第2章 巨大数への準備
第8話 無理数が出発点
「はかせー、たまには外に出ないと干からびるよー!」
と、ロクリアちゃんに無理やり外に引っ張りだされた。昔は蚤の市に通っては重いものを背負って帰ってきたので、筋肉だけはそれなりにあるつもりだ。昔のことだが。
「はかせの部屋って、なんかおもしろいよね。ふつうの人ならムリムリムリムリ!ってなりそう!わたしもここで暮らすのはムリかなー」
「そんな無理無理言わないでよ、僕だって最近狭いなって思ってるんだから」
「ねえ、無理な部屋から出発したからさ、無理な話しようよ」
「無理な話?」
「すごーい力持ちの人がいます!自分の体重以上のものを持ち上げられるので、自分を持ち上げたら空に飛んでいきました!」
「ははー、なるほど。じゃあこういうのはどう?ジャンプして、片方の足が着地する前に、もう片方の足でジャンプして、無限にジャンプし続けました!」
「いいね!でも、なんで自分の体重より重いもの持ち上げられる人は無限に飛んでいかないの?」
正しい物理学を教えるのは、大人の役目だ。作用反作用の法則なんて知っているだろうし、すぐに説明できる・・・が、それは私の役目ではない。
「うーん、自分の体重を持った手に自分の体重分の重さが掛かっちゃうから、その分もさらに持ち上げてあげないと」
「ってことは、体重の倍持ち上げてあげればいいのかな?」
「その分の重さも増えちゃうからその分も持ち上げないとだめだね」
「あー、3倍ならいいのかなあ?どこかでストップするのかな?」
「その前に筋肉が壊れちゃいそうだね」
ロクリアちゃんと私は、どこへともわからず歩き続ける。
「なんだか世界って不思議だよね。上は空が無限に続いてるのに、下は地面で終わりだ」
「掘ればいいんじゃない?」
「この前、砂場で掘ったんだよ!でも、40cmくらい掘ったら、ガリッってなって、それ以上掘れなかった」
なんだか私にいたずら心が湧いてきた。
「ねえ、無理な話の続きしようか」
「なあに?」
「無理数って知ってる?」
「知ってる!ピタゴラスが存在しないって言って発狂した数!」
「おお・・・、これはまたずいぶん偏った知識だ」
「知ってるよー、整数分の整数という形にならない数、でしょ?」
「うん。例えば、どんな数が無理数?」
「円周率とか、√2とかー、√3とかー、」
「円周率って無理数なの?」
「そうだよ!」
「なんで?」
「みんながそう言ってた」
「ほんとに?」
「え・・・、たぶん」
「なんで無理数なのか説明できる?」
「考えないとわからない」
「ちょっと難しそうだよね。じゃあ、√2が無理数なことって説明できる?」
「うーん、なんかpとq使って説明してたよ。でも、pとqって紛らわしくてキライ!」
歩いていたら、ちょうど公園にたどり着いた。何も言わずにちょっと休憩。筋肉の衰えは激しいようだ。
「じゃあ、aとbを使って説明してみようか。
√2が有理数であると仮定すると、正の整数a,bを使って
√2=a/b
と表せる。分母を払って、
b√2=a
両辺を2乗して、
2b^2=a^2 ...(1)
ここで、左辺は偶数だから、右辺も偶数。よって、aは偶数。ここで、正の整数Aを使って、
a=2A
とおく。代入すると、
2b^2=4A^2
両辺を2で割って
b^2=2A^2
すると、右辺が偶数だから左辺も偶数。よって、bは偶数。ここで、正の整数Bを使って、
b=2Bとおく。代入すると、
4B^2=2A^2
両辺を2で割って
2B^2=A^2 ...(2)
(1)と(2)の式を見比べよう・・・文字が大文字になっただけだ!
そして、a=2A、b=2Bという関係から、a>A、b>Bという関係がわかる。しかもこれは同様の変形を無限に続けられるから、a>A>...って無限に小さくなる正の整数の列が作れる!
でも、正の整数は減らし続けると、いずれ1になって、これ以上は小さくなれない。これは矛盾だよね。どこがおかしかったんだろう?
そう、√2が有理数だと決めたところがおかしかった。だから√2は無理数だ」
「長い!意味不明!学校で教えてくれた方法と違う!」
「たぶんそうだろうね」
でも、ロクリアちゃんはなんだかうれしそう。
「ねえはかせ、本当に正の整数って減り続けられないの?」
定理5.
√2は無理数である
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