたんだけど、どういうことなのかな」

 新しいことを話そうかと思うと、突然こんな話が飛んでくる。ロクリアちゃんは、昔私が買ったよくわからない椅子の上に逆向きに座っている。本当によくわからない形状をしているので、なぜ買ったのかもよくわからない。

「うん、それはいろんな数の進法を考えることができるから、いろんな、ってところをnって置き換えたんだよね。だからさ、さっき111イチイチイチをいろんな進法で読むみたいなことができるんだよね。そこで、こんなゲームを考えよう。


 111からスタートする。そして、今は2進法である。なので、十進法なら7


 次のターンは、これを3進法に読み替える。そして1を引く。

 111-1=110

 110は十進法で表すと12


 次のターンは、さらに4進法に読み替えて、1を引く。

 110-1=103

 103は十進法で表すと19


 このように、次のターンになるとき、前のn進法をn+1進法に読み替えて、1を引く」

「おもしろそう!この続きやってみてもいい?」

「うん、やってみてよ、どうなるのかな」

「ええと・・・103を5進法に読み替えてから1を引く・・・102になって大きさは27だね。どんどん大きくなるのかな」

「さあ・・・どうだろう・・・もうちょっとやってみてよ」

「えっと、紙借りるね。

 6進法・・・101・・・十進法で37

 7進法・・・100・・・十進法で49

 8進法・・・あれ・・・

 ええと、100-1=77だね。ってことは、

 8進法・・・77・・・十進法で63

 9進法・・・76・・・十進法で69

 10進法・・・75・・・もちろん75

 ちょっとつまらないから飛ばしてもいい?」

「いいよ。数え間違いに気をつけてね」

「大丈夫!n進法のnと、今の数字を足すと、いつでも85に見えてるから、

 15進法・・・70・・・十進法で105

 16進法・・・70-1・・・あれ?これどうなるの?」

「そうだねえ、16進法は、

 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F

 の16文字で表すことが多いよ。

 A=10、B=11、C=12、D=13、E=14、F=15

 だね」

「ふーん。ってことは、

 16進法・・・6F・・・十進法で111

 111になるの、なんだかおもしろい」

「う~ん、たぶんこれは偶然かな?」

「でも、これどんどん数字大きくなってきて、いつまでやればいいんだろう・・・」

「そうだね、F=15だから、いっきに15ターン進めちゃおうか

 31進法・・・60・・・十進法で186

 32進法・・・5V・・・十進法で191

 Vは22文字目のアルファベットね。ここではV=31だよ」

「そっか、いっぱい進めれば、一の位は絶対減り続けるから、十の位も減るんだ。ってことはこのあとどうなるのかな?わたしやってみるね

 31ターン進めると、

 63進法・・・50・・・十進法で315

 64進法・・・4?・・・十進法で319

 たぶんアルファベットもうなくなっちゃったから「?」を置いてみたよ!

 さっきから、計算が難しいところって、2のn乗のところだね!」

「お、良いところに気付いたね!ってことは?」

「ってことは、次は、

 128進法・・・3?・・・十進法で511

 256進法・・・2?・・・十進法で767

 512進法・・・1?・・・十進法で1023

 1023進法・・・10・・・十進法で1023

 あれ・・・?512進法と1023進法のとき、数の大きさが同じだ!!不思議!!」

「そうなんだよね。10の位が1のとき、n進法のnが1大きくなっても、数の大きさは1しか大きくなってない。それで、1の位は1減るから、結局数の大きさは変わらないんだ」

「それで、この次は・・・

 1024進法・・・?・・・十進法で1023

 1024より1小さい数になるはずだもんね」

「うんうん」


 ・・・ここで不自然に10秒ほど沈黙が流れる。


「あっ!!」

 叫んだのはロクリアちゃんだ。

「2047進法になったとき、0になっちゃった!」

 ロクリアちゃんは楽しそうにノートに文字を書く


 2045進法・・・2・・・十進法で2

 2046進法・・・1・・・十進法で1

 2047進法・・・0・・・十進法で0


「どんどん大きくなったのに、0になっちゃうんだあ・・・」

「何ターンかかったかわかる?」

「2047ターンでしょ」

「ぶぶー。はじめは2進法から始めてるので、2046ターンでしたー」

「なによっ!人の揚げ足とると怒られるのよ!絶対やめなさい!」

 年甲斐にもなく、若いロクリアちゃんに説教される私。これだから私は間違いを正すのはいやなのだ。

「また明日来るからね!」


 怒ったふりをして帰るロクリアちゃん。そう、明日からが・・・グッドスタイン数列の始まりである。


 定理1.

 始めに7、二進法で111を与える。(第1世代)

 次のルールに従って世代を進める操作を続ける。

 第n世代に書かれた文字を第n+1世代ではn+2進法に読み替えてそれから1を引く

 すると、2046世代で0になる。

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