第19話 パラドックスの結論
少しの沈黙。
ロクリアちゃんもリディアさんも何も喋らない。
「さて、ここで大事なのは、2^nと3^nは、nが小さいときには絶望的なほど大きさが離れていったのにも関わらず、nがものすごく大きくなると、いつのまにか大きさとしてはほぼ同一視できるようになることだよ。
もう少し言い換えれば、単調増加し、発散する(どこかで頭打ちされず大きくなり続ける)ような2つの関数f(x)とg(x)において、xが十分大きければ
f(x)≒g(x)
ということを言っている。ただし、これは定式化はすごくしにくいけどね*」
「うん、わかったんだけど、指数が小数になるところがよくわからない」
ロクリアちゃんが久しぶりに口を動かした。
「それはやっぱり対数という概念が必要になるなあ、、対数自体はそんなに難しいものじゃないけど、今は省略していい?」
ロクリアちゃんは少し不満そうな顔をしたあと、リディアさんの方を見る。リディアさんはそれを受けて、
「いいと思いますよ。順序数はロクリアも知っているようですし」
「なんで順序数なの?」
ロクリアちゃんは、置いてけぼりにされた、といった感じだ。実際なぜここで順序数の話が出てくるんだ。まさかリディアさん・・・。
「ねえ、グッド博士?」
ここまで言われてしまえば仕方ない。そして、リディアさんを巨大数で驚かせるのはほぼ不可能だということを悟ってしまった。アレを知っているなら関数同調グッドスタイン数列でも厳しいかもしれない。しかし、さらに今研究中のアレを使えば・・・。
「ねーねー、はかせ、どういうこと?」
「わかったよ。伝家の宝刀「急増加関数」の話をしよう」
「きゅうぞうかかんすう!」
「でも、今日はたくさん話したし、明日以降でもいいかい?」
「う〜ん、仕方ないなあ」
「あの、私も伺ってもよろしいでしょうか」
え?リディアさん、明日以降も来るの?
「え、もちろん良いですよ。こんなところですが」
「ありがとうございます。ではロクリアは先に帰ってなさい。私はグッド博士と少しお話したいの」
えっ、お話??
「はーい、また明日ね!」
また明日、うん、また明日からロクリアちゃんが居る日々が始まるんだ。いつもの日常。続くことに感謝しなければ。リディアさんはよくわからないけど。
「それでリディアさん、お話とは」
「いつもロクリアからグッド博士のお話を聞くんです。それを聞くたびにいつか私もグッド博士のお話を伺ってみたいと思っておりました。今日グッド博士のお話、とても面白かったです。いつか、私と巨大数のお話をしましょう」
「それはありがたいことです。願ってもないことですが・・・」
「巨大数のお話は紙と鉛筆さえあれば、どこでもできますからね。もっと自由に、大きいものを感じられるところでお話しましょう。自然は、私達が10^100と簡単に押さえてしまうものより、もっともっと大きいものですよ」
やっぱりリディアさんの人柄も性格もつかめない。一体何をしてる人なんだ?
「また明日伺います。失礼します」
結局、何を話したいのかわからないまま、リディアさんとの会話は終わった。
*筆者は、巨大数のパラドックスは次のような式で表現できると考える。
任意の発散する単調増加関数f(x)とg(x)に対して、正の実数全体に定義された単調増加関数h(x)が存在し、任意の正の実数εに対し、あるMが存在し、全てのxに対して、
x>Mならば、f([h(x)])≦g([h(x)])≦f([h(x+ε)])もしくは、fとgを入れ替えた式が成り立つ。
ただしここで[x]は床関数
これは、ある強い関数hがあれば、xが十分大きいところではhに入力するxのわずかな差がfとgの関数の強さの違いを無視できる、ということである。例えば
f(x)=x
g(x)=2^x
とする。ここで、
h(x)=2^^^x、ただしxが整数でないときは、各整数の点を順に直線でつなぐ
と定義すると、
εをたとえば0.01ととったとしても、M=3とすれば、x>3、例えばx=4をとると、
(2^^^4)<2^(2^^^4)<(99(2^^^4)+2^^^5)/100
が成り立つ。
この時、
左辺=2^^2^^2^^2
=2^^2^^4
=2^^65536
中辺=2^2^^65536
=2^^65537
右辺=(99×(2^^65536)+2^^(2^^^4))/100
>2^^(2^^^4)/100
>2^^(2^^65536)/100
>2^^(2^^5)/100
=2^^(2^2^65536)/100
>2^^65539/100
>2^^65538
同様に、x≧5の時も成り立つ。
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