第4話 遺伝的記法

 だだだだっ

 階段を上る音が聞こえる。

「ねえはかせ!今日ね、メンデルの法則っていうのを習ったよ!

 えっと、父の遺伝子がabで、母の遺伝子がcdだったら、父の遺伝子のどちらかと母の遺伝子のどちらかをとってきて、子は、ac,ad,bc,bdのどれかになるって」

「ロクリアちゃんは何でも知ってるなあ」

「だって今日習ったことだもん!」

「じゃあ、「遺伝」ってどういう意味かわかる?」

「遺伝?う~んと、両親の性質が子に伝わることかな?」

「そうそう、そうするとさ、もともとの遠い遠い先祖の性質が、長い時間でぶわーっていろんなところに広がっていく感じがするよね」

「うん!人類みな兄弟って感じ!」

「そうそう、それで、数に関してもこんなことを考えよう

 まず、また50って数を用意するね

 50って、2^5の32より大きいから、

 2^5+18

 って書き直せるよね」

「うん!二進法の計算もそんな感じだった!」

「この式の中に、2より大きい数って5と18があるでしょ。言ってみれば50から生まれた子供だよね。この5と18もさっきと同じように書き直してみよう」

「えっと、

 5=2^2+1

 18=2^4+2

 ってこと?」

「そうそう、いいぞ。じゃあね、こう書き直したのを、2^5+18に代入すると

 2^(2^2+1)+2^4+2

 ってなるよね」

「うん!でももう50かどうかなんて全然わかんなくなっちゃったね」

「そうなんだよねえ・・・。それで、まだ2より大きい4って数があるよね。これは孫みたいな感じだけど、これも同じように書き換えると・・・」

「わかった!こうするんだね!

 2^(2^2+1)+2^2^2+2

 すごい!2と1だけで50が書けちゃった!0を使ってないあたりが少し2進法と違うね」

「そうそう。いまは1と2しか使わなかったんだけど、1と2と3を許してもいいよ」

「え~と、どうやるの?」

「たとえば、50を3まで許すと・・・

 50=3^3+23

 ここで、23=2×3^2+5だから

 50=3^3+2×3^2+5

 ここで、5=3+2だから、

 50=3^3+2×3^2+3+2

 いまここで、3と2しか出てきてないけど、1が出てこなかったのは偶然ね」

「すごい!なんだか全然50に見えない!」


 少し沈黙。


「あれ?はかせ・・・これってさ、別の表し方できない?」

「おっ?」

 変な声が出てしまった。

「あのね、たとえば50って9×5+5でしょ。これを書き直すと、

 50=3^2×(3+2)+3+2

 にならないのかなーって。

 それに、4なんて

 4=2^2=2×2=2+2

 っていろんな表し方できるよ!」

 ロクリアちゃんは本当に賢い。なかなか困ってしまうことをいつも言ってくる。

「そうだね。だから、指数を優先することにしよう。底を固定して、なるべく大きい指数を優先して使うよ」

「なるべくおおきいしすう」

「うん、つまりね1,2,3の三つの数を許したとき、一番大きい数3を底に固定するんだね。だから、3^?って形を優先しよう。

 50は3^?と3^(?+1)の間にあるわけだよね。そう思うと、この?は一つに決まるでしょ」

「えっと、3だね。3^3=27で、3^4=81だから!」

「そうそう。たとえば、2000みたいに大きい数でも、

 3^6=729≦2000<2187=3^7

 だから、まず、

 2000=2×(3^6)+542

 ってするんだ。もちろん、2^10+976とも書けるけど、指数の底は3と決まっているからこれはダメだし、8×3^5+56っていうのも、なるべく大きい指数になってないからダメ」

「なるほどー、底が3じゃないと後継者になれないんだね」

「2000はどんどん書き直すと、

 2000=2×(3^6)+542

 =2×(3^(2×3))+2×(3^5)+56

 =2×(3^(2×3))+2×(3^(3+2))+2×(3^3)+2

 となるよ。今回も2と3しか出てきてないけど、これは偶然」

「偶然にしてはよく起きるねえ」

「今回みたいに書きなおすことを、遺伝的記法って呼ぶよ」

「いでんてききほう」

「そして、1,2,3まで許したんだけど、この3のことは底って呼ぶんだ」

「てい」

「機械的に書き直せるから、書き方は一通りに定まるね。1と2と3っていうのがぶわーって広がっていく感じ、わかるかなあ」

「うん、でも、やっぱりn進法のときみたいに、どれくらいの数なのか全然わからない!っていうか、n進法の時よりもわからない!」

「そうだね・・・でもn進法とちょっと似てるよね」

「うん・・・もしかして!」

「もしかして?」

「この前やった、n+1進法にして1引く、みたいなことができる!?」


 定理2.

 2000を3を底とした遺伝的記法で書くと

 2×(3^(2×3))+2×(3^(3+2))+2×(3^3)+2

 である。


 定理3.

 全ての自然数と底に関して、遺伝的記法はただ一通りに定まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る