第22話・偶然弾丸

 もし、この場に技術士、あるいは歴史家も……居合わせればこの戦いは歴史に残ったかも知れない。しかし、片田舎で行われることに当事者達は意味を見出したのだから仕方もない。


 宇宙の片隅で史上初のアンティーク・ドール同士の戦闘が続いていた。


 ラモラックの超音波振動剣が唸り、ガレスのランスはそれを受け流す。そして、互いの火器が火を吹くと同時に、ショートジャンプで距離を歪めて離れる。

 呆れるほどに壮大かつ単純な戦闘だった。見かけは派手でも、その繰り返しになってしまうのだ。



『時空滞留発生。危険域。過度のショートジャンプは危険を伴います』



 全く同時に双方のコックピットから響いた素っ気ない音声に、互いに舌打ちする。取る行動も同じ。無尽蔵のエネルギーに物を言わせた超高速移動を封じて、通常の速度で激突した。



「わずらわしい。鬱陶しい。ラウンズ級同士で戦うなど不毛だし、やってられん。モットラー、これはお前の意思か? それとも命令か?」

『ンハハハハァ! 両方と言ったところかな? それにしても、腕が鈍っておらんようで俺様は心底安心したぞ。こちらもコールドスリープから目覚めたばかりだ。ちょうど良かろうよ!』

「なめるな。馬鹿が」



 嫌悪感を吐き捨てるようにサルマは毒づく。先程のアンネッタとのやり取りは何だったのか。どうしても、かつての仲間と戦わなければならないのか。

 両方という言葉の意味はサルマにも朧気ながら理解できる。モットラーに与えられた任務は不安要素の排除だろう。ガレスは充分に危険であり、また特殊機能がわれていない。破壊できるかはともかく、足止めはしたいのだろう。



「流石に殺されたくは無いが……このままでは負けるな」



 モットラーがサルマに対して、生きたままガレスを破壊するような気遣いができるとは到底思えない。昔からそうだった。何だってこんな豪放磊落な馬鹿が儀礼兵にいるのか当時からさっぱり分からなかった。

 

 それはともかく、ガレスとラモラックでは相性が悪い。

 あえて分類するならバランス型に白い両腕という奇手を潜ませているのが、ガレスだ。秘匿機能以外に突出した能力が無い。


 対して、ラモラックは機体だ。豪壮なる騎士の風貌は、チュノッサ連合らしい装飾の下には確かな実用性が込められている。

 一枚分厚く見える装甲だが、それは許容量の増大と機体保全機能が渦巻いていた。動力源は同じでも、ラモラックはガレスより速く、そして力強い。


 事実、ドールのつばぜり合いという奇怪な光景にも変化が訪れている。徐々にガレスが押し負けているのだ。

 そして、この近接戦闘という選択はとても正しい。ランスが銃を兼ねているガレスから攻撃の選択肢を奪い、牽制できる。同じアンティーク・ドールである以上、ガレスのヴォイド弾を受ければラモラックもただでは済まない。



『ハハハァ! お前のことだ。何かしら手があるのだろうが、時間切れだぞぉ! こっちは役目を果たした。あとは楽しむだけよ!』

「……! おい、こっちはセンチメンタルに別れた後なんだよ。ふざけるな! 楽しいというなら、容赦なく潰してやる!」



 それが例え同胞であっても。我が自由を阻むというのなら是非もない。ガレスの白き腕が輝こうとした瞬間……ラモラックが突然、体勢を崩した。



『爺さん! おおぉ!? 爺さんから離れろぉ!』



 避難したはずのエプソのキゼル・ラムダによる射撃がまぐれ当たりしたのだ。そして、それを見逃すサルマでもない。

 白き腕は再び輝きを収める。後で説教と礼を言わなければと思いつつも、サルマはランスの先端をラモラックに向けた。

 つばぜり合いが解ける一瞬、虚無の弾丸が放たれてラモラックは両足を喪失した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る