たくさん進んで一歩下がる

えのき

第1章 2つのグッドスタイン数列

第1話 n進法

「はかせーーーー!!」

 勢いよく部屋に飛び込んできたのはロクリアちゃんだ。暇なときにはいつも私の部屋に駆け込んでくる。私といえば考え事しかしないタイプの人間なので、こういう邪魔が入ることは非常に精神の健康に良い。

 部屋の中には地球儀、天球儀、その他立体オブジェがたくさん置いてある。若いころからの立体物コレクターが嵩じて、今となっては部屋のほとんどが埋まってしまっている。ロクリアちゃんに壊された二つのオブジェがわずかに部屋を広くしてくれている。

「どうしたんだい、ロクリアちゃん」

「今日ね、学校で二進法っていうのを習ったの。なんか変なんだよ!たとえば50を表すのにイチイチゼロイチゼロぜロって・・・」

「う~ん、50だったら、110010かな?」

「どーでもいいの!とにかくイチとゼロしか使わないの!それでね、よくわからないんだけど、50って110010って書けるんだったら、50と110010十一万十は等しいってことでしょ?でも、明らかに110010十一万十のほうが大きいよ・・・」

 こういう時にしっかり教えてあげるのは大人の役目だ。学校の先生しかり、両親しかり、間違わないように矯正するのが立派な大人というものだろう。でも私にはそんな役目はない。むしろ・・・

「じゃあロクリアちゃん。その110010十一万十を二進法にするとどうなるの?」

「え?えっと50?」

「いやいや、110010を十進法だと思って、それで二進法で計算するんだよ。言ってることわかるかなあ」

「あ!習ったよ!ええと、まず、2で割って、55005、あまりが無いから0を書いて、また2で割って、27502...1、あまりが1だから・・・」

 2分くらいで計算が終わった。こんな大きい数はやったことがなかったようだ。

「11010110110111010だ!」

 私は計算は苦手だ。ささっと関数電卓に打ち込んで計算する。

「その通り!ロクリアちゃんは計算が速いねえ・・・」

 ここで、少しばかりのいたずら心が生まれた。

「ロクリアちゃん、十進法、2進法以外にも、3進法、4進法ってあるよね?」

「うん、わかるよ!」

「じゃあさあ、たとえば、11イチイチって書いたとき、それぞれの進法だと、どういう大きさの数になると思う?」

「ええと・・・」

 ロクリアちゃんは表を作った。こういう時にすぐにまとめよう、と思う子は聡明だと思う。やはり私の仕事は間違いをただすことではなく、いろんな世界に連れて行ってあげることだ。ロクリアちゃんとならどこまで行けるか?そんなことを考えていると・・・


 11をいろんな進法で

 2進法・・・3

 3進法・・・4

 4進法・・・5

 5進法・・・6

 100進法・・・101

 TSUMANNAI


 111をいろんな進法で

 2進法・・・7

 3進法・・・13

 4進法・・・21

 5進法・・・31

 6進法・・・43

 100進法・・・10101

 ちょっとおもしろい・・・


 そうそうに11はつまらないとみてあきらめたらしく、111に切り替えている。そういうところも聡明だと思う。


「ロクリアちゃん、じゃあ、ちょっとこんなこと考えてみようか・・・」

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