第10話 芸人にゃんこ ②

今や、にゃん太は

猫カフェ『にゃんこの館』の

不動の人気者スタッフとなった。


毎月のアンケート結果で貰える

特別ボーナスのツナ缶10個を

ミーコさんに頼んで、オーナーの美弥さんに

貯金? いいえ、『貯缶』して貰っています。



なぜ、にゃん太は自分で食べないで、

ツナ缶を貯めて置くのかというと、

いつか母猫タマが見つかったら

貯まったツナ缶で人間に養って貰うためなのです。


親孝行のにゃん太は

母猫タマのことをいつも思っています。


そして、貯缶ツナはもう100個以上は

溜まった頃でしょうか、

猫カフェ『にゃんこの館』に

新しいスタッフとして

キジ猫の蘭子がやってきました。



元、野良猫だった蘭子は

かなり苦労してきたようで

ここに来たころは、相当荒れていました。


同じ日本猫同士で

にゃん太は蘭子に近親感が湧いたし

野良猫の暮らしも聞きたいので

いろいろ世話を焼いてあげました。


しかし蘭子の方は

にゃん太の人間に媚びた営業方法に対して、


「アンタ、猫のくせに

犬のマネなんかして、恥かしくないの!?」


と、辛辣な意見でした。


「君は君のスタンスでやればいいさ、

俺には俺のやり方があるんだから

よけいな口出しはしないでくれ!」


何度もケンカになったことがあります。


「フン! 猫のプライド捨てたの?

アタシは野良だったけど、

猫としてのプライドは捨ててないわよ!」



猫のプライドってなんだ?


俺には、それがないというのか……

にゃん太には、その言葉の意味が分かりません。


しかし自分は、

芸人猫としての矜持はちゃんと持っています。


 『お客さんを喜ばせること。楽しんで貰うこと!』


いつも、そういう心構えで、

猫カフェ『にゃんこの館』のスタッフとして

にゃん太は働いているのです。


『野良猫の魂は捨てない!』


それが蘭子の拘りだったのです。


仔猫だった蘭子もまた、

保健所の“ 殺処分 ”ギリギリで助かった

幸運な野良猫だったのです。


“ 殺処分!? ”


初めて、そんな言葉の意味をきいて

にゃん太は凍りつきました!


もしかしたら……

母猫のタマも“ 殺処分 ”になっていないだろうか?

タマのことが心配で、心配で堪りません。



――そんなある日のことでした。


ミーコさんが新聞の切り抜きを持って

にゃん太の所へやってきました。


「にゃん太、この人間と猫は知り合いじゃない?」


キリ抜きを見ると、

な、なんと! タマとおじいさんが

一緒に写っている写真ではないか!?

ずいぶん痩せているけれど……

間違いなく、1年前に別れた母猫のタマです。


「ミーコさん、これは……」


「美弥さんが、にゃん太をここに連れてきた

おじいさんだから、この猫に見覚えがないか

訊いてきてと言われたのよ」


「この茶トラは俺のかあさんだ!」


感動のあまり、にゃん太は涙が溢れました。



新聞の記事にはこう書いてありました。



   ■ 捨てた飼い主に猫が恩返し! ■


○○時計店の店主、●●留造さん(78歳)が

自宅の風呂場で倒れていたのを、元飼い猫だった

茶トラの牝猫が発見して、窓辺で大声で鳴いたり、

網戸を破るなどして、異変を近所の住人に知らせた。

留造さん宅では犬も飼っていたが、侵入者ではないので

気付かずに寝ていたようである。

この猫はタマと呼ばれて、1年ほど前に捨てたが

最近、ここらに戻ってきていたということだ。

捨てた飼い主の命を救うとは、感心な猫だと近所では

評判になっており、留造さんは、

「一度捨てた猫が命を救ってくれた。もう二度と捨てない」

と涙ながらに語っていたという。



ミーコさんから、こういう新聞記事の内容だと

にゃん太は丁寧に説明を受けた。



良かった! 

かあさんは生きていて、しかも人間の役に立って

また、おじいさんに飼って貰えるんだ。


にゃん太は、ミーコさんに

おじいさんの家は貧しいので

今まで貯めたツナ缶を母猫のタマの元に

美弥さんから届けて欲しいと頼んだ。


「ファンからのプレゼントだと伝えてくれ……」


「いいえ、私も一緒についていって

これは孝行息子にゃん太から贈り物ですと

タマさんにちゃんと話すわよ」


「ミーコさん……」


その後はにゃん太は涙で何も言えなかった。



二人の話をそっと窓辺で聴いていた

蘭子は“ 殺処分 ”になった自分の母猫を思って、

静かに泣いていました。



にゃん太が芸人猫になった

本当の理由を知って、ヒドイことを言ったもんだと

蘭子はつくづく後悔した。


「ミーコさん! これからも芸人猫として、

かあさんへ仕送りのツナ缶を送るため俺は頑張るぞっ!」


「ああ、頼んだよ!」


にゃん太は新たな目標ができて大張り切りです。


そして、今日も

猫カフェ『にゃんこの館』の

「人気ナンバー1」スタッフのにゃん太は


『お客さんを喜ばせること。楽しんで貰うこと!』


それをモットーに、さらに芸を磨いているのです。



                ― おしまい ―


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