第29話 スーパーにゃんこ ①

猫カフェ『にゃんこの館』の

フロアーマネジャーのミーコさんは

オーナーの美弥さんが初めて飼った猫でした。


17歳のおばあちゃん猫

ミーコさんは人間の言葉が分かる

スーパーにゃんこなのだ!


         *


ミーコさんのお話をする前に

両親のことを話しておきたいと思います。


お父さんは三毛猫の三吉、半野良にゃんこ

珍しいオスの三毛猫なので、学習塾の先生に気に入られて

時々、お世話になっていました。


お母さんのミミは白いボディに黒い斑がある牛柄猫、

手芸屋さんの飼い猫です。


生まれた時からずっと家飼い、一度も外に出たことのない

世間知らずのお嬢さんにゃんこでした。


どうしてこの2匹が出会ったかというと……


それは春の嵐の夜でした。

ミミの飼い主がうっかり窓を開けたままにしていたため、

春雷に驚いて、外に飛び出し迷子になってしまったから――。


嵐の中、道に迷い、恐怖と空腹で

空き地にヘタリ込んでいたミミを助けたのが、

三毛猫の三吉だったのです。


自分の家に帰りたいと泣いていたミミですが、

外に出るのが怖くて、そこから一歩も動けません。

そんなミミのために……


毎日、三吉はせっせっと餌を運んできます。


その後、空き地にあった土管の中に

棲み処をつくり、2匹は一緒に暮らし始めました。


やがて猫たちの恋のシーズンがやってきて、

仲睦まじいカップルになりました。


――三吉もミミも初めての恋だったのです。


やがて、ミミは土管の中で4匹の仔猫を産みました。

牛柄猫の三匹がオスと、三毛猫のメスでした。

親猫になった2匹は助けあって子育てを始めました。


初めの頃、家に帰りたいと泣いていたミミも

三吉と仔猫たちとの生活に慣れて毎日が幸せでした。

飼い主のことも忘れてしまいそう。



しかし、ミミの飼い主は探し回っています。


写真付き『猫をさがしています』の張り紙を

あっちこっちの電柱や塀にベタベタ貼り付けて


見つけてくれた人には、謝礼金を払うと書いてあります。


飼い主の手芸店の女主人は

オールドミス、身寄りもなく、ひとり暮らし

ミミがいないと寂しくて、寂しくて……

ペットだけが心の支えの人でした。


ミミが家を出て三ヶ月ほど経って、

生後1ヶ月になった仔猫たちは、

土管の家から飛び出し、チョロチョロ歩き始めると、

危なっかしくて、いっときも目が離せません。


そんなある日、

牛柄のオスが1匹いなくなってしまいました。


今までは――。


空き地から一歩も出たことがないミミでしたが、

三吉がいない時だったので……


必死になって、

仔猫をさがしに空き地の外へ出ていった!!


だが、大通りへ出た途端、

電柱や塀にベタベタと張り紙されていたため、


ミミはすぐに通行人に見つかり、

飼い主に連絡され、


連れ戻されてしまったのです!


三吉が空き地に帰ると、

ミミの姿はなく、

仔猫が3匹お腹を空かせて鳴いていました。


翌日、町内の野良猫に

張り紙の猫が捕まったという噂を聞くと、


三吉は手芸店の前で、


「ニャーゴ、ニャーゴ!!」


大声でミミを呼んで鳴きました。


二階の窓に猫の影が映っています。


「ニャー、ニャー……」


かぼそい声が聴こえてきたのですが、

ミミの姿は見えません。


代わりに、

窓から顔を出した飼い主に追っ払われました。


それでも三吉は、

毎晩々、手芸店の二階のミミを大声で呼びました。


仔猫が心配なミミは、

早く空き地に帰りたいと泣いています。


けな気に2匹は声を掛け合っていたのですが、


怒った飼い主に、


「うるさい!!」


バケツの水を掛けられ追っ払われるのです。


オス猫に家の周りをうろうろされて、

またいなくなったら、心配になった飼い主は


去勢手術することを決めました。


その後、哀しいことに……


去勢手術されたミミは、

三吉の声に反応しなくなり、

いくら呼んでも応えてくれません。


もう窓に影すら映らなくなったのです。


やがて、手芸店を閉めて

いずこともなく消えてしまった――。


ミミがいなくなってから、

三吉はイクメンではなくイクにゃんとして

仔猫たちの世話を毎日していましたが……


日に日に大きくなる仔猫たちを見て

この子たちの将来が不安になりました。


半野良とはいえ、

三吉は学習塾で飼われています。


お腹が空いたり、病気になったり、年を取っても

ちゃんと帰るお家があります。


母猫のいない、この子たちは、

自分に何かあったら、誰も面倒をみてくれない。


怖ろしいボス猫、いたずらっ子、交通事故、

そして飢えや寒さからも守って貰えないのだ。


3匹の仔猫たちの将来のために

飼い主をさがそうと三吉は心に誓った。


そこで近所の野良猫たちから情報を集め、

仔猫を飼ってくれそうな家庭を


ピックアップ!


最近、飼い猫を亡くした鍼灸院の先生に

大人しい牡猫を1匹、玄関へ置いていきます。


家族全員が動物大好き!

犬、猫、兎、亀、インコを飼っている工務店の庭先へ

元気のよい牡猫を置いてきたのです。


その後、行方不明だった仔猫は、

近所の理髪店で飼われていることが

分かり安心しました。


そして、最後に残った仔猫を咥えて

学習塾に帰ってきた三吉を見て


みんな驚きました!


三吉のミニチュアみたいな牝の三毛猫、

三毛の柄の位置もまったく同じでした。


あんまりそっくりなので……


三吉の子どもだとすぐに分かります。

知恵も父親譲りの賢い仔猫だったのです。


それにしても、父猫が子を連れて帰るなんて……


おかしな話だと首を捻りながらも、

塾長も生徒たちも仔猫の可愛らしさに

メロメロ!


ミーコと名付けて、

一緒に学習塾で飼うことになりました。



仔猫たちに飼い主が見つかり良かった!


いなくなったミミの身を案じながらも……

我が子の成長を見守る三吉でした――。

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