第18話 弱虫にゃんこの家出 ②

その時、仔猫の鳴き声がして、

黒猫たちがいっせいに外へ飛び出した。


なんと、

大きなイタチが仔猫をくわえていたのだ。


「チビクロ!」

クララが叫んだ。


「その子を離せ!」


「こいつは俺さまの飯だ」


チビクロは苦しそうにミャーミャーと鳴いています。


「この野郎! 許さんぞ!」


くろ兵衛が突進しましたが、

身軽なイタチにヒョイとかわされました。


「老いぼれめ! 勝負にならねぇー」


仲間の黒猫たちは身構えながら成りゆきを見ています。


イタチはもの凄く臭いオナラをするので

迂闊に手出しができません。


クーの隣で、クララが泣いています。


我が子がイタチに食べられそうなのに……

助けられなくて悲観に暮れているのです。


弱虫のクーだけど、この時だけは

『仔猫を救いたい!』

と、本気で思ったのです。



仔猫をくわえたまま

巣穴に帰ろうとしたイタチに、

クーは仔猫を助けたい一心で、

満身の力で体当たりをぶちかました!


ガツンという衝撃に

思わず口から仔猫を落としてしまった。


クララが飛んでいってチビクロを

連れ戻そうとすると、イタチがクララ親子に

牙を剥いて襲いかかろうとします。


ドン! 

ジャンプしてイタチの上に、クーが乗って押え込んだ。


飼い猫は栄養状態が良く、

どの黒猫より体が大きくて、ずっしりと重いのだ。



怒ったイタチが、

ついに最終兵器の臭いオナラを発散したが、


クーは怯むことなく、イタチを離さなかった。


その雄姿に感動した黒猫団の猫たちが

いっせいにイタチに襲いかかった。


この騒ぎを聴きつけて神主さんも出てきました。


ボコボコにされたイタチの姿を見て、

オカメインコを殺した真犯人だと

きっと分かってくれることでしょう。


「イタチのオナラにも逃げない、おめぇは勇者だ!」

「クーさん、バンザイ!」

「俺たち黒猫団の英雄だ!」


クーに次々と賞賛の言葉が贈られた。


今まで、

弱虫と笑われていたクーとは思えない

勇敢な行動でした。


「クーのお陰でチビクロが助かった。

この恩は一生忘れないから……」


クララの感謝の言葉にテレながら……。


「おいらは仔猫のとき

この神社で人間に拾われたんだ。

きっと、ここのみんなとは縁があるんだと

そう思ったから……」


「あたい……初めてクーを見た時から親しみを感じた」


「おいらもくろ兵衛やクララのことを……」



「もしかして!?」



二匹は同時に声を上げました。


「あたいのお兄ちゃんかも知れない」


「二年前にいなくなった男の子って

おいらのことかも……」


クーとクララは見つめ合って再会を喜んだ。



「ずっと黒猫団に残ってくれるんだろう?」


「クララ、ゴメンよ。

仲間が待ってるから、猫カフェ『にゃんこの館』へ

帰らないといけないんだ」



「やっと会えたのに……」


「今はそっちがおいらの家族なんだ」


「クーのこと待っているんだね」


「うん!」


「明日の朝、みんなで送っていくよ」


クララは涙を拭いて笑った。


翌朝、

クーは黒猫団に見送られて、

猫カフェ『にゃんこの館』帰還しました。


「クーさん、バンザイ! バンザイ!!」


――その勇気を黒猫たちに讃えられて!


「なあ、黒猫団に残ってワシの後継ぎになってはくれんか?」


くろ兵衛が引き留めようとしますが、


「ゴメンよ。

ここにはおいらを育ててくれた人間と、

大事な仲間たちがいるんだ。

だからみんなの元に帰りたい!」


「クー、おめぇはワシの自慢の息子じゃあー」


くろ兵衛はクーとの別れを惜しんでいた。



猫カフェの玄関から猫の鳴き声が聴こえます。


真っ先に蘭子が気づいて騒ぎ出しました。


みんなも起きてきて、

美弥さんが玄関のドアを開けると、

そこにクーがいました。


薄汚れて、もの凄くクサイ臭いがするので、

即行でシャワールームへ、


いつもなら水を怖がって、

ニャーニャー鳴きわめくクーが

神妙な面持ちで洗われています。



――身体に触れた指先から、逞しくなったクーを感じる。


家出している間、

きっとクーを成長させる経験があったのだと思った。


無事に帰ってきて良かったと嬉しさも込み上げて、

美弥さんはクーをワシャワシャと洗いました。


きれいになって、猫カフェに戻されたクーに、

姉貴分の蘭子から、『猫パンチ』の歓迎がありました。


「このバカ! 心配させやがって!」


仲間思いの蘭子はクーがいなくなってから、

餌も食べず、寝ないで、ずっと待っていたのです。



「蘭姉さん、ゴメンよ」


猫パンチの痛みより、蘭子の熱い心が嬉しいクーだった。


「お帰りー!」

「どこに行ってたんだよ」

「おまえは脱獄犯だぞ~」


猫カフェ『にゃんこの館』の仲間たちも

無事の帰還を喜んでくれています。


ここがおいらの居場所だとクーは思った。


――家出して、仲間の存在の有難さに気づいたのだ。


最近、蘭子が窓辺で寝そべっていると、

外から黒猫の親子が、

こっちを覗いていることがあります。


気づくと、クーが窓辺に駆け寄ってきて、

その親子にシッポを振って挨拶をしていました。


猫カフェ『にゃんこの館』でしか暮らしたことのないクーが、

外の世界に知り合いがいるはずない……。

きっと、あの家出中に知り合った親子なのでしょう。


家出中の話は訊かなかったけれど、

きっと良い思い出を作って帰ってきたのだと思った。


少しだけ、

逞しくなった弟分を誇らしげに思う蘭子なのだ――。



(ω゚∀^ω)ニャンニャーン♪

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