第8話・コンテナの中身
一方、カクテル・カルテルもまた問題を抱えていた。
それは母船役となる
確かにカクテル・カルテルは真っ当な組織へと変わっていた。過去のように甘い汁を隠れて吸う集団ではなく、前へと堂々たる前進を見せている。
それは吸収された軍人達が念入りに進めた改革の成果であったが、同時にマトモな宇宙海賊達を残さなければならないことになった。
それはまず、第一に必要な人数を保つため。安全性を保つなら……例えば
ゆえに軍人たちはカクテル・カルテルを掌握しながらも、全てを排除するためにはいかなかった。どんな勢力が宇宙に広がっているかも分からない。現にカクテル・カルテルはサルーゾ懐旧連合という相容れない外敵と出会ったこともある。
幹部は海賊側に気を遣う必要があった。それが
「大佐。先日の戦闘によって発生したデブリ帯にて、エンジン音を検知……動いています。音とレーダーの反応を見る限り、フリゲート型です」
「停戦命令」
「既に出しましたが、応答なし。……いえ、待ってください。武装タレットを起動しています。戦闘の意思があるようです」
「この状況でか? フリゲート一隻で? これだから懐旧連合という連中は!」
明らかなる決めつけであったが、この時に件のフリゲートを操縦している人物を考えれば的外れではなかった。
真っ当な軍人である彼らには理解できない行動が、この時幾つも進行していた。それは彼らの内側にも存在していた。
「大佐。ホッパー隊も反応を掴んだようですが……その……全力で排除するつもりのようです。自分の言う“全力で”という意味合いに説明が必要でしょうか?」
「いらん。マンハントのつもりなのだろう。ふざけおって……こんな行動にさえガス抜きを求めるか……」
ダークグリーンの制服を身に纏った者達に囲まれて、船長席を預かるヨムザ大佐は苦虫を噛み潰したような表情をしていたが、積極的に止める気はなかった。この時点までは。
/
スクリーンに映し出した女史の顔を見ながら、サルマはカーゴ内に秘蔵されていたコンテナに乗り込んでいた。それはどう見ても操縦席で、サイズからは戦闘機のように思われた。
「女史。フリゲートの使い方は分かったか?」
『アンネッテ』
「はぁ?」
『アンネッテよ。私の名前』
「……了解した。アンネッテ女史。動かせそうか?」
『ゴローと二人でなんとかね。ルーキーナイト号ってコレ、操縦士二人乗りじゃない。一人で動かしてたとか、少し引くわよ。ゴローの無人フリゲートと動作を連動させた』
本来は十人乗りだ、という言葉をサルマは飲み込んだ。ゴローがいるのだから問題は無く、女史もかなり優秀なようだ。
「ルーキーナイト号は標準のフリゲートより遥かに出来が良い。追ってくる敵が追いつくことはない。ある程度、敵を引き連れて花火が上がった時にショートワープを繰り返して、隣の
『ポジティブ。たまには貴方を信じるわ。コンテナ投下、用意』
「ポジティブ。誰も知らない楽園のために」
ああ、自分はもう帰れない。
安らぎに背を向けて、サルマは優しく落下した。慣れ親しんだ空気へと向かって落ちるのはまるで堕落のようだった。
/
カクテル・カルテルの正当なる海賊達は敵をなぶり殺すつもりであった。食い扶持が手に入れるなら頭を下げることができる者達であったが、日頃の規律にはうんざりしていた。
機体速度の差で生じる編隊の乱れを気にせず、コルベットとファイターのみで突撃を敢行する。
目標が確認できる距離まで来た彼らは、敵から射出された箱を目にした。それは棺桶だった。
困惑はするが、壊せば気持ちがいいだろうという感情に基づいて。武装を起動させる。
ガトリングパルスレーザー砲が回転を始めた瞬間、海賊達のファイターが爆散した。
「……なんだ、アレは」
最初の攻撃目標に入っていなかったから助かった。コルベット艦の船員達は目を疑った。
人だ。いやサイズが違う。人型だ。
「ドールだと? 馬鹿な、建設重機にこんな性能……!」
続いてコルベット達も全滅した。あり得ない一瞬での勝利を、ああまたかと見やってサルマは呟いた。
「ラウンズ級アンティークドール・七番機、ガレス。戦闘行動を継続する」
他の連中が残ってるかは知らないが、癖で昔のセリフを呟いたサルマは自分に対して顔をしかめながら、行動を再開した。
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