第32話 スーパーにゃんこ ④

若い頃はあっちこっち放浪していた

半野良の三吉も10歳を越えた頃から

飼い主の学習塾で静かに暮らすようになった。


日当たりのいい広縁に

お気に入りの赤い座布団を敷いてもらい

そこで寝ている時間が長くなりました。


ミミと別れた後も、

若い牡猫の三吉に何度も

恋のシーズンがやってきたけれど……


もうミミの時のように、

牝猫とも仔猫とも関わることをしない。


ミミとの大切な思い出を

新しい恋で“上書き”したくなかった!


年を取った今も、若き日の恋人ミミを想って

ため息を漏らす三吉だった――。



三吉が昼寝をしていると、

どこからともなく、図体のでかいトラ猫がやってきて、

一緒に隣で眠っていたりします。


この2匹は昔から古い付き合いで

トラ猫は『浅草の寅』と呼ばれるボス猫でした。


父親からナワバリを引き継いで、

二代目『浅草の寅』を名乗っていました。

今では『浅草の寅』三代目を息子に譲って

悠々自適の生活を送っています。


この町内には『浅草の寅』ファンがいっぱい!

寝る場所と餌には不自由しないようです。



ある日、三吉は新聞のチラシに

懐かしい姿を発見しました。


猫カフェ『にゃんこの館』近日オープン!!


チラシにはそう書かれていて、


三吉もミーコのように

人間の言葉も分かるし、文字も読める

超天才にゃんこなのだ!!


チラシに猫たちの写真が載っていました。


外国産の高価な猫たちに混じって、

自分にそっくりな三毛猫が写真があります。


もしや……この子は……

ミミの忘れ形見ミーコじゃないか!?


ひと際大きな写真には、


フロアーマネージャー・ミーコ


そう書いてあります。


こんな高価な猫たちを仕切っているが、

ただの三毛猫とは……


俺の娘は女親分になったのか!?


立派になった娘ミーコに、

ひと目会いたいと三吉は思いました。


学習塾から女の子の家に引き取られてから、

家を引っ越したと聞いて、

一度だけ、新しい家を見に行ったことがあった。


あの時は、猫の足で3日で行けたが、

今の三吉なら5日はかかるかもしれない。

とうていオープンには間に合わないだろう。


老いて足腰の弱った三吉にとって

他のナワバリを横断していくことは、

かなり危険なことだった。


「オープンまで3日しかない……」


この足で会いに行くのは難しい、

やっぱり諦めるしかない……か。


ため息を吐きながら、

三吉がチラシを眺めていたら、


「おんや? おめえにそっくりじゃねぇーか」


いつの間にか『浅草の寅』が隣にいた。


「……でも瞳はミミにそっくりなんだ」

「あんとき、育ててた娘が立派になったもんだなぁー」

「ああ、猫カフェってとこで働いてるらしい」


「会いに行きたいのかい?」


事情を知っている寅には、

すぐに見抜かれてしまう。


「若い頃だったら、すぐにでも会いに行けたが、

足腰が弱った今の状態じゃあ……とうてい無理だ」


しょんぼりとうつむく三吉に、


「あきらめんなっ!」


威勢のいい声でハッパをかけた。


「道中心配なら、三代目に頼んで『浅草の寅』一家から、

元気のいい若い衆を2、3匹つれていくさ」


「……けど、今の俺の足じゃあ、足手まといになるだけだ」


「てやんでぇ! おいらたちは仲間じゃねぇーか!

三吉の夢は絶対に叶えてやるぜぇ!!」


「寅……」


「任せろ!

おいらもついて行くぜぇ~」


「ありがたい……」


三吉の目に涙がにじんだ。

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