第9話 順番を守る

 ロクリアちゃんとの散歩は続く。

「ねえねえ!はかせ!あそこに列ができてる!アイスクリーム屋さんかな!?並ぼうよ!」

 強制的に引っ張られる私。

「学校でもね、おうちでもね、列には並びましょうってしつこくしつこく言うんだよ。それって当たり前のことじゃない?だって子供なんて力が弱いから割り込んだら喧嘩になって負けちゃう」

 正しいマナーを教えるのは、先生や両親の役割だ。私はその役割はない。

「でもさ、並んでも割り込んでも、結局は絶対アイスを買えるよね」

「いずれはねー」

「じゃあさ、無限に人が並んでたらどうする?」

「それは買えない!」

「じゃあ、無限の人のグループがあったら、そこのどこかには割り込めることにしよう。たとえば、

 無限の人のグループが一つ並んでいます。いきなり全部割り込んで買うのは申し訳ないので、そのグループの10番目に割り込みました。

 っていうのはOK」

「なるほどーちょっと遠慮深いんだね」

「うん、これってさ、どこに割り込んでもアイス買えること、わかる?」

「へ?」

 そんなこと言っている間に、アイスを買うことができた。私が支払った金額は500円。ロクリアちゃんのためならこれくらい・・・。

「どういうこと?たとえば、無限に人が並んでるんだから、一人だけ追い越しても変わらないよね」

「うん、そうなんだけど、前から何番目に入るって決めれば残りは有限だから、絶対買えるでしょ。例えば前から1000人のところに並んでも、1000人分待てば買える」

「それって結局無限に人を追い越すってこと?」

「うん、そうなんだけど、割り込み方を決めてるんだ。グループの中の何番目に入っていい!っていう割り込みのルールだね」

「割り込むのにルールがあるんだ!」

「例えば、割り込むルールをこう決めよう。

 ①目の前にグループがあったら、その10番目に割り込める

 ②目の前に人がいたら、その人を追い越せる

 どう?わかる?」

「例えばどんな感じ?」

「じゃあ、列が、

 自分 人 人 人 (たくさんの人のグループ) ゴール!

 ってなってたとしよう。

 まず、目の前にグループに所属していない人が3人いるから、3回追い越すよ。そして、グループの最後尾にたどり着いたんだけど、グループに人が多すぎて最後尾の人はどこにいるのかよくわからない。だから、ちょっと失礼して、10番目に割り込んじゃおう。そうすると、前には9人いるから、9人追い越せばいい」

「へー、まず3回、グループに割り込んで1回、それから9回追い越すから・・・、13回割り込むだけでゴールできるんだね」

「実はこのグループの人、誰でもいずれは絶対アイスを買えるんだ。このグループの中の人は全員しっかり並んでいて、正の整数の番号がついている」

「無限に人がいるのに?」

「うん」

「変な感じ!」

「でもこのグループの後ろに並んじゃうと、アイスは買えない。でも、前に人が無限に並んでたら、グループの10番めに割り込んでいい、って権利を貰った人はアイスを買えるようになる。ここで、グループの人たちはやっぱり全員アイスを買えることに注意してね!」

「余計に変な感じ!」

「自分の前に、グループが二つ並んでても、割り込みさえできればアイスを買える。

 まず、一つ目のグループの10番めに並ぶ。その前にいる9人には追い越す権利②を利用できる。そうすると、自分の目の前には二つ目のグループがある。だから、その10番目に割り込ませてもらおう」

「もうめちゃくちゃじゃん」

「さらに、この10番めっていうのは別に100番目でも1万番目でも、何番目でも、割り込みさえできればアイスを買えることがわかるよ」

 ロクリアちゃんはなにか考えている。無限というのは人を魅了するものだ。つい考えてしまい、よくわからなくなってあきらめてしまう。その繰り返しを何度も何度もさせられて、結局なんだかよくわからないのが無限だ。その思考の迷宮を楽しむのも面白いものだ。ロクリアちゃんは、こんなことを言った。

「無限にグループがあっても?」

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