第15話 リディアさん
こんな事件があって、今日ロクリアちゃんが訪ねてくることはなかった。訪ねてこないのはよくあることだ。学生がずっと午後暇でないことなんてわかりきっている。私は一人で無駄の多い形状の机と、唯一整合性のとれたパソコンに向かって研究を続ける。静かな一日、研究がはかどるかといえば、そうでもない。なんだか部屋の無駄な形状にイライラしてくる。だいたい、このメビウスの輪を80%だけ半分に切ったうえを楕円状のボールが転がっているよくわからないオブジェはいったい誰が何を思って作ったのか?そもそもこんなものを買おうと思う人がいると思っているのか?それすら謎である。
一日に別れを告げ、太陽は何の気兼ねもなくまた昇ってくる。今日ロクリアちゃんが訪ねてくることはなかった。二日訪ねてこないことはよくあることだ。試験なんかと重なれば、それはごく普通のことだろう。私は、端に行くほど速く、真ん中ほど遅くなる振り子を見続けている。買ったときは、不思議な動きに感動したものだが、こう見続けていると、特にどうとも思わなくなってくる。
ロクリアちゃんがいなければ一日になんの変化も訪れない。明らかにロクリアちゃんが悪い。なのに、なぜ私がこんな不快な思いをしなければならないのだ。なんとなく怒りに変わってきた。そもそも両親は何を教えているんだ?学校では謝るということを教えていないのか?ただそれだけの話ではないか。
何日か経って、とつぜん呼び鈴が鳴った。私は何か事件が起きることを期待して、部屋の出口まで歩いた。
「はい、どちら様でしょう」
「すみません、わたくし、ロクリアの姉のリディアです」
「あ、どうも」
鍵なんか掛けたこともない・・・鍵の形状も少しいびつで掛けられないというのが本当のところだが、この部屋にしては奇跡的に長方形をしている扉を開いた。
「はじめまして、グッド博士。いつもロクリアがお世話になっています。実は先日ロクリアから話を聞きまして、大変な失礼を致してしまったとかで」
「あ、いえいえ、そんな別に大したことではないんですが」
「それで、私がお詫びに伺いました。この度は大変申し訳ありませんでした」
丁寧にお辞儀をするリディアさん。そして、包み紙に包まれた箱のようなものを手渡してくる。
「これはほんのお気持ちで」
「いや、そんな受け取るようなことでは・・・」
「これはですね、大変失礼とは存じながらも、ロクリアが一人で作ったものなんです。それで私が何を何のために作っているか聞いても教えてくれず、ある日ひょんなことからグッド博士の地球儀を壊してしまったと聞いて、それでお詫びにものを作ってる、ということだったんです。それで、逆に私がロクリアにお使いを頼まれて。一人でお詫びに来るのは恥ずかしかったそうです」
箱を受け取る。少しだけ重みのあるもの。
「あの、開けてみていただけませんか?」
言われるがままに開けてみる。
中には・・・DNAのようなねじれた形状の立体物があり、横の線は382本あるようだ。なぜ382本とわかるか・・・、冒頭が110と書かれていて、末尾が0だったからだ。なるほど、この意味不明な物体は私の部屋にふさわしいじゃないか。
このDNA状の物体は、回転するようになっており、回転させると見える数字がアニメーションのように動いていくように見える。
「ロクリアのせい一杯の気持ちだそうです」
「ありがとうございます。それで、ロクリアちゃんは?」
「実は、もう来ていて・・・ロクリア!上がってらっしゃい!」
ロクリアちゃんは恥ずかしがりながら、階段を上ってきた。そして、リディアさんと一緒に頭を下げ、
「ごめんなさい」
とはっきりとした声で言った。
「ロクリアちゃん、ありがとう。地球儀のことは気にしてないし、すごくきれいなものをもらえて嬉しいよ」
ロクリアちゃんは少しほっとしたような顔をして、こんなことを言った。
「ねえ、はかせ、3×2^(3×2^27)-2を、ロクリア関数に入れたら、どんな数が出てくるのかな?その出てきた数をまたロクリア関数に入れたら?」
リディアさんはただ微笑んでいる。リディアさん、もしかして、帰るつもりないのかな?
「よし、関数の合成の話をしようか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます