第23話 冒険にゃんこ ③

どれほどの高さから落ちたか分からないほど長い落下時間だった。

意識を失いかけた頃に、ふわふわした柔らかい場所に

やっと着地したようだ。


まるで絨毯のような手触りでシットリした温もりがあった。



――あれれ、何だろう? 

よく見たらそれは巨大なキノコの傘の上だった。



どうやら吾輩たちは王家の墓から、

突然、地底の洞窟に落ちてきたようなのだ。


洞窟の中は白い石膏の結晶で覆われた壁と、

鏡のように透き通った池があった。

真っ暗なはずの洞窟が明るいのは、

壁面でバクテリアが発光しているせいだ。



はてさて、これからどうしたものか?

果たして、ここから脱出する方法があるだろうか?



とうとうシンプソン卿と吾輩は、

思いもよらない地底旅行をする破目になってしまった。


ただ、ひたすら出口を求めて歩き続けた

途中で何度も道が別れていたが、

その度、吾輩の猫の第六感!

『シックスニャンス』

で、道を選んできた。



食べ物は巨大なキノコや

鏡のような池で泳いでいる真っ白な魚を捕まえた。

時々、兎ほどの大きさ地底ネズミが姿を見せたので、

そいつも捕まえて食べた。


冒険者たるもの、どんな場所にいっても、

その環境に生息する生き物を

食べていかないと生き延びられないのだ。



かれこれ一週間にもなるだろうか?

出口を求めて洞窟の中を歩き続けている最中

『宝石の森』の中を通った。


大きな岩が地面に転がっていて、

その岩の表面には

ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンドなど、

大粒の宝石が貼り付いていた。



さながら宝石のクリスマスツリーのように

キラキラと輝いていたのだ。


ちょっとナイフの背で叩くと、

宝石はポロポロ剥がれ落ちていく――。


そんなものには、興味もないが、

シンプソン卿は一握りだけポケットに入れた。



また出口を求めて歩き続ける。

さすがに吾輩たちも疲労が溜まってきて……

このまま一生、地表には出れないのではないか?



……と、ネガティブな思考が頭をよぎる。



我々は勾配を昇ってきたようなで、

洞窟はだんだん小さく狭くなって……

ついに天井に手が届くようになってしまった。


この先は行き止まりになるだろう

一人分しか空間がない所にまで行き着いた。


ああ、出口が見つからない。

我々は、このまま野垂れ死にする運命なのか!?

 

アーメン! 

シンプソン卿と吾輩は神に祈りを捧げていた。


その時である! 

吾輩の敏感な耳が微かな物音を聴いたのだ。


猫の耳は犬の2倍、人間の4倍の聴力を持つのである。

耳折れ一族スコフィッシュフィールドだって

鋭い聴覚が見えない物でも、

ちゃんと、この耳で音を捉えることができるのだ。


間違いない! 

この上には町があるようだ。

吾輩はシンプソン卿に知らせるべく、

天井をガリガリ引っ掻いて、

大声で、ニャーニャーと鳴いた。


「バロン! どうしたんだい? そこに何かあるんだね」


耳を澄ませば、

微かに足音のような振動が伝わってくる。


シンプソン卿は大きな石を拾ってきて、

洞窟の天井をドンドン叩いた。


しばらくすると、

上の方から合図を送るようにドンドンと音が返ってきた。


こっちも必死でドンドン叩いて合図を返すと、

向う側も気が付いたようだ。


その後、ブルドーザーのような物が穴を掘り始めた。

機械の振動が洞窟の天井全体に伝わってきた。



ついに、

 

ガガガーガチャ―――ン!! 



大騒音と共に天上にポッカリと大きな穴が開いた。


助かった! 助かった!!

やっと外の世界へ出られる歓喜で胸が躍った!


だがしかし、穴から出てきた我々を待っていたのは

小銃を構えた兵隊たちだった。


シンプソン卿の頭に銃が突きつけられていた。


まさになのだ!!

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