第21話 夢野久作に憧れて

  無限地獄

        野口剛


 夜も落ち着いた。先ほどまで村で祭りがあった。毎年の夏になれば皆が踊る。歌う。酒を呑む。今日は八月二十一日、山の神に感謝するべき日でもある。あれは夕方の時刻、村のとある娘が騒いでおった。父が惨たらしい姿で死んでいるのを見つけたのだ。赤色に照らされて、蝉が哀しく鳴いていた。村人たちは娘の父親よりも、山の神の方が大事であった。村人たちは一人の死がまるでなかったかのように祭りを始めた。

 それから今、私が気付いたのはその娘が何処へ行ったのかということ。山へ一人で入ったそうだ、と村人たちは噂した。繰り返すが今は夜である。男であっても夜の山は恐い。私はどうもその娘が気の毒でならなかった。父親は殺されたのだろうか。それとも山の神の生け贄になったのだろうか。

 しばらくして村人たちは騒ぎ始める。見ろ、山から火の手があがっているぞ、と山を見れば確かに燃えていた。早速、火消しが向かった。しかし、山火事は果たして消えない。ひょっとしたら娘が火をつけたのではないかと村人たちは怒った。

 私は村から避難している。日の出と共に赤い赤い山火事があらわになる。私はその光景に思わず見とれた。まるで山の神が降りてきたかのような。神々しさを感じた。娘がついに見つかることはなかった。

 その娘の苦しみは、無限の地獄のように消えることはないのだろう。あの娘は何者だったのか。山の神の化身とでも言うのだろうか。あれから私は年老いた。今でも村から山を眺めては、あの娘を思い出すのである。

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