第3話 にゃんこのミーティング

ここは、とある町にある

猫カフェ『にゃんこの館』です。


猫カフェというのは、分かりやすく説明すると

秋葉原にあるメイド喫茶のようなもので

メイドさんの代わりに

猫たちがスタッフとして働いています。


来店したお客さま相手に

じゃれたり、遊んだりして、可愛らしい姿で

お客さまを癒してさしあげるお仕事です。



今日も、猫カフェ『にゃんこの館』では、

開店前にゲージから出されたスタッフの猫たちが

鏡の前で毛つくろいをして、身だしなみを整えて

お客さまの来店をお待ちしています。


「ハーイ! みんな集まって!」


三毛猫のミーコが呼びかけました。


「今からミーティングを始めまーす!」


ミーコは猫カフェ『にゃんこの館』の

開店当初からスタッフで一番の古株なのです。

オーナーからの信頼も厚く、

フロアーマネージャーを任されています。


ミーコの元に集まってきたのは、

ここで働く12匹のスタッフ猫たちです。



「みんなに集まって貰ったのは、

お店の売り上げが最近下がってきています。

800メートル先に

新しくできたフクロウ・カフェに

お客さまを盗られているようなのです」


「なんだって!? 

俺たち猫族の名誉にかけて

フクロウなんかに負けられないぞ。

打倒! フクロウ・カフェ!」


黒猫のクーが威勢よく叫びました。


「フクロウは大人しくて、大きな瞳が愛らしく、

人間にも人気が高いからねぇ……」


バーマンのマリリンが心配そうに言うと、


「フクロウなんか、この俺さまが狩ってやるぜ!」


「なに言ってんの!

猫は飛べないから鳥を捕まえるのが難しいわ」


「ほんとにもうぉ~人間って、

次々と新しいものに興味を惹かれちゃうから……」


スタッフの猫たちが、不安そうにざわつきました。



3年前、この町に初めて

猫カフェ『にゃんこの館』がオープンした時には

珍しさもあってか、大繁盛しました。


だけど、飽きっぽい人間たちのせいで

最近は客足も遠のいてきています。

もしも、このお店が潰れてしまったら、

行く先のない猫たちにとって死活問題です。


「困った、困った!」

「ああ、どうすればいいんだ?」


猫たちは動揺して口ぐちに喋りだしました。


「みなさん、私語は慎んで……。

どうすればお客さまが増えるか、

反省点など、みんなで話し合いましょう」


ミーコが議題を進めます。


「ハーイ」


キジ猫の蘭子が手をあげました。


「はい。蘭子さん」


「シャネルは寝てばかりで接客していません」


「あらま、そうなの」


「仕事もしないくせにツナ缶食べるのはズルイと思いまーす!」


蘭子は仲間をチクリました。



すると、その意見に、


「あーら、わたくし寝ていたって、

絵になるくらい美しい姿だから、接客なんてしなくても

よろしくてよ。おほほっ」


真っ白なペルシャ猫のシャネルは気取った喋り方です。


「そんなのズルイわ!

それにナイルだって猫タワーの最上段に陣取って、

ちっとも降りて来ないんだから……

ちゃんと仕事しなさいよ!」


蘭子は怒って声を荒げました。


その言葉にアビシニアンのナイルは

「フン!」と鼻を鳴らして、


「吾は神の使い尊きエジプト猫じゃ。

人間如きに媚びは売らぬ!」


孤高の猫ナイルはそう言うと、

猫タワーの最上段に上っていった。


シャネルもナイルも気位が高いので、

猫カフェのスタッフたちとトラブルをよく起こす。



「モォー! どうして、みんな協力的じゃないのよ!」


蘭子は怒って爪とぎをバリバリと掻いた。



その時、茶トラのにゃん太がボソボソと喋り出した。


「……けど俺は、それぞれ個性があるから、

無理して接客しなくても、

見た目や仕草だけで存在感はあると思う。

みんなで認め合ってサポートし合えれば

いいと思うけどなぁー」


平凡な日本猫、茶トラのにゃん太は、

洋種の派手な猫たちに比べて見た目がパッとしない。


だけど彼は毎日毎日……

閉店後、鏡の前でいろんなポーズを作っては

お客さまに受けようと、猫一倍努力をしていた。


ひょうきんな猫のポーズを見たいと、

にゃん太目当てのリピーター客がとても多い。

彼が猫カフェ『にゃんこの館』人気ナンバー1のスタッフなのだ。



「そうね。みんな同じだと個性がないから、

にゃん太さんの意見に大賛成!!」


みんなもにゃん太の意見におおいに賛成しました。


一番努力しているにゃん太がそういうのだから、

誰も文句を言えない。



「実は、にゃんこの館に

お客さまからクレームがきています」


ミーコが渋面で言いました。


「クレームって? スタッフに?」


「そう。猫同士が喧嘩して

お客さまが引っ掻かれたそうです。

ケガさせたのは誰ですか?」


「はぁい」


マンチカンのハルカが短い前脚を上げた。


「だって、私のチップを横取りするんだもん」


「おまえがノロマだからさ」


喧嘩の相手は、ロシアンブルーのイワンのようだ。


チップというのは

お客さまから貰うおやつのことで、

小さく切ったササミジャーキーである。


「チップの取り合いで喧嘩して、

お客さまにケガさせた、あなたたちは減俸です。

ツナ缶15%カット!」


「えぇーっ、そんな殺生なぁー、許してよ」

「うわー! 最悪!!」


2匹は泣きそうな声で訴えましたが、

ミーコは頑として利きません。


フロアーマネージャーの権限で

決定されたことには、もう誰も逆らえません。

スタッフたちを束ねていくのも一苦労だ。


「ミーコどの、吾輩はお客さまに苦情があります」


「あらっ! なぁに?」


「スコティッシュなので耳が折れているのに……

無理やり、こう延ばして立てようとするのだよ」


「あらら、それは困ったわね」


「まったく、けしからん! わははっ」


イギリス紳士のバロンは

職場の雰囲気が悪くなったことを察して

ジョークでみんなを笑わせようとする。


温厚な性格のバロンは、

みんなを和ませてくれるオジサン猫である。


「ミーコさーん、あたちたちは何をすればいいの?」


アメリカンショートヘアーの

3匹の仔猫たちが質問しました。


「君たちは可愛いので自然にしてればいいわよ」


無邪気な仔猫たちは

いつも楽しそうにじゃれ合っています。

その愛らしい姿に心がほっこり。


「では、ミーティングを終わりまーす」



本日も、猫カフェ『にゃんこの館』では

猫スタッフたちが最高のおもてなしで

お客さまをお待ちしておりまーす。


どうぞ、ご来店くださいね。


 (ω゚∀^ω)ニャンニャーン♪


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