第25話 冒険にゃんこ ⑤

「わーい! バロンおじちゃんカッコイイ!!」


バロンの話に仔猫たちは大喜びです。


「冒険の旅はまだまだ続くのだが、今夜はこれくらいにしておこう」


「ねぇーねぇー、

バロンはここでみんなと一緒にいるけど、

シンプソン卿はどうなったの?」


仔猫が無邪気に訊いた。



「彼は今でも冒険の旅を続けているさ。

たしか、中国の奥地で桃色のパンダを探しているはずだ」


「えぇー? ピンクのパンダ見たい! 見たい!」


「シンプソン卿から桃色のパンダの

写真が送られてきたら見せてあげよう」


「わーい」


「さあ、そろそろ君たちはオヤスミの時間だよ」



「――バロンはもう冒険しないの?」


イワンが真面目な声で訊ねた。


「吾輩はもう年だから冒険家は引退したんだ」


「俺もバロンみたいに、いつか冒険の旅に出てみたいんだ」


「イワン、君ならきっと行けるさ」


バロンは優しく微笑んだ。



「今夜はこれでおしまいだよ」


そのひと言で、

にゃんこスタップたちは

それぞれのゲージで休む準備を始めた。




「ねぇ、バロンってイギリス生まれで冒険家の猫だったの?」


バロンの話を窓辺で聴いていた蘭子が、

通りかかったミーコに質問した。


その問いにミーコさんは微妙な顔で笑った。


「これは内緒よ。絶対に誰にも話しちゃダメよ」


フロアマネージャーのミーコさんは

スタッフたちの個人情報を

オーナーの美弥さんを通じてよく知っています。


野良猫出身の蘭子は気性は激しいが

案外口が堅く、仲間思いの猫なので、

ミーコさんに信用されている。



「バロンは埼玉県のブリーダーさんの所で生まれた

スコフィッシュフィールドなのよ」


「えっ! それって日本じゃん!?」


「シィ―――……。

バロンは普通の家で飼われていたけど、

その飼い主さんが大変な映画好きで、

特に冒険映画をいつもテレビで写していたみたいなの。

バロンはそんな世界に憧れて、物語を創って主人公を演じているのよ」


「じゃあ、嘘なの?」


「まあ、嘘といえば嘘だけど……

バロンの嘘は誰も傷つけないし、

みんなも楽しんでいるからいいと思うの」


「うん。バロンの話は楽しいのでみんな夢中だよね」


「だから、みんなにはナイショにしてね」


「オーケー!」


共通の秘密を握った、蘭子とミーコはイタズラっぽく笑った。



「……けれど、どうしてバロンはここのスタッフになったの?」


もう少し訊いてみたい蘭子です。



「それはね。

バロンの飼い主さんが仕事で中国の奥地へ行くことになって……

中国では猫を食材として食べる習慣があるらしいのよ。

そんな危険な場所にバロンを連れていけないからと

飼い主さんに頼まれて、うちで預かることになったの」


「じゃあ、飼い主さんが日本に帰ったら、

バロンは引き取られていくの……?」


「もちろん。そうなるでしょうね」


それを聞いて、ちょっぴり寂しくなった蘭子です。



バロンが最後まで、

この猫カフェ『にゃんこの館』のスタッフだったら

いいのにと蘭子は胸の中で思いました。



だってお気に入りの窓辺の席で、

バロンの語る冒険談を聴くのが蘭子も大好きだから……。


耳折れ一族スコフィッシュフィールド、

自称イギリス生まれの冒険にゃんこバロンのお話は、

猫カフェ『にゃんこの館』のスタッフたちの楽しみでした。



ほら吹き男爵バロンの冒険談、まだまだ続きがありそう!



(ω゚∀^ω)ニャンニャーン♪

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