第13話 ハイパー演算子

「ねえはかせ?」

「ねえってば」

「おーい」

「どうしたのー」

「起きてよう!」

 ふと目を覚ますと、後ろにはロクリアちゃんがいる。

 うーん。ここはどこだ?夢なのか・・・現実なのか・・・?よくわからない。なんだかきらびやかな世界にいて、そこで当たり前のように感じていたことが、なんだかここでは違うようだ。手を振っても飛べないし・・・人の心も読めない。うーん、物理法則が変わってしまって・・・

「起きろーーー!!」

 はっ!

「今度はさすがに目がさめたよ、ロクリアちゃん」

「何度同じことさせるのよ!」

「ごめんごめん」

「そんなことやってると、5^^3を掛け算から計算してもらうよ!」

「どういうこと?」

「5^^3って、5^5^5でしょ。ってことは、

 5^5は5×5×5×5×5だよね。で、3125だから、

 5×5×5×...って3125回やってもらう」

「う・・・それは勘弁願いたい」

「あ、掛け算って足し算の繰り返しじゃん!じゃあ、足し算からやってもらおっと!」

「へ??」

 二重の意味で驚きを受ける私。

「5×5は5+5+5+5+5でしょ。だから、5×5×5は5+5+5+...って5+5+5+5+5回やってもらうの」

「ロクリアちゃんはもう気づいたんだ?」

「へ?何に?」

「ハイパー演算子の性質に。

 掛け算は、足し算の繰り返しだ。累乗は掛け算の繰り返しで、テトレーションは累乗の繰り返しになる」

「そりゃそーでしょ」

「うん」

「ってことは、テトレーションも繰り返せるのかなー」

「うん」

「へー」

「うん」

「やって」

「えっとね。じゃあ、例えば5が3つあるテトレーションをしてみよっか。

 5^^5^^5

 だよね。テトレーションの回数自体は2回だけど、数が3つあるから、3段テトレーションって感じ」

「わかるわかる!これも右から計算するの?」

「うん、そうだよ。左から計算すると、テトレーションらしさが消えてしまうからね・・・。いまは深くつっこまないけど」

「5^^5は5^5^5^5^5ってことでしょ。じゃあ、こういう風に計算できるよ」

 5^^5^^5=5^^5^5^5^5^5

「お、いいぞいいぞ。5^5^5^5^5ってとっても大きい数だと思うけど、まず計算しないで名前を付けよう」

「Vがいい!」

「え、なんでもいいよ。じゃあ、Vにしよう

 じゃあ、

 5^^5^^5=5^^V

 っていうのはいいよね」

「いいよー!」

「じゃあ、5^^Vってどれくらいの大きさだろう?」

「わかる!

 5^5^5^5^5^...

 ってV回繰り返すんでしょ!」

「その通りなんだけど、大きさの予想つく?右上からやってみようか。

 5^5は?」

「3125」

「5^3125は?」

「わかんない!大きい!」

「うん、大きいよね。この時点で2185桁の数だ」

「2185桁!」

「じゃあ、184桁切っちゃって、大体10^2000くらいの大きさってことにしよう」

「いいよ!」

「良くないよ・・・、実は、184桁切るって簡単に言ってるけど、実際には、

 10000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000以上の数で割ってることになる」

「ひえーー」

「でも、もともとが2185桁もあるから、184桁の数で割ってもまあ、もともとが巨大すぎてあんまり変わらない・・・っていうイメージかな」

「なんとなくわかるようなわからないような」

「厳密な話はしてないから大丈夫。じゃあ、5^5^5は大体10^2000ってことがわかったから、4段目に行こう。

 5^10^2000

 これは、10^2000桁くらいの数だよ」

「あれ?大して変わってないような」

「ううん、10^2000くらいの数から、10^2000桁くらいの数に変わったんだ。10^2000くらいまでなら、なんとか十進法で書くことができるけど、10^2000個も文字を書くのは絶対に不可能だ。だから、10^2000桁の数っていうのは絶対に書くのができない」

「なんで絶対?」

「宇宙の原子の総量も10^100にはおよそ届かないから、すべての原子を文字に変えても、全然足りないね。あと宇宙が10^1900個くらいあれば足りるかもしれないけど」

「そっかー、大きいんだ。5^^5^^5って大きいんだねえ」

「待って、ロクリアちゃん。まだ、これは5^^4だよ。5^^5にすら届いてない。

 5^^5はこのいま計算した数だけ、5×5×5×...って繰り返すんだ」

「よくわからない!」

「でも、そういう大きさの数が5^5^5^5^5だよ。まだ5回だ。実際にはV回繰り返さなきゃいけない。V自体がいま計算したような数だから、この先6回目、7回目って増やしていっても、途方もないことがわかるよね」

「うん。計算できっこない」

「だから、計算しないことにしよう。ただ、5^^5^^5という数があって、こういう大きさがある。逆にいえば、この数より小さい数もあれば、大きい数もある。ってことがわかれば十分」

「ふわーーー」

「ところで、5^5^5=5^^3って書いたからさ」

「うん」

「5^^5^^5って、5^^^3って書けそうじゃない?」

「5^^^5^^^5なら、5^^^^3って書けそうだね!^^^^」

「5^^^^5^^^^5なら、5^^^^^5って書けそうだよね!^^^^^」

「5^^^^^5^^^^^5なら、5^^^^^^3って書けそう!^^^^^^」

「5^^^^^^5^^^^^^5なら、5^^^^^^^3って書けそう!^^^^^^^」

「5^^^^^^^5^^^^^^^5なら、5^^^^^^^^3って書・・・」

「ここらへんにしておこっか。テトレーションを2回繰り返した5^^^3はとてつもない数だ。5^^^5っていうのはテトレーションを4回繰り替えしていることになる。だから、比較にならないほど5^^^3より5^^^5が大きいんだけど、じゃあ、5^^^5回テトレーションを繰り返した数っていうのが、5^^^^3なわけだよね。こういう、前の計算を何回繰り返したか、という風に新しい計算を次々作っていける。これらのことをハイパー演算と呼ぶ」

「はいぱーえんざん」

「ハイパー演算に使う記号^や^^のことを、ハイパー演算子とよぶ」

「はいぱーえんざんし

 あれ?+とか×とかもハイパー演算子?」

「うん、そうなるね。

 足し算はハイパー1演算

 掛け算はハイパー2演算

 べき乗はハイパー3演算

 テトレーションはハイパー4演算

 ^^^はペンテーションって呼ぶけど、ハイパー5演算だ」

「あれ?なんか迫力がなくなっちゃった」

「うん。テトレーションは4、ペンテーションは5っていうように、繰り替えしを数で表しちゃったからね。こういうことは一般化って呼ぶよ」

「いっぱんか」

「いちいち名前を付けなくても、数で決めれば自動的にどんどん名前が決まっていくってことかな」

「ふーん・・・ねえ、ところでさあ・・・、

 5^^^...^3ってすごい大きい数が作れそうだけど、これとロクリア関数ってどっちが大きい数を作れるのかな?」

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