第13話・トラブルメーカー

 サルマとアンネッタ、そしてゴローは雑多な人波をかき分けて進んでいた。

 地面は岩と砂でできており、舗装されている道など無いだろう。未開というよりはそんなことに労力を割くのは御免こうむると言ったところか。

 地理的に見て辺鄙な星だと一行は判断していたが、予想外に人が多い。


 巻き上がった埃が絶えず顔にまとわり付くため、アンネッタは布切れを顔に巻いている。懐旧連合の制服を脱いで、体にピッタリとしたインナースーツをサルマから借りた男物のジャケットで隠していた。露わになれば、さぞここの男衆の目線を釘付けにするだろう。腰に帯びている鉄パイプを重ねたような奇妙な代物だけは興ざめであった。

 サルマは普段どおりの姿だが、長い何かを包んだ物を肩にを担いでいる。通りすがっていく人の中には奇妙な目で見られていた。



「……それって一体なんなの? 旧時代の兵装とか?」

「似たようなものだな……包みから出す機会なぞ無いことを祈るね。お前に渡した小さいのもできるだけ使うなよ。街中で使えば死屍累々といったところだ」



 アンネッタが持っている不細工な棒は武器だ。収集したデブリにあった船のパーツで作られているのだが、使いどころが限られる。

 それは威力が大きすぎるからだ。戦闘用艦艇のレーザーセンサーとビーム砲の発振器からでっち上げたものだ。要は単に光を当てるだけの代物だが、人間サイズを標的にするには出力過剰だ。

 人どころか一般的な建造物なら。サルマは技術者としては所詮素人に毛が生えた程度であり、適切な威力の兵器を作ることはできなかったのだ。



「ごちゃごちゃしてはいるが、無法でもないようだな。顔役でもいるのか……思ったよりも平和そうだし、使う機会が無さそうで……無さそうで……」

「なによ?」

「……ゴローどこ行った?」



 先程まで布を被って浮遊していたゴローの小型端末の姿が見当たらない。これにはさしものサルマも狼狽した。



「まずい……もうまずいとしか言いようがねぇ……」



 普通のドローンは戦闘モードへと人間が入れ替えなければ人を害さない。しかし、あのドローンの住処にいた連中はすべての制限を解除されている。

 自己改造、自己修復、思考優先順位……ドローンを道具たらしめる要素が全て撤廃されている。

 さらにマズイことに、ゴローにとってもっとも多く接した人間はサルマである。アンティークドールの操縦士として徹底的にされたサルマだからこそ、ゴローのツッコミや殴打が冗談で済んだのだ。


 もしゴローが日頃の態度そのままで、凡人にマニピュレータで殴ろうものなら……大穴が空く。



「さ、探さないと! うっかり忘れてたけど、完全に違法な存在だったわ! そうでなくともバラされてパーツで売られたりとか……!」

「先行する! スマンが、自分の身は自分で守ってくれ!」



 サルマは足に力を込めて跳ね上がった。10メートルほどの高さまで到達して、2階建てのバラック小屋の屋根に飛び乗った。

 見た瞬間は面食らったが、アンネッタも伊達に非常識なサルマと数ヶ月過ごして来たわけではない。


 手作りのホルスターのボタンを外して不格好なレーザーライフルをいつでも撃てるようにしながら、叫び声を送る。



「人混みの中に巻き込まれているかもしれないから、私は地面から探す! 上は任せたわよ! 見つけたら、コレを上に向けて撃つわ!」

「頼んだ! 人に当てるなよ!」



 アンネッタは人混みを無理にかき分けながら進む。心は焦っていたが、その顔は笑っていた。

 “頼む”……仲間たちから中々聞けない言葉だ。競争意識と承認欲求の両方を見せながら、アンネッタは突き進んだ。

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