第20話・別れの前に

 うひょー、という声が通信機から漏れてきてサルマはため息をついた。ピューラー一家のコルベットから抜き出したパーツを収納した際に、小型の実弾兵器をこしらえてエプソのキゼルに付けたのだ。


 そして、慣熟飛行も兼ねて外に出して遊ばせているわけだが……



『どう? エプソの調子は?』

「センスは悪くないし、空間把握も及第点。ただ、どうもトリガーハッピーのけがあるな。性質があまり戦闘向きじゃないかもしれん」



 キゼルが持っている古のガトリングガンに似た火砲は、実弾を撃ち出す類の兵器だ。サルマが駆るガレスのランスキャノンも同様の兵器である。

 利点としては弾丸の種類を細かく変えることで、幅広く対応できること。そして、機体のエネルギーを消費しない点だ。

 デメリットは高い知識と洞察力が無ければ、自らの汎用性が足かせとなること。そして、弾丸を消耗することだ。



「しかし、レールガンや光線兵器の類じゃキャパシタが枯渇するだろうから、あいつはアレで良いのかもな。宇宙は広いから、一人で弾幕を張るような戦い方も有りと言えば有りだ」

『ふぅん』

「聞いた割に気が抜けた返事だな。懐旧への誘いは不発かな」

『不発というのは言い得て妙ね。あの子、組織とか忠誠とかそういったモノをそもそも理解してないのよ』



 エプソはあの辺境惑星で、狭く生きてきたのだから当然かも知れない。守るべきは顔が見える対象であり、どこかの誰かどころか理念を守るために戦うなど理解不能だろう。

 サルマとしてはそうした視点は好ましいモノに感じられるが、アンネッタはそうもいかないのだろう。



「無理に連れて行かない方が良いかもな。テキストよりも実物を弄るタイプだから、アカデミーで確実に浮くぞ。懐旧さんにも士官アカデミーぐらいあるんだろう?」

『そうね。サルマ、貴方も来ないの? 貴方なら確実に厚遇されるわ。旧時代のエリートはこの時代では重宝されるなんてものじゃないわ』

「お前さんの熱意にうたれて、俺も真面目に考えてみたが……やはり無理だ。長く生きていると意外に勘が磨かれる。年食うまでは逆だと思ってたんだがな。……懐旧連合に加われば、俺はかつての仲間達と争うことになる。そう思うんだ」



 アンネッタが落胆した音を出した。サルマが思うに、アンネッタは今では理念のために動いていない。わずかの逃避行をともにした仲間たちと、共にありたいと思っている。

 それは良い悪いで語るモノではないだろう。サルマはかつて、最初は仕事で戦い、次は理想のために戦い、最終的には罪悪感で戦った。

 とてもではないが、楽しいと思えるようなものではなかった。他人が掲げた理想のために戦うということは、己の一部を削ることを意味する。



「ひどいことを言うが……覚悟を決めるのはお前だよ、アンネッタ。船を手に入れた以上、別れの時は近い。カクテル・カルテルの動向予測と、長距離ジャンプの航路が算定されれば、懐旧連合の支配域までの移動は一瞬だ。俺たち……まぁ少なくとも、俺とゴローはその前に離脱する」

『そうね……貴方達と過ごした日々は、無茶苦茶で雑多としていて私の求めるものとは逆だった。そのはずなのに……』



 通信越しの声は絞るように消えていく。アンネッタにとって、サルマ達との日々は決して悪いものでは無かったのだろう。そして、それが力となることをサルマは願わずにはいられない。

 通信を最期に、永遠に失われていく生命をサルマは見すぎていた。アンネッタと清々しく別れられるのなら、それに勝る救いは無いだろう。


 ゴローがいなければアンネッタとサルマは出会うことは無かった。隠れても逃げても、結局は誰かと出会い失うのならば……永遠に漂うのも悪くは無い。

 機械しかいなかったユートピアをサルマは、段々と思い出せなくなっていった。

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