第24話 冒険にゃんこ ④

「おまえは何者だ!?」



兵士たちの隊長と思われる髭の男が尋問した。


長い洞窟を何日も彷徨っていた結果、いつの間にかエジプトを抜けて、

スエズ運河を越えて、


どうやら……ここはトルコ領のようだった。



シンプソン卿は、なぜここに居るのかということを

できるだけ分かりやすく説明していたが、

相手は不審がって信じてくれない。


「怪しい奴め! 一緒に来てもらおうか!」


どうやらテロリストではないかと疑われているようだ。


そして軍部に連行されることとなった。

シンプソン卿に兵士たちが手荒なことをするので、

怒って吾輩は抗議した。



ニャアァァ―――!!



力いっぱい大声で鳴いた。


「おや? 肩に乗ってる奴は猫だったのか」


「彼はバロンと言います。一緒に冒険の旅をしている猫です」


「耳がないのでフクロウかと思っていた。そうか、そうか、猫なら俺は大好きだ!」


髭の隊長の態度がガラリと変わった。



トルコは敬虔なイスラム教の国で猫好きが多い土地柄である。

それというのもイスラム教の開祖モハメッドが

大変な猫好きだった逸話があり、

その影響でイスラム教徒は猫をとても大事にするのだ。



「こんな耳の折れた猫は今まで見たことがなかった」


「バロンはスコフィッシュフィールドという猫で、突然変異で生まれた種族なのです」


「おまえは猫好きのようだな。猫好きに悪い奴はいない。

俺の家に来い、いっぱい猫を飼っているんだ」


そういうと髭の隊長は、

シンプソン卿と吾輩を自宅へ招いてくれた。



髭の隊長の家には、

きれいな奥さんと可愛いらしい娘が三人居た。

そして十匹ほどの猫たちも一緒に暮らしている。


トルコの猫は大事にされているので、

人懐っこく、みんな穏やかな性格なのだ。


「この子はアーイシャと言って、

トルコ原産のとても珍しい猫なんだ」



隊長の膝にはオッドアイの白猫が乗っています。


その子を見た途端、吾輩の胸はときめいた! 

彼女は素晴らしく優雅でセクシーな姿をしていたのだ。


「やあ、初めまして。吾輩はバロンと申します」


「あら、外国の方かしら? 

そんな風に耳が折れてる猫って初めて見たわ」


彼女も吾輩に興味を持ってくれたみたい。

アーイシャの案内でトルコの町を二匹で散歩した。


髭の隊長の家で一週間ほどお世話になる内、

シンプソン卿は隊長の三人の娘たちと仲よくなり、

吾輩はアーイシャと愛を育んでいたのだ。



お別れの日、アーイシャに

一緒にイギリスへ来てくれないかと懇願したら、



「バロン、それは無理なの。

私たちヴァン猫はトルコからの猫なのよ」



ヴァン猫はトルコを原産地とする品種で、

原種はもう絶滅したと伝えられて、

減少し続けているとても貴重な猫なのだ。



どんなに愛しく思っていても

アーイシャをここから連れ出すこともできない。

吾輩の胸は悲しみで張り裂けそうだった。


我々はお互いの毛つくろいをして別れを惜しんだ。


シンプソン卿は、

温かくもてなしてくれた隊長とその家族に感謝して、

洞窟で見つけた宝石をお礼に渡した。


吾輩はアーイシャに『永遠の愛』を誓って別れていった――。



風の噂でアーイシャが耳折れの仔猫を生んだと聴いたが、

冒険家たるもの愛よりも、危険な旅を欲するものなのである。



では、これにて吾輩のお話はおしまい――。

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