第16話・ギャングスターはもういない
物体が放たれた少し後に、音が鳴る。しかし、その物体も対象に当たる前にどこかへと飛び去っていく。皮肉にもそのあらぬ方向への飛行速度は放たれた際の速さを上回っていた。
「今度は火薬式の銃か。凄いな、アカデミー時代の博物館でしか見たことがない」
「呑気言ってるんじゃないわよ! 貴方は平気だろうけどこっちはアレでも死ぬわ!」
さて、これで何度目か。古い船を修理すると言っても時間がかかる。最初は全員で取り掛かっていたので、もっと早く終わると思われていたが……途中から妨害が入るようになった。
追い払ったピューラーさんご一家が、面子にかけて襲ってくるのだ。加えて、こちらが物資を持っていけば、ガラクタ市はたたき買おうとして、買おうとすればふっかけてくる。
どうやらピューラー一党は古式ゆかしいギャング的な存在らしい。
「ぶっちゃけ、ピューラーさんとやらを直接叩けば話はつくんだろうが……余計な禍根を残すのもなぁ」
「もう十分なぐらい残っているわよ! 本音は!?」
「俺らを撃退できずに面子を失ったピューラーさんが、どうなるかを想像すると面白い」
「性格悪いのよ!」
怒りの矛先は敵へと向かう。アンネッタは十分にサルマに毒されていた。元の勢力に帰っても、満足な生活ができるかも怪しい。
レーザーマーカー転用銃はろくな防護服を持たない襲撃者へと向かった。銃だけを狙ったつもりでも、持っている腕ごと消えてしまうのは致し方ないだろう。
「というか、射撃うめーな懐旧さん」
一方のサルマは生きた理不尽だ。なにせ本当の意味での人間兵器。技術が衰退した狭い世界では圧倒的覇者だ。
手に持つのは装飾が施され、地球時代のメイスを模した儀礼用スタンロッド。だがスタン機能は使わずに、襲撃者の腕だけを粉砕する。
叫び声をあげて逃げ出す男達を責めることはできない。アンティークドール計画のために改造された生体サイボーグは特注中の特注。
本来の陸上兵器を相手取ることを想定して設計された存在を前に、白兵戦で勝てるものなど、かつてですらそうはいない。
アンティークドール計画は予算度外視なため、科学者達は夢のようにありったけを注ぎ込んでいる。
その結果として、サルマは厳密な分類ではもうヒトという種族ではないほどだ。彼ら儀礼兵達を厭世的や破壊力信奉者にさせた原因でもあったのだが。
「……終わった? これ、いつまで続くのよ!」
「そろそろ終わりだ。相手さんがなけなしの高級品で攻めてきたら、そこで終わり。哀れピューラーさんは地元の求心力を失う。事実がどうだろうと、攻めたら勝てるかもと内部に思われれば、組織は保たない」
会わずに終わるが、おそらくピューラーという人物は傑物の類だったのだろう。そうサルマは推測している。
かつての二大連合時代のように超が付く巨大組織は一つの生き物のようになっており、かなり自動的に動く。最高権力者であっても、歯車の一つに過ぎない。
一方でピューラーのような小さな組織の方が、保つのは難しいものだ。常に他者と違うということを、見せつけ続けなければならない。
小さなトラブルから、サルマという超人へとつながってしまったことが彼の不幸だ。そのことに対してサルマも思うことが無いではないが……少し悩むとすぐ忘れる。
なにせサルマはあり得ないような爛熟期の生き証人。天才や英傑など、掃いて捨てるほどいると知っている。自分も客観的な評価ではそれらに分類されていたが、同じ地平に立つ同僚が死んでは補充される様子をまだ覚えている。
「まぁ、あんまり侮らない方が良いか。いざとなれば船の装備で粉砕する。とりあえず今日は補修を手伝おう。操縦系の機材とか意外と詳しいんだよ俺」
「それはそうでしょう。脳に何本挿してるんですか」
「知らん。当時は疑問とも思っていなかった」
二人は夕焼けを背に、手をふるエプソの方に向かう。
何にせよ、戦いよりは機械いじりのほうが建設的に思われた。
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