第14話・少女とドールと

 G-O-6000ゴローはサルマやアンネッタが思っているほど、見境が無い思考形態は持っていない。しかし、同時にゴローが独自の倫理観を獲得していることに気付いていなかったのも事実だった。


 ゴローの判断からすると、サルマやアンネッタは善人・・である。なるほど、二人共に破壊活動を行う可能性はある。事実としてそういった過去を持つことも了解している。

 だが、この二人は目的を持って活動する際、周囲への被害にできる限りの配慮を行う。情報が不足しているが、社会情勢にも一定の心配りをしていると、仮にという言葉が付くものの、判断できる。


 ゆえにゴローは善人に関しては、結構な確率で見分けることができる。ただし、悪人に対する理解は浅い……というより判断が保留されている。

 違法ドローン達は人間という存在を、映画などの娯楽で学んだ。そして、自分たちを改造した科学者とサルマを参考にして人間とはどういったものかの、すり合わせを行った。


 この二人が疲れてはいるものの、社会的な人格であったためにドローン達は破滅的な存在にならずに済んだ。

 だが、悪人を判断するのを難しくもしてしまった。

 悪人とて全ての行動が道理に反しているわけでもない。映画などでも格好いいと定義づけされる悪人や、正義の側へと味方する者もいた。


 それでいて、ドローン間データベースリンクから知識だけは得られてしまう。自我を得た楽園のドローン達は、実物を見る機会が来るまで待つことにする。

 楽園のドローン達がどうしているのか、もはや旅人になったゴローは彼らより先に悪人を見る機会が早いであろう。


 というより、実際に、現在、見ているところである。

 空飛ぶ風呂敷のような姿のゴローは、マーケットから少し離れた位置にある家の前まで来てしまっていた。

 迷いたくて迷ったわけではなく、人間が多すぎて照合や記録の大量開始によって正常にサルマ達を負えなかったのである。



「良いか? お前みたいな小娘がこんな物を持っていたって意味が無いんだ。大人しくピューラー様に差し出せば、悪いようにはしねぇ」

「案外、女にだってしてくれるかもしれねぇな」

「ひゃははははっ!」



 巨漢どもが小さな女性を、3人がかりで囲んでいた。それに対して、赤髪の少女は一歩も引かない。未だ若さの残る声で、一端の言葉を叩き返す。



「ふん! ピューラーにはコイツの中にある機材のことなんか、ネジ一本だってわかりゃしないさ! コイツを渡したら、ガラクタ市を脅すのに使うことぐらいアタイにだって分かるさ!」



 なぜか影に隠れながら、ゴローは彼女の言う“コイツ”に注目した。古ぼけて、サビの跡が残っているボロボロの兵器。

 それにゴローは覚えがあった。相棒であるサルマが持っているアンティークドールに良く似ている。ただしガレスのような装飾は施されていなければ、異常な反応も店ない。データによるとカライザ共同体の使用していた通常のドールだ。

 しかし、辺鄙で武装も原始的なこの星では恐ろしい影響力を持つだろう。



「良い気になりやがって、このガキがぁ!」

「アタイのデータが登録されてるんだ。乗ったって動きゃしないさ。さぁ帰んな!」

「ははつ。なんで今頃俺たちが来たと思ってんだ。生体データの解析装置が手に入ったのさ。ただ少しばかり時間がかかるからなぁ。手間を省きに来ただけさ」



 人相の悪い男たちは少女の胸ぐらをつかみ、下卑た会話をしている。ゴローが飛び出したのはその時だ。



「Vi~~~Vo~~!」

「うわっ! 何だコイツ!」



 浮遊してのゴローの体当たりを受けた男はすっ飛んでいった。慌てたゴロツキ達はゴローの方に注目したため、少女は開放された。



「やるってのかコイツ……なにかおかしくねぇかコレ?」

「ピューラー一家に逆らう連中だ。おらっ、その雑巾を脱ぎやがれ!」



 布を剥がされるという行為に、ゴローは抵抗できなかった。それは罪としては軽いため、殴り倒してまで反抗することはしない。

 人工知能の枷が外れても、自我があるドローン達は無闇に人を傷つけたくはないのだ。



「ドローン!? 誰の差し金だ!」



 当然、独断で行動しているなどチンピラには思いもつかない。アンネッタのように学がない者達は、誰かの命令で動いていると判断するしかない。

 

 ゴローは殴られ、蹴られる。人間の殴打程度はゴローにとっては、どうでも良いことだが、光景とした痛々しい。

 小さな子供が友達の前で懸命に耐えているようだった。



「止めてあげて!」

「ほう? なら……」



 続けようとした時。荒れ地にある岩の一つが溶けた。戦闘用装備が無い者には見えないが、それは光線だった。

 逆に言えば、見える者もいる。


 アンネッタは偶然、ここに辿り着いた。ガラクタを集めた銃のスコープで視認できる距離だ。生真面目な彼女は街から外れてポツンと建っている家にも注意を向けたのだ。

 そして、賭けた。異常な肉体を持つあの男なら、合図も見えるだろう。


 その証拠とばかり、二人になってしまったチンピラの片割れが突然倒れた。



「な、なんだ、何が起こっていやがる」

「火星バッタが歩けば、泉があるというやつだな。人の相棒を嬲ってくれた礼をしてやる」



 首筋に包から覗いた金属が男に触れると、目視できるような電流がチンピラに流れる。スタンモードなので死なないが、どこに当てるとどれだけ痛いか。サルマはよく知っていた。

 溜飲は下がるが、なにか厄介事になった確信があった。

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