第4話 にゃんこのオーディション

なんと、なんとっ! 

にゃんこたちにも試験がある。


ここ猫カフェ『にゃんこの館』に、

この春から始まる連続ドラマに出演する

猫タレントのオーディションの話があった。


テレビ局のプロデューサー、脚本家、カメラマンが

にゃんこの館にやってきて、オーディションするというのだ。


猫タレントとして有望なのは、

美しいホワイトペルシャのシャネル

芸達者な茶トラのにゃん太

元気いっぱい雉猫の蘭子、この3匹である。


「スターになるのは、

この美しいわたくしですわ。おほほっ」


自信満々のシャネル。


「俺は芸で勝負するさ」


いつも鏡の前でいろんなポーズを作って

芸を磨いているにゃん太。


「アンタたち甘い! タレントは個性の時代なのよ」


負けず嫌いの蘭子は闘志満々! 


栄光のスターの座を狙って、みんな頑張っている。



その日、オーディションの審査員たちが

猫カフェ『にゃんこの館』へやってきた。

他の猫たちもソワソワと落ち着かない。


「ハーイ! みんな落ち着いて。

審査状況は私がお伝えしまーす」


猫カフェ『にゃんこの館』の

フロアーマネージャー三毛猫のミーコは、

オーナーが初めて飼った猫で

今年17才になるおばあさん猫だ。


だが、長いあいだ人間に飼われているうちに、

ついに人間の言葉が分かるようになった

スーパーにゃんこなのだ。


「誰が選ばれるか、俺たちも気になるんだ!」


黒猫のクーは興奮した様子だ。


他の猫たちも猫タレントに選ばれるのは、

誰か興味深々で噂し合っていた。


そんな中、アビシニアンのナイルは、

猫タワーのてっぺんから、下界を見下ろすように


「余は尊き神の使いエジプト猫である。

人間如きに媚びは売らぬ!」


フンと鼻を鳴らすと、

我関せず“孤高の猫”のポーズだった。



ナイルはトイレと餌の時間以は、

決して下に降りて来ない。

猫タワーのてっぺんは神聖な場所で

彼曰く「神と対話」しているそうだ。


一度、ナイルが居ない間に、

いたずら者のロシアンブルーのイワンが

猫タワーてっぺんへ上がったことがあったが、

激昂したナイルにボコボコの目に合わされた。


それ以来、誰も怖れて……

ナイルの猫タワーに上がる者はいない。



――そんなナイルにも悲しい過去があった。


生後半年の時に、にゃんこの館にきたが、

それまで飼われていた家では

「懐かない」という理由で虐待されていた。


狭いゲージに閉じ込められて、

餌も一日わずかしか貰えなかった。

そんな可哀相な猫がいると――噂に聴いた

オーナーが飼い主に交渉してナイルを引き取ったのだ。


そのせいでナイルは人間嫌いである。


けれど、救ってくれたオーナーと、

人間の言葉が分かるミーコにだけは心を開く。


さて、シャネル、にゃん太、蘭子たちは

審査員の前でいろんなポーズや

パフォーマンスをして自分をアピールしていた。


オーディションの審査も

いよいよ終盤に入ったようだ。


「ミーコさん、もう決まったかい?」


スコティッシュのバロンが訊いた。


「ううん。まだみたい……」


「ここのにゃんこが選ばれなかったらどうしよう?」


バーマンのマリリンが心配そうに言うと、


「大丈夫よ! きっと選ばれるわよ」


マンチカンのハルカが祈りを込めて言う。


「あたちたちも応援してるよん」


3匹の仔猫たちもフレーフレーとエールを贈る。



『にゃんこの館』の12匹の猫スタッフが見守る中

審査は難航しているようだった。


『う~ん……どの猫もいいんだけど、

どうも、いまいち決め手がないんだなあー』


プロデューサーが呟いた。


……が、彼はその時、

なぜか視線を感じて猫タワーを見上げた。


『あ! あの猫は!?』


その声に他の審査員も猫タワーを見る。


『え? おおっー!』


『イイじゃないか!  

ドラマのイメージにピッタリの猫だ!』


な、なんとっ! 


3人の審査員は全員一致で、

ナイルがひと目で気に入ったのだ。

驚いたことに、何もしなかった

ナイルにドラマの出演が決定しました。


「人間如きの指図は受けぬ!」を条件に、

渋々ナイルはテレビ局へ連れていかれた。


もちろん、お気に入りの猫タワーと一緒に――。



そんなナイルが出演したドラマ

『吾輩は猫さま』は視聴率うなぎ昇りの

大人気のテレビ番組になった。


そして『にゃんこの館』にも、

ドラマに出演している猫さまを

ひと目みたいとファンたちが大勢で押し寄せた。


彼らは猫タワーの上のナイルを参拝して、


『ありがたや、ありがたや』


と柏手を打ち、

猫タワーの下にツナ缶やササミジャーキーなどの

貢物を置き、猫さまパワーを貰ったと、

大喜びして帰っていく――。


そして、ナイルのおすそ分けのツナ缶を貰って

スタッフの猫たちも大喜びだ。



残念だった猫タレントの3匹も

シャネルはツナ缶のポスター猫のモデルに、

にゃん太は『動物虐待防止』のCMに出演決定。

蘭子は駅の一日『猫駅長』に選ばれました。


猫カフェ『にゃんこの館』では、

個性豊かなタレント猫を取り揃えて、

お客さまのご来店をお持ちしておりまーす。


どうぞ、ご来店くださいね。


 (ω゚∀^ω)ニャンニャーン♪


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