第26話 番外編 浅草の寅 ①

このお話は

猫カフェ『にゃんこの館』の番外編です。

実はにゃんこの館のスタッフさんの

身内のにゃんこが活躍します。


あくまでたぶんですが……



   *



てやんでぃ! 


おいらは三代続いた

浅草生まれの野良猫だぜぃ!


『浅草の寅』と言えば、

この辺りでは知らない者はいねぇー。


爺さんの代から、

浅草寺から花やしきにかけては

おいらの縄張りだ。


今日も子分をひき連れて、

シマの見回りに出掛けるぜぃ!


おんや? 


雷門の下に見慣れない猫がいるぞ。


「やいやい! 

てめぇ、どこのシマのもんだぁ?」


子分A・黒猫のタツがいきなり脅しをかけた。


「あっ! ゴメンなさい。私、迷子なの」


見れば、真っ白なロン毛で青い目をした女の子だった。


「よぉ! ねぇーちゃん、どこから来たんだ?」


子分B・ブン太がにゃん相の悪い顔で訊いた。


「わ、わたし……カルフォルニアから来ました」


『かるふぉるにあ~?』


おいらたちは聴き慣れない言葉に素っ頓狂な声を上げた。



「なんでまた、そんな異国の猫が

浅草をウロウロしてるんだぁ?」


おいらが訊くと、


「私、キャロルって言います。

飼い主と一緒に日本に来ました。

東京のブリーダーの家にホームスティするの」


「イヤで逃げてきたのか?」


「違います、違います!

車の中で飼い主の膝の上にいたけど……

退屈して、ドアが開いた時に飛び出しちゃったんです。

すぐ戻るつもりだったのに、

犬に吠えられてビックリして駆けだしたら、

帰る場所が分からなくなってしまったの」


そう言って女の子はシクシク泣きだした。


おいらは江戸っ子でぃ! 

困ってる子を見たら放っては置けない性分だぜ。


「泣くなっ! おいらたちがお前の飼い主探してやるさ」


その言葉にキャロルの顔が、パッと明るくなった。


「ありがとう!」


「まずは目撃情報ってもんが大事なんだ!」


子分C・三毛猫の三吉が言う。


こいつは学習塾に飼われている半野良猫で、

『浅草の寅』一家では、一番頭がイイにゃんこなのだ。


「どうすればいいんだ?」


「彼女は真っ白できれいだから、

浅草界隈を歩くと当前目立つ。

それで探している飼い主にキャロルを、

見たという情報が届きやすい」


「じゃあ、キャロルを連れて歩き回ればいいんだな?」


「そいういことです」


「なら、簡単だ! よーし行くぞぉー!!」



おいらたち『浅草の寅』一家の猫たちは、

わざと目立つように浅草寺の境内や花やしきを練り歩いた。

キャロルも初めて見る浅草の風景に興奮気味だった。


野良猫たちに交じって歩く、

きれいな猫を観光客たちは不思議そうに見ている。


「さすがに目立ってるぜぃ!」

「恥かしいわ」

「なんで、キャロルの耳は捻じれてるんだ?」


気になっていたことを訊いた。


「私、アメリカンカールって種類の猫なのよ」


キャロルの説明によると、

アメリカンカールという猫は生まれつき

耳が外向きにカールしているらしい。

人間が新種の猫を創るって話を聞いて

おいらは驚いたぜぇー。


「キャロル腹空かないか?」


「ええ……空いてる」


「よっしゃ! 

おいらの取って置きの

穴場に連れて行ってやるぜぃ」



キャロルを連れて、商店街の外れにある

「もんじゃ焼き」の店に行った。


入口の前でニャーニャー鳴いていると、

おばあさんが出てきて、

削り節のかかったご飯をくれた。


「おやまあ、寅ちゃん。

ずいぶんシャンな子を連れてるじゃないか」


おばあさんはキャロルの分の

ご飯も用意してくれた。


――なのにキャロルは嗅ぐだけで

食べようとしない。


「どした?」


「これなぁに?」

「猫まんまといって日本古来の猫のご飯だぜぃ」


「この白い粒はなぁに?」

「米といって日本人の主食だ」


おそるおそる……

キャロルは猫まんまを食べた。


「Oh! Delicious」


ひと口食べて気に入ったみたいだ。

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