第12話・ちょっとした昔話

 タランノリージョン・Ie04ソーラーシステム恒星系・第4惑星。サルマたちが通信波を観測したのはこの惑星である。

 ルーキーナイト号とゴロー本体の融合船はこの星の周回軌道へと入ってから、2日ほど過ごしてみたのだった。それはこの星に統治体系があるのかという確認と、外敵への備えがあるかを確認するためであったが、どちらも反応が無い。

 通信も大小問わず、地上における活動に使用しているようで、ルーキーナイト号が探知したのもそれのようだ。宇宙と連絡を取るためのモノを本来の用途で用いないということは随分な閉鎖社会のようであった。



「管制室みたいな存在も無いようだな……宇宙から侵入し放題だ。アンネッタ女史、地上の様子は?」

「街らしきものが幾つか。というよりは街の廃墟を使って生活してる感じね。雑多で無秩序、イライラするわ」

「ふん、スラム街のようなものか。あるいはそれこそガラクタ市か。商業活動が盛んそうな位置を通信頻度で特定して、離れた場所に降りるぞ」

「大気圏突入は可能なの?」

「腐っても俺のガレスを運ぶために作られた船だ。というか、2大連合時代でも最新鋭のフリゲートだったんだから単独での突入も離脱も出来ないわけがあるまい。ゴローの方はそもそも無人だしな」



 懐旧連合のエリートなどと意気込んでいた自分はバカのようだな、とアンネッタは思う。目の前で操縦している男は未だ追いつかぬかつての王国の精鋭中の精鋭。自分とは比較にならないのだ。



「降りるって、どのあたり? アンカーマーカーを付けるわ」

「街から100㎞ぐらいは離れてくれ」



 そこから我々はどうやって街に行くんだ。議論が始まり、降下したのは1時間ほど経ってからのことだった。


/


 そもそもすぐには街へと向かわない。という簡単なことをアンネッタが気付かなかったことを、サルマは些か不思議に思った。

 大体、このあたりではガラクタ市に似たモノが開かれるという。つまりは彼らは流れ着くデブリなどを商品にしているのだろう。200年前の代物とはいえ、技術が衰退した現代にあってはサルマのルーキーナイト号など垂涎のお宝になるだろう。ならば自衛の策を一つでも講じて置かなければならない。



「とは言っても、セーフティは当然あるがな。ガレスに至っては俺がいないと起動すらしないし……ゴローの体はそもそも人が乗れるようなものじゃない。破壊を防ぐための自衛機能をオンにすればいい」



 岩肌の上に雑多な部品を広げながらサルマは言う。アンネッタはサルマの口数が増えたように感じながら、サルマのプライベートを全く知らないことに気付いた。

 アンネッタ自身も私的なことは話していないが、実のところアンネッタは私的な事情というものがほとんど存在しないために、語ろうにも語れなかった。

 


「じゃあ、なんでこんな場所で作業をしているの?」

「アンネッタは時々頭がひどく悪い状態になるんだな。まず、自分の身を守る武器の作成。それとお前の船に欠かせない部品をリストアップしてから、要らない部品を持って市場に行かなきゃならん」

「……そこがわからないんだけど」

「血の巡りが悪いやつだな。辺境の地で自給自足をして時間が経っている連中だ。お前たちの支配領域なら色々選択肢はあるだろうが、ここは十中八九物々交換で成りなっていると推測できる」



 そんなことは想像していなかったという顔をしたアンネッタは、サルマに対抗するように向かい合って座った。しかし、エンジニアではないので出来ることがまるで無い。

 しばらくするとゴローの地上用端末が現れて作業に加わると、アンネッタはさらに惨めな気分になった。己はこの二人より劣っているという意識が湧いてくるのだ。



「私ってなんだか役立たずね」

「気にする必要はないぞ。ゴローはライブラリから情報引き出せば何でもできる。人間が機械に勝てるわけもない」

「あなたのことよ」

「俺? ああ、まぁ……慣れてるからな」

「慣れてる?」



 サルマ・ササキは元エリートである。その認識に誤りは無い。旧2大連合時代に活躍し、不老処理を受けて今の時代まで生き抜いてきている。そんな男にもガラクタいじりが慣れるような時期があったのだろうか?



「俺の家は裕福とは言えなかった……ああ、勘違いするな苦労自慢とかじゃない。確かに貧しかったが父母は不器用ながら努力し続け、不平をもらすことも無かった。俺も当時は口数が少なかったから、傍から見ると不気味な家族に思われていたらしいが……いい人たちだったよ。子供ながらに家計の助けになれることは無いかと考えて、実行したのが治安の良くない区画でガラクタを売り買いすることだった……という流れだな。まさかここで役立つとは思わなかったが……」

「ふぅん……」



 珍しい流れだった。少しは心を開いてくれているらしいサルマの話を子守唄に、気づけばアンネッタは眠りに入り込んでいた。

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