関数同調グッドスタイン数列
第23話 音探しの丘
りーーーん
朝9:30。呼び鈴が鳴る。呼び鈴を聞くのは何日ぶりかな。滅多に鳴るものではないが、呼び鈴が鳴るということは・・・。
「はい、どちら様でしょう」
「わたくし、リディアです」
やっぱりリディアさんだ。実は順序数の日、眠ってしまったロクリアちゃんをリディアさんが迎えにきたのだ。そして、今日「音探しの丘」に出かけることになっていた。
「今日はいい天気でよかったです。お忙しいなか、こちらの突然のお誘いを引き受けて頂いて感謝しております」
リディアさんは丁寧にお辞儀する。
「あれ?ロクリアちゃんは?」
「ロクリアは今日は用事があって来れないそうです。それに、私はグッド博士と二人で音探しの丘に行きたかったんです」
なんということだ。リディアさんがこの私と二人で出掛けたかった?何かの間違いか。
「そうですか、準備は整っています。早速行きましょうか」
そして、家を出る。話題が持つのか突然不安になるが、リディアさんはすぐに話しかけてくれた。
「グッド博士、失礼ながら、グッドさんとお呼びしてもよろしいですか?これから音探しの丘に行くのに堅苦しいといけませんからね」
「ああ、もちろん、何とお呼びになってもいいですよ」
むしろありがたいくらいだ。
「グッドさんのお部屋、不可思議ですよね。たくさんの面白い物があって、見ていて飽きないです」
「そうですか、もう慣れてしまうと、なんでこんなものがあるのか、という感じですが。ところでリディアさん、不可思議とおっしゃいましたね。部屋のなかに、正千不可思議角形というものがあるのに気づかれていましたか」
「あら、気付きませんでした」
「ただの円盤に、正千不可思議角形とはよく名をつけたものです」
「千不可思議といえば、10^67で、無量大数に10倍及んでいませんね。グッドさんは、正千不可思議角形が実際にあったとしたら、その角は尖っていると思いますか?滑らかだと思いますか?」
「実際にあったなら滑らかでしょう。しかし、僕の頭の中では尖っています」
「とても素敵なお答えですね。では具体的には円との大きな違いはなんだとお考えですか?」
「正千不可思議角形の周の長さは最も長い対角線が1なら代数的数ですが、直径が1の円周の長さは超越数です」
「それもとても素敵なお答えね。でも、円周率が超越数であることはどのように?」
リディアさんのいたずらっぽい笑いをここで初めてみた。
「それは今ここでは厳しいのでは?」
「そうですね」
なんだか自然と笑いがでてきて、二人で少し笑いあう。
そうこうしているうちに駅に付く。
音探しの丘の最寄りまで620円だ。
電車に乗り込む。直通で行けるらしい。
向かい合いの席に座る。客はあまりいなくて、4席分を二人で使う。ふたりともリュックを隣の席に置く。
「実は、駅から音探しの丘まで、少し歩きます。音探しの丘の由来は、とても静かな丘で、何も話さず何も動かずに耳だけに集中すると、風の音、自分の鼓動、自然の音、などがいろいろ聞こえる、ということに由来しているんです。人工の音がほとんど聞こえない空間なんですが、でもやっぱり聞こえてしまうんです。でも、その音を聞いたとき、不思議な感覚になれるんですよ。まるで音の望遠鏡なんです」
そう言われると、少し気になってくる。そうか、人間の耳と脳は聞くべき情報だけを意識し、聞かなくてもよい情報は自然に意識から外れる。考えてみれば、自分の部屋でどんな音が聞こえていたか、よく思い出せないな。
ここから約30分、音についての話でもりあがる。話題は人間の内的聴感覚、音響学、特に自然倍音列と部分音、またはフーリエ変換。
そうこうしているうちに、目的の駅に着いた。
リディアさんと並んで歩く、すこし気まずい気分になるかと思ったが、予想外に話が続くので、全く不快になることはなかった。
「どのくらい歩きますか?」
「そうですね、5kmくらいです。ずっと登りですが」
おっと、5kmか。まあ、昔は何kmも重い物を背負っては変な物を買い漁っていたんだ。それくらい、なんてことはないだろう。
さて、リディアさんについて歩いていく。すぐに森の入り口にたどり着き、音探しの丘の看板があった。どうやら森の中を歩いていくらしい。歩きやすい格好とは言われていたが、なるほどねえ。
「それで、グッドさん、ロクリアにグッドスタイン数列の話をされたとか。私にその話の続き、聞かせて頂けませんか?」
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