第21話・ラモラック

 とうとう終わりを告げるアラームが鳴り響いた。


 航路算出完了。賊にも妨害されず、かつ懐旧連合に近づく経路だ。アンネッタの記憶にある懐旧連合の支配地域との照合も済ませた。

 残りの作業であるエプソの私物とキゼルをルーキーナイト号へと移送する作業も完了。

 本当に別れの時はあっさりと訪れた。



「できる限りのことはしたが、グランパ号が骨董品であることに変わりは無い。万が一の場合はさっさと脱出ポッドを使え。ピューラー一家のコルベットから回収したものを全て入れてある」

「ありがとう、サルマ」

「ううっ、姉御~」

「ViVo~」

「何よ、皆して。今生の別れかも分からないし、決まっていたことでしょう? ならせめて、笑って別れるとしましょう」



 そのような発言がアンネッタから出ること自体がおかしいだろう。徹底した効率主義も、エリート意識も、この短い間に消え去ってしまっていた。

 この時代に良いことなのかどうかは分からない。だが、確かにアンネッタは変わった。人間的には成長したと言っていい。ただ、それを社会が必要とするか分からないだけで……



「できるだけ目標宙域に近づいた。ここまでだ」



 外には宇宙活動服を着たサルマが浮いている。思えば、アンネッタにとって生命を救い、精神を変えた男だった。



『ねぇ、サルマ。映像をこちらに直結してくれる?』

「何だ、一体……っ」



 ガラス越しならぬモニター越しのキスが、与えられた。それだけが贈れるものであるかのように。



『また、会いましょう。立場は違っても、貴方の敵になれる存在なんて無いと私は知っている』

「そうだな。俺も、もう一度……そう信じてみよう」



 一瞬にして最初の睦み合いが終わると、アンネッタの船は虚空へと消え去っていった。

 

 さて……彼女の言を裏切るようで心苦しいが、始めるとしよう。


 サルマは後方に置いていた、ガレスのコックピットに乗り込む。そして、矢継ぎ早に設定を整えながら言葉を吐き出した。



「エプソ。感傷に浸るのは後だ。ゴロー、送っておいたファイル通りに行動してくれ。アンネッタの航路と同時に算出しておいた座標だ。そこで合流しよう」

『え、え、え、!? じいさん一体……船が勝手に動いて……!』



 サルマは応えない。ルーキーナイト号はただのフリゲート艦ではなく、素人が一人で操縦できるような思いやりなど全く無い。

 ゆえにオートパイロットで宙域をわずかに・・・・外れていく。



『ViVi……』

「要らん心配だよ。ちょっと古い友人に会うだけだ」



 ゴローの本体も飛び去っていく。

 そして次の瞬間……状況は一変した。


 一瞬の間に何度もガレスが消えては現れる。そして、衝撃がサルマの体を揺さぶる。

 何もないはずの宇宙空間において、わずかではあるが波紋を発生させるのは連続ワープによって引き起こされたひずみだ。


 的確に謎の衝撃を受け止め続けたサルマの視界に、ようやく相手の姿が見える。二体のドールが槍と大剣を噛み合わせて、膠着状態を作り出したのだ。

 そのドールには金の装飾がふんだんに施され、ガレスをより豪壮にしたかのような外見をしていた。



「ラモラック……! 中身は前のままだな! そうだろう、モットラー!」

『ハッハァーっ! 何年ぶりだぁ? 久しいな、サルマぁ!』



 ああ、その声も姿も昔のままだ。

 懐旧連合など関係ない。サルマ自身の過去がかつての味方を引き寄せるのだ。

 アンティークドール・ラモラックとその操者が、昔の同僚であるサルマの前に立ちはだかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る