第22話 冒険にゃんこ ②

吾輩とシンプソン卿は冒険の話があると

世界中のどこにでも飛んでいったのだ。


これはエジプトのギザの大ピラミットの近くにあった

地下の王家の墓をあばいた時のことだった。


砂漠の中で発見された王の墓だが、

一度も墓荒らしに侵入された形跡がない。

それは非常に見つかり難い場所にあったがために、

何世紀も忘れ去られた存在だった。


墓穴を塞いでいた大きな石板を除けると、

ポッカリと大きな入口が開いた。

吾輩はシンプソン卿の肩に乗って、

ロープで一緒に地下へと下りていったのだ。


冒険の旅に出る時、

シンプソン卿の肩の上は吾輩の定位置である。

どんな時もそこから降りることはない! 

ずっとしがみ付いておったのだ。


わっはっは!



真っ暗な暗闇の穴を足が着くまで下りていく、

さて、15分くらいはロープにぶら下がっていたことか? 


吾輩は暗闇でも目が見えるが、

人間のシンプトン卿はさぞや不安だっただろう。

だが、彼も吾輩と一緒ならば心強いようである。


やっと、地下に着いた我々は中を探索し始めた――。


真っ暗やみの中で、

ヘルメットに付けた小さなライトが唯一の灯りだった。

そんな時、暗闇でも見える猫の目が役に立つ、

いつも吾輩がシンプソン卿を誘導していた。


行き止まりに大きな石板の扉があった。



その扉には古代エジプトの象形文字ヒエログリフが描かれていた。

冒険家の考古学者であるシンプソン卿は、

そのヒエログリフを解読して、


「バロン! この奥の石室に王の棺が置かれているようだ」


と語った。 


その部屋に入っていきたいが、石板の扉の開け方が分からない。

押しても引いても、その扉はビクともしなかった。


「ああ~。ここまで来たのに諦めて、引き返すしかないのか……」


シンプソン卿がガッカリして溜息を吐いた。



その時だった、扉の前にあった

猫の女神バステト像の眼がキラリと光ったのだ!


吾輩は猫の第六感(sixth sense)

『シックスニャンス』で、

これは何かあると思い……

シンプソン卿に教えるために女神バステト像の

頭の上に乗って、ニャーニャーと鳴いた。


「バロン! この像に何かあるのかい?」


そして、しばらく探っていたが……

猫の女神バステト像の首をクルリと回すと

石板の扉が開いたのだ。


勇み足でその部屋に飛び込もうとした

吾輩たちの足元に

とんでもない生き物がいた!

 

それは釜首をもたげ、とぐろを巻いく

何百匹もの猛毒蛇キングコブラだった。


これでは危険過ぎてとても前へ進めない。



毒蛇たちに行く手を阻まれて……


その奥にある王の棺に行きつけず、

口惜しさにギリギリと歯ぎしりをする

シンプソン卿と吾輩だった。



キングコブラの床をいかに突破すべきか!?


その時、吾輩の頭の中で豆球がピカッと光った。

これぞ『シックスニャンス』である。


我ら猫族には飼い主でさえ鼻をつまむ必殺のアレがあった。

もしかしたら、キングコブラにも通用するかもしれない。


失礼! 

声を掛けてから、吾輩はキングコブラに向ってオシッコを掛けた。

牡猫の秘儀、スプレーのようにオシッコを満遍なく撒いて歩いたのだ。


さすがに、この臭いオシッコにはキングコブラも驚いたようで、

慌てて壁の隙間や砂の中に潜っていった。



シンプソン卿は、


「今だぁ―――!!」


と、叫んで駆け出し

キングコブラの床を強行突破したのだ。


あっはっはっは!



王の棺はピラミッド状に石を積んだ台座の上に安置されている。

そこに登る高い階段があり、天井は吹き抜けになっていた。


神殿の左右には山犬の頭を持つ

死後の世界の神、アヌビス神の像が二体、

王の棺を守っていた。


ミイラが入った棺は黄金で作られていて、

眩いほどに輝いていた。


その側に小さな棺があった。

これは王のお供で死者の世界へ逝く

猫のミイラなのだ。


古代エジプトでは、猫は高貴な生き物として、

とても大事に扱われていて

王が死んだらミイラにされて一緒に埋葬されていた。



吾輩はミイラにされた猫族のことを考えると、

ちょっぴり複雑な思いがするが――。



いよいよ、

シンプソン卿が棺を開けようと手を掛けたが、

黄金のフタは重くてなかなか開かない。


やっと少しフタが動いた時、

急に床がグラッと揺れたと思ったら! 

大きな穴が足元に口を開き、

吾輩たちは穴の中に真っ逆さまに落ちていった。



もしや、これが? 

王の墓を暴こうとした盗賊たちへのトラップだったのか!?

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