第16話 関数の合成
「まず、関数についておさらいしよう。関数は、お賽銭箱みたいなものだったんだけど、もうちょっと式に適した形にするために、
f( )
という記号を用いよう。
これは、fがいくら御利益を返すかを決めている神様、( )が箱だと思ってくれるとわかりやすいと思う。たとえば、
f(2)
なら、fという神様に、2円寄付した、というような感じだ。
fというのは、functionの頭文字で、別にこの記号じゃないと関数にならないわけじゃない。たとえば、fの次の文字gを関数にすることもよくある。
g(3)
なら、gという神様に3円寄付した、というような感じだ。
じゃあ、f神に、2円寄付したら5円御利益があったとしよう。その場合は次のように書ける。
f(2)=5
g神に5円寄付したら10円御利益があったとしよう。その場合は、
g(5)=10と書ける。
じゃあ、わらしべ長者みたいに、f神に2円寄付して、返ってきた御利益をそのままg神に寄付したとしたら、
g(f(2)) ...①
という式になるのがわかるだろうか?
まず、
f(2)=5
だから、これを①に代入すると、
g(5)
だ。g神に、f神からもらった5円をそのまま寄付していることがわかるね。
結局
g(f(2))=g(5)=10
ということがわかる。
ところで、見やすさのために、
g(f(2))
を
g◦f(2)と書くことにしよう。fの関数に入れたあと、gに入れた、という式だ。
気を付けたいのは、関数に入れる順番は右側から、ということだ。
ところで、関数の合成には次のような法則が成り立つ。
3つの関数f,g,hにおいて、どのようなxに対しても
h◦(g◦f)(x)=(h◦g)◦f(x)
左側の式は、h(g◦f(x))という意味で、
右側の式は、h◦g(f(x))という意味だ。
これを結合法則という。結合法則が成り立つのは簡単にわかる。どちらの式も、
f、g、hという順番で操作するからだ。結合法則が成り立てば、自然に
h◦g◦f(x)
と書ける。誤解の恐れはない」
ロクリアちゃんはふんふん、と聞いている。リディアさんはただ微笑んでいる。この人、ここにいて楽しいのかな?
「ただし注意が必要なのは、必ずしも
f◦g(x)=g◦f(x)
は成り立たないということだ。例えば、f(x)=2x+1、g(x)=x+1みたいな簡単な関数でも、
f◦g(2)=f(3)=7
g◦f(2)=g(5)=6
と成り立っていないことがわかる。関数の合成に交換法則は成り立たない、とも言える。
じゃあ、文字の順番だけ気にすればいいことがわかったので、同じ関数を合成することを考えよう。
f◦f(x)
のような式のことだ。もし◦という記号がかけ算のように見えるのであれば、自然に
f^2(x)
という記号にしたくなる。つまり、xにfという関数を二回作用させてください、という式だ。
f^4(x)
という式なら、
f^4(x)=f◦f◦f◦f(x)=f(f(f(f(x))))
と、どれも同じことを表している。
言ってみれば、f神にはじめいくらか寄付して、もらえた御利益をそのまま寄付して、またもらえた御利益をそのまま寄付して、さらにもう一度もらえた御利益を寄付して帰ってきた御利益を表す式だ。
たとえば、
f(x)=2x
として、5から始めて4回fを作用させると、
f^4(5)
=f^3◦f(5)
=f^3(10)
=f^2◦f(10)
=f^2(20)
=f◦f(20)
=f(40)
=80
といった具合だ。fの回数だけ2倍されているので、
5×2^4=80
ということと同じだということがわかるね」
「あれ?どこかでみたことあるような」
ロクリアちゃんが言う。リディアさんはただ微笑んでいる。
「うん、ロクリア関数を計算するときに少し使った考えだ」
さて、本来ならここで合成関数に関しての練習問題でも出すところだろう。もちろん、それは正しい教育法だ。だが、私にその役割はない。むしろ・・・
「じゃあ、
合成回数をf(x)で表したらどうなるか?
ということを考えてみよう。
たとえば、次の式はどれくらいの値になるか、わかるだろうか?
f(x)=2x
はそのままで、
f^f^4(5)(5)」
ロクリアちゃんは考え始める。
「f^4(5)=80だからー、ええと、f^80(5)でー・・・」
私は関数電卓で計算する。しまった、数が少し大きすぎたな。リディアさんは、メモ用紙に何か書いている?
「はかせー、ねー、2^80っていくつ?」
「えっとちょっと待ってね」
「
美しい声が部屋を包む。私は何が起きたのかよくわからなかった。声の主は・・・
「1208925819614629174706176ですよね。ですから、答えは6044629098073145873530880になります」
「リディアさん・・・何者?」
「何者でもないですよ。ただ数が好きで、昔2^100まではすべて暗記したんです」
定理9.
3つ以上の合成関数には結合法則が成り立つが、交換法則が成り立つとは限らない。
定理10.
f(x)=2x
のとき、
f^f^4(5)(5)=6044629098073145873530880
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