第14話 マミーにゃんこ

猫カフェ『にゃんこの館』の

スタッフ猫、マリリンには、

とても悲しい過去がありました。


バーマンという珍しい猫のマリリンは、

長くて絹のような手触りの毛を持ち、

綺麗なサファイアブルーの目、

脚の先端がまるでソックスを履いたように

白いのが特徴でした。


伝説では、

バーマンはビルマ(現在のミャンマー)の

高僧ムンハーのもとに現れた、

シンハというネコが起源といわれています。


マリリンには生まれた時から飼い主がいますが、

彼女はペットではありません。

そして家族という扱いでもありません。


飼い主の職業はブリーダーという

繁殖猫に仔猫を生ませて売るのが商売でした。



シーズンごとに交尾して、

マリリンは仔猫を生みました。


バーマンのブリーダーは少なく、

仔猫たちはとても高価な値段で取引されています。

そのため飼育環境は整えられていましたが、

一度も飼い主に可愛がられたことがありません。


マリリン以外にも高価な猫たちがいましたが、

一緒に遊ぶこともなく、餌の時間以外は

ゲージに入れられっぱなしが多かった。


まるで機械のように仔猫を生むのが、

繁殖猫マリリンの仕事でした。


生まれてきた仔猫たちも個体チェックで、

奇形があったり、虚弱だったら、容赦なく間引きされる。

ブリーダーにとって商品価値のない仔猫は不要なのです。


出産後、約ひと月は仔猫たちと一緒に暮らせるので

その間だけ、マリリンにとって幸せな時間でした。

仔猫たちに授乳させたり、毛つくろいをしたり、

抱きしめて眠る時は母猫として喜びを感じます。


マリリンはとても母性愛の強い猫でした。


ずっとこのまま仔猫と暮らしたい、成長を見守りたいと、

どれほど願っていたことでしょう。


けれど、ひと月を過ぎた頃、

突然、マリリンの元から仔猫たちが取り上げられて、

どこかへ連れ去られてしまう運命でした。


その度に、

マリリンは別れを嘆き悲しみましたが……

また次のシーズンには交尾して出産する、

そして生まれた仔猫を取り上げられる。


そんな生活パターンをマリリンは

何年も繰り返していたのです。



そんなある日、マリリンは病気になりました。


妊娠してないのに、お腹が腫れて、痛くて……

吐いてばかりで、餌も食べられず、

ゲージの隅にうずくまっていました。


マリリンの異変に気づいたブリーダーは

慌てて動物病院に連れて行きました……が、

その日は、行きつけの獣医が休診日だったらので、

地元でやっている別の獣医に診せることになりました。


『青空動物病院』という看板を掲げる、

その病院は初老の院長とその息子の二人で診察しています。


院長の診察によると、

牝猫の子宮に細菌が感染することで炎症が起こり、

子宮内に膿がたまる『子宮蓄膿症』と呼ばれる病気でした。


マリリンの病状は重く、

至急、卵巣と膿のたまった子宮を摘出する

手術しなければ死んでしまいます。


マリリンの診断を聞いたブリーダーは、

院長に向かって


「子宮を取って仔猫の産めなくなった

繁殖猫なんか要らない。

さっさと安楽死させてくれ!」と言い放った。


あまりに無慈悲な言葉に、いくら院長が説得しても


「要らないので殺してください」


と飼い主は繰り返すばかりでした。


そのやり取りを側で聴いていた、院長の息子がついに、


「あなたが要らないというのなら、

このバーマンはうちで預かります!!」


と、大声で宣言しました。


「どうぞ、ご自由に……」


そういうと診察料も払わず、

マリリンを置いて、

ブリーダーは帰ってしまいました。


その後、マリリンは手術をして元気な猫になりました。


しばらく『青空動物病院』で暮らした後、

院長の息子の幼馴染、

猫カフェ『にゃんこの館』のオーナー美弥さんに

引き取られることになりました。


仔猫の頃から、

狭いゲージの中で暮らしていたマリリンは、

猫カフェ『にゃんこの館』にきてから、

自由に室内を動き回れることを知りました。


団体生活も不安でしたが

フロアーマネージャーの三毛猫のミーコさん、

芸人猫のにゃん太やイギリス紳士のバロンたちに

優しくされて、この店にもすぐに慣れました。


オーナーの美耶さんは一匹一匹の猫に目を配り、

まるで家族のように大事にしてくれます。


なによりも嬉しかったのは、

アメリカンショートヘアーの三匹の仔猫たちに出会ったことです。


この子たちは生後三ヶ月で母猫を亡くした孤児、

マリリンは仔猫を取り上げられた寂しい母猫、

お互い求め合って家族になったのです。


「マミー、マミー」


母親のように慕ってくる三匹の仔猫たちに

目を細める毎日だった。


マリリンは思いました、

「ここにきて良かった。

もう仔猫は産めないけれど、あの子たちがいる」

三匹の毛つくろいをして、親子のようにして一緒に眠ります。


目覚めた時、三匹の仔猫の姿が側にあると、

マリリンは嬉しくてギュッと抱きしめてしまいます。


繁殖猫だったマリリンが、初めて味わう母猫の幸せでした。


猫カフェ『にゃんこの館』で、

マミーにゃんこ、マリリンの幸せが続きますように――。


(ω゚∀^ω)ニャンニャーン♪

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