第10話 順序数

「ロクリアちゃん、じゃあちょっと座って考えてみようか」

 アイスクリーム屋さんのそばにあったテーブル椅子に腰を掛ける。

「ちょっとアイスクリーム屋さんの話からは遠ざかって、式を使おう。

 まず、正の整数が順番に並んでるよ。

 1 2 3 4 5 ...

 これは無限に続くグループだ!その後ろに、数が並んでるとしよう。

 これにも名前を付けなきゃいけない・・・例えば、ωオメガにしてみるよ。

 そうすると、

 1 2 3 4 5 ... ω ω+1 ω+2 ...

 ってさらに並ぶことになる。

 ω+2の位置に立っている人が、前に進むと、ω+1にいく。

 さらに前に進むとωにたどり着く。

 その前は無限に数が並んでるんだけど、こういう無限に並んでるときは、...で省略してるところの10番めに飛べる、ということにしよう。

 すると、結局

 ω+2 ω+1 ω 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1

 となって、最終的に1にたどり着ける!


 さて、列の長さを、最後尾の文字、と考えることにしよう。

 1 2 3 4 5って並んでたら、列の長さは5っていうことと同じだよ。

 だから、

 1 2 3 4 5 ... ω ω+1の列の長さは

 ω+1だ!


 ここで、すごく変な話。

 1 2 3 4 5 ... ω

 っていう列は1から始まっているけど、もともと1があったとして、その次の数からωだけ数えよう。

 2 3 4 5 6 ...

 この列はどこまで続くかというと、2以上の自然数を全て数えるところまで、なので、やっぱりωまで続く。つまり、2から始めたところで、

 2 3 4 5 6 ... ω

 となって、1から始めた時と列の長さは変わってないように見える。

 式にすると、

 1+ω=ω

 ということだ。

一方で、ωまで数えてからさらに次の数を一個だけ数えると、

 1 2 3 4 5 ... ω ω+1

 と、列は確実に長くなっている。

 これを式にすると、

 ω<ω+1

 ということだ。

 そしてこれをまとめると、

 1+ω<ω+1

 ということになってしまう!つまり、足し算でも順番を考える必要があるということだよ。


 二つ無限グループがある状態は、

 ω+ω

 だ。これは、ωまで数えて、さらに1 2 3...と自然数を全て数えるということだ。実際に列をつくってみると、こうなる。

 1 2 3 ... ω ω+1 ω+2 ω+3 ... ω+ω


 これらの数のことを、順序数といい、目の前が無限の列になっている数を、極限順序数と呼ぶ。

 極限順序数の前の数というものは存在しないけど、そのかわりに、前の無限の列、つまり...で省略した部分のどこかに飛べる、というルールを決めるとどこからスタートしても必ず1にたどり着ける。


 ロクリアちゃんの疑問にも答えておくね。

 無限に無限のグループがあったとしよう。

 それはこういう状態だ。

 ω ω+ω ω+ω+ω ...と順序数が並んでいる。もちろん、これは

 1 2 3 ...ω

 ω+1 ω+2 ω+3 ...ω+ω

 ω+ω+1 ω+ω+2 ω+ω+3 ...ω+ω+ω

 と並んでいるんだけど、少し省略しちゃった。

 ついでに、ω+ωのことをω×2と書こう。ω+ω+ωはω×3だ。

 ここで、必然的に、

 ω+ω+...

 というのを考えることができる。これがロクリアちゃんのいう、無限グループが無限にある状態だ。これは、

 ω×ω

 って書けるよね。

 じゃあ、ここからスタートして、1にたどり着けるのか?検証してみよう。

 ω×ωは、

 ω×1 ω×2 ω×3 ...

 の...の先だ。...の先のことを、収束先と呼び、このような列のことを収束列と呼ぶことにするよ。

 さて、...で省略されているところは、10番めに割り込める決まりだった。だから、

 ω×ωの次は、ω×10に行ける。

 ω×10自体も極限順序数で、

 ω×9+1 ω×9+2 ω×9+3 ...

 という収束列の収束先に他ならない。だから、次に行ける順序数は、

 ω×9+10

 だ。

 そして、ω×9+9、ω×9+8、、、と進んでいって、ω×9にたどり着く。

 これは極限順序数なので、次に行ける順序数は

 ω×8+10

 だ。だんだん減っていったね。このまま続ければ、

 ω+10

 まで来れる。

 ここまでこれれば、もう1にたどり着けるのは、わかるよね」

「結局ωの前が10ってことは、ω=11ってことじゃないのかな?」

 ロクリアちゃんがこういうと、雨がぽつぽつと降ってきてしまい、部屋に戻ることになった。


 注)ωに収束する収束列は無数にあり、たとえば次のようなものである。

 5 6 7 8 ...

 2 4 6 8 ...

 1 3 6 10 ...

 つまり、単調増加する無限整数列でさえあれば良い。

 この中で、最も単純な

 1 2 3 4 ...

 を基本収束列と呼ぶ。小さい順序数では基本収束列は自明に定まるが、ある程度大きい順序数では基本収束列が自明でない。

 本文ではごまかしているが、ご容赦願いたい。

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