第11話・手探り

 ヨムザ大佐は艦内の艦長室ではなく、私室にいた。私室と言っても物置と変わらない無機質さの四角い空間だ。素っ気ない金属製の机に椅子、寝台があるだけだ。

 椅子に座ったヨムザは真剣な表情で目の前にある透明なスクリーンと向き合っていた。そこに表示されているのは黒いヘルメット姿だ。



「……いかがでしょう?」

『君の想像通りだ。君たちが遭遇したドールは、“円卓の騎士”のうちの一つ。白き手のガレス。テレメトリ機動パターンを解析したところ、中身も変わっていない』

「意外でした。このような地で、いえ、そもそも生きているとは……夢にも。議長はあまり驚かれていないようですな」



 議長と呼ばれた男は映像の中で大仰に手を開いて見せた。全身が黒い甲冑で覆われているようだった。



『驚いているとも。あのサルマ・ササキがそんな辺境で200年もくすぶっているなどと、私に言わせれば有りえんよ。ああ、機体に関しては全く驚く要素は無い。我が“ライオネル”や、まだ行方の掴めない“ギャラハッド”などは自動修復さえする。“ガレス”が同じというのはあり得ることだ。あの機体の腕に関しては私も知らない機能があるようだったからな』

「追跡しますか? 味方になるには出会いが最悪でしたが……」

『追跡はするが、接触はしない方向で行きたまえ。彼の性格からすれば組織に対して牙を剥く公算が大きい。かといって友を殺すほどには私も人間を辞めていない。軽蔑するかね?』

「いいえ、上司が人間的であることは時折大いなる救いとなります。どのみち調査艦隊でアンティークドールを相手取るのは無理がありますから、破壊せよと言われても困ります」

『君なら不可能では無いだろうがね。それにしても時折、というの手厳しいな。では帰還を待っているよ」



 画面が消え去り、ヨムザは手を組んで瞑目した。脳内で幾度も模擬戦闘を繰り返す。ガレスと本格的な戦闘を行えば破壊できる確率は60%を超える。だが艦隊の被害は70%近くなる。全滅というよりは壊滅だ。

 ヨムザは指令通り、この地の確保に専念することにした。


/


 どうやらカクテル・カルテルとは鬼ごっこをしないで済んだようだ。そう考えたサルマはアンティークドールから降りて、船外活動に従事していた。

 破損した右スラスターの電子回路、その外側を修理するためだった。だが、専用のスーツすら着る必要がないドローンのゴローがいる限りはサポート役で済みそうだった。

 戦艦クラスのイオン弾頭が掠った部位はそもそも完全に治すとなると、専門家に任せる他はない。サルマとゴローはスラスターの射出口をようにした。その後で直進以外の方向に向けられないよう固定することを選んだ。

 方向転換はゴローの本体に任せれば良い上に、最悪アンティークドールで押せばいいのだ。


 さて、これからどうするか。カクテル・カルテルはサルマ達を追わないことを選んだだけだ。暴れたガレスは既にデータに登録され、再会すれば戦闘ではなく粘着質な追跡をしてくることは目に見えていた。

 前世代の異常な高性能機をわざわざ相手取る必要は無い。付かず離れずすれば、一種の兵糧攻めとなって、組織であるカクテル・カルテルは勝手に勝利する。



『ねぇ、サルマ。これからどうするの?』

「修理できる場所を探す。それと拾ったパーツとどっかのジャンクでお前の船をでっち上げる。お前さんを懐旧さんとやらに帰したら……またどこぞの田舎を探すさ」



 通信されてきた声にサルマは作業しながら答えた。実のところ、サルマは懐旧連合の支配域に近い地域までは同行するつもりになっていた。

 宇宙の勢力図が乱れに乱れている現状で、アンネッタを放り投げればすぐに天に召されるだろう。

 昔の海賊組織とは違う、通り魔めいた海賊船が横行している可能性が高いことはサルマにも想像が容易だった。今更途中で死なれると後味が悪い……と思うぐらいにはサルマの人間性は回復しつつあるのだ。



「幸い、カクテル・カルテルがここらを征服したと言えるようになるまでには時間がかかる。ぶっちゃけ、田舎過ぎて急いでいないだろう。人がいる惑星あるのかな……」

『それなんですが、近隣のソーラーシステム恒星系で通信波が観測されています。内容までは不明ですが……行ってみましょうか。ガラクタを拾いながら』

「了解した。ドローン星に別れが言える通信装置もあると良いな」

『Vi!』



 ゴローはどうやら当て所ない旅に同行する気らしい。その純朴さを羨ましいとサルマは思う。先日の長距離狙撃……どこかで聞いたか見たことがある。それを考えると過去のしがらみから逃れる術は無いのかと、サルマは憂鬱になるのだ。

 サルマはルーキーナイト号へ、ゴローは本体へと戻った。

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