第12話 派遣にゃんこ ①

三丁目にある

猫カフェ『にゃんこの館』に

派遣の仕事が回ってきた。


なんと白羽の矢が

ロシアンブルーのイワンに刺さった。


        *


あるお金持ちの屋敷で飼われていた

ロシアンブルーが行方不明になっている。


飼い主の老人は重病で余命幾ばくもない、

愛猫がいなくなったことに気づいたら、

おそらくショックで亡くなってしまうかもしれない。


心配した家族がお祖父さんのために

愛猫の身代りを演じて欲しい。


いわゆる影武者(影猫)として、

同じロシアンブルーで毛並もそっくりな

イワンにその役が回ってきたのだ。


――その話に、イワンは大喜びだった!


物心ついた時から

猫カフェ『にゃんこの館』しか知らなかったので、

外の世界に憧れていた。


これから自分の身に起きるかもしれない事件を

あれこれ想像して、冒険心でわくわくでした。



ついに、黒い高級車が

猫カフェ『にゃんこの館』に迎えにきた。


仲間の猫たちに別れを告げ、イワンは意気揚々と

ペットキャリーに入って、何処ともなく連れて行かれた。


イワンが着いた所は大きなお屋敷だった。


ガラス張りの広い猫部屋に入れられた。

そこにはキャットタワーやキャットベッド、猫トイレ、

豪華なキャットフードが置いてあった。


今までみたいに

にゃんこの館の仲間たちと争わなくても、

ぜ~んぶイワン一匹の物だし、

まるで王様にでもなった気分だった。


広いお部屋でのうのうとして居られるし、

ご飯は毎日、高級猫缶ばかり、メニューも豊富!

みんな気を使って

チヤホヤしてくれるし、イワンは大満足だった!!


初めの数日間は、快適な暮らしだと思った。

けれど慣れてくると、段々と退屈になってきた。


見える風景は隣の部屋でベッドに横たわる老人の姿、

何本も身体にチューブを通されて、今にも死にそうだった。


痛々しい病人が、時々、イワンの方を見て

弱々しく微笑むのだが……

なんだか陰気臭くて気が滅入ってくる。


ここにはケンカする相手もいないし、

イタズラを仕掛ける相手もいない。


ああ、ツマンナイ! 

ここは俺の居場所じゃないんだ!!


みんなと別れて、独りぼっちになることが

こんなにツライことだと思わなかった。


帰りたい! 帰りたい! 帰りたい!!


ホームシックにかかったイワンは、

猫カフェ『にゃんこの館』へ無性に帰りたくなった。

そして逃げ出すチャンスをうかがっていた。

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