第15話・仲間を加えて

 装備である装飾付きのメイスを布袋で隠しながら、目の前の威容をサルマは複雑な目線で眺めた。その横で追いついたアンネッタが、汗を拭った後に同じものを見た。



「錆びてる? これ、いつの時代のドールなの?」

「ナノスキンが一般化する前のドールで、それまではカライザ共同体の傑作機とされていた」



 サルマは頭の一部をぐりぐりとねじ込んだ。インプラントを通して、記憶が刺激される。バイオコンピュータと化した脳みそからデータをひねり出す。



「ああ、思い出した・・・・・。キゼルシリーズのラムダ……11型だった。当時でもすでに老朽化して、地方警備に就いていた。個人的感情を抜けば、いい機体だ」

「個人的感情?」

「俺がコイツを何機ぶち壊したと思う? それが今や、敵でなくなっている。となれば俺がしたことは何だったのか……そう、この老人は悩んでいる」



 不老化処理し、改造された人間にとっては敵でも味方でもなくなった存在に困惑するしかない。サルマも生きた兵器として、思うところがあるのだ。

 サルマが次にこめかみを押して、注目した。



「へぇ。コイツは凄い……まぁ素人に毛が生えた男の見る目でだが……」

「凄いでしょ! アタイが選りすぐったパーツで整備してるんだ! 貴方もジャンクに興味があるのね。仲良くなれそう!」

「Vi~~~」

「そうそう。ゴローとはもう友達!」



 コイツ、俺とは随分と違う対応じゃないか? もしかすると美的センスも人間に近くなっていて、気風の良い少女と俺で扱いに差を付けていないか?

 サルマはそう考えたが、口には出さなかった。しかし、ゴローは見透かしたようにViViと笑う。


 それにしても少女のメカニックとしての腕は相当に大したモノだった。サルマの視界は脳内のインプラントを通じて、データ表示化することが可能だ。

 それによるとこの機体の稼働率は75%ほど。兵器としては落第でも、動くには動く。それもごちゃまぜの部品でだ。

 世が世なら天才ともてはやされていても、おかしくはない。トラブルと一緒に幸運も着いてきたらしい。



「まぁ……妙な縁だが、よろしく。俺はサルマで、コイツはアンネッタ。訳あってこの星に降りてきた。まぁ旅人だな」

「アタイはエプソ。この家の主人。訳って?」

「アンネッタは生きたジャンクで宇宙に漂っていたところを拾った。コイツを帰すために船を一隻でっち上げようと思ってな。心当たりはないかな?」



 ジャンク扱いされたアンネッタを尻目に、サルマはさっさと話を進めた。ジャンク……使われなくなったモノ。ならば自分が一番のジャンクだという自虐から逃れるためだった。



「船? なら、裏庭に良いものがあるよ!」



 切り替えも早く、駆け出したエプソに一行は続いた。

 そして、見た。一隻のボロボロの船がそこに鎮座していた。再びサルマは視界を変えて絶句した。その船はサルマより歳上であり、それでいながら空を飛ぶ程度には機能が残っていた。



「こんな幸運ってあるの?」

「あるだろ。俺がお前を見つけた時の確率よりはずっとな。問題はこれをどう譲ってもらうか……後は修理の手間だけだな」

「購入はお金じゃなくてもいいよ!」

「……ああ、なんとなく流れがわかったよ」



 いつの間にかゴローの上に鎮座したエプソが浮遊して近づいてくる。その顔はいたずらっ子の顔であり、名案を思いついた顔でもあった。



「アタイも一緒に連れてってくれよ! ゲストじゃなくても良い! というか、宇宙行ける機会なんて、これを逃したら絶対無いね!」

「事情説明しやがったな、ゴロー……」



 しかし、それも納得のいく話ではある。ここではないどこかへと行ってみたい。その欲求は常に人類に寄り添い、結果としてこのような星にも住むようになったのだ。

 二大連合時代の終焉ですら、いずれはただの歴史に成り果てるだろう。不老の者達はその生き証人となれる可能性もある。



「まぁ良いか。実際、嬢ちゃんの才能ならマニュアルだけでも、俺の腕前をサクッと超えるだろうしな。アンネッタを帰したら、3人でジャンク屋でもやるか」



 サルマも男だ。ガラクタ集めという少年的欲求は未だに枯れていない。

 同様にエプソも未知の技術に焦がれているのだろう。



「家に思い入れとか無いのか?」

「そりゃあるけど、もう家族もいないしさ。街のチンピラにもうんざりしていたところだったんだ。それに、一度くらい大冒険してみるべきだよねー」

「また偉くさっぱりしたやつだこと」



 瞬発力で生きているようなエプソは既に話が決まったかのように、ドールへと乗り込んで、ボロ船を牽引し始める。

 その精神性。サルマは自分が遠い昔に失った何か眩しいものを見た気がした。

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